企業法務マン迷走記2

 大船ならぬ「酔っぱらった船」に乗ったかのような企業法務担当者の日常


企業品質問題と「ムラ社会」

 カレンダー企画の質の高さに慄きつつ、いつも通りのエントリーで。

 BLJ2019年1月号「【実務解説】2018年の不祥事を振り返る BtoB企業の陥った品質問題とムラ社会のハラスメント問題」を読んでつらつらと。
 今年ほど製造業の品質問題が続いた年はないのではないかと思いますが、本稿にあるように「今年発生した」のではなく「今年発覚した」というのが正しく、マスコミに嗅ぎつけられ糾弾される前に我先に公表に動いたきらいもあります。2007年の改正消費生活用製品安全法施行の際にリコール公告で新聞の社会面の下半分が埋まった頃を思い出します。あの時も所管官庁が「消費者保護」に舵を切ったのが契機だったのですが、一連の品質問題が「最終需要家に対する背信行為」と受け止められているなら、根にあるのは「消費者保護」と同じと思いますね。
 本誌の記事では「ムラ社会」は主にスポーツ団体のハラスメント問題に紐づけていますが、企業の品質問題も「ムラ社会」と決して無関係ではないと考えています。
 そもそも企業と「ムラ社会」の集合体ではないかと思うようになりました。「人事ムラ」「経理ムラ」
「製造ムラ」等など(怒られるかな)。

 それはともかく。

 製造業の工場は地方にあること(都市部ではない)が多く、工場進出の際にもともとあった「地域社会」を丸ごと取り込んでいることが多いでしょう。親子で、親戚で同じ企業の工場に勤務することはそう珍しいことでもありません。都会の大学を出て工場に配属された人間が地域の女性と結婚し地域社会の一員になることなどざらにあります。工場は工場長を頂点にした階層構造で指示系統が明確になっているはずなのですがそこにまた地域社会の人間関係などが組み合わさることもないわけではありません。現在は昔ほどかはわかりませんが、地方で上場企業の工場長ともなれば土地の名士のような存在であった時代もありました。(黒塗りハイヤーで通勤なんて時代もあったのです。)
 会社も地域社会も「一心同体」の世界で、仮に不正に気づいたとしても告発なり通報に踏み切れるか。
理屈のうえでは通報者が不利益を被らないようにはなっています。しかしそう簡単な話ではないと思います。転勤族の人間ならともかくその地域で採用雇用された従業員にとっては、会社の不祥事の告発・通報は地域社会に弓を引くようなもの、自分ひとりがその反動を引き受けるのであればともかく家族にまで何かしらの影響があることを考え何もできなくなるのも無理はありません。広いようで狭い地域社会、「自分でなければ誰が通報した」と皆で世間話をしていくうちに、通報者が特定される可能性は高いと思います。
 そんなことはないという方もいると思いますが、「通報したら自分だけでなく、家族がどうなるか」と思い込ませる空気、それが「ムラ社会」だと自分は考えています。過去に「村八分」の事例がありその恐怖が身に染み付き共有されている地域であれば余計にそうなるでしょう。

 しかし内部通報制度に関わっていながら地方の工場における制度の運用にどこか限界を感じているのは、自分が「地域社会」というものの「赤の他人」とレッテルを貼った者に対する無情なところを見ながら育ったからなのかもしれません。
 ではどうするのかというところですが、本社品質保証部門による各工場の監査ということがまず考えられますが、内部監査と連動しないとこちらも「品証村」で決着がつけられてしまう可能性があります。
先に書いたように「通報者」の心理的負担を考えると、内部監査的なもので不正の芽を摘んでいく方法もありかと思うのですが、こちらもハードルは高いでしょうね。
難しい課題ですが、不祥事の早期発見・解消を従業員の「良心」に賭けるばかりというのは避けたいですね。

たかが2割されど2割  Business Law Journal 2019年1月号

 もう来年の1月号かよ、と嘆息。季節感のない人生。

 数年前、某法律雑誌に法務研修に関するコラムを書かせてもらったことがあるのですが、自分で書いた内容がそのままブーメランとなって背中に2、3本突き刺さっています。さらにその刃をズブズブと深く刺し込むようなBLJの特集記事です。

 「法務研修のWAHTとHOW」 。
 冒頭の三浦弁護士(渥美坂井法律事務所・外国法共同)の記事に尽きます。

 法務研修は法務担当者の「アピールの場」「成長の場」でもあることは否定しませんが、それが「目的」ではないわけで。受講者の「腹落ち」のない研修ほど講師・受講者双方に不幸な時間はありません。講師や教材の出来不出来、準備不足(ニーズ、ウォンツの把握不足を含む)によっては「時間泥棒」と謗られても仕方ありません。

 寄稿いただいている各企業の研修プランをみると法務研修に当てられている時間は長くて1日、概ね半日程度のようです。マネージャー研修や販売研修などが泊まり込みプランであるのと比べると「短い」ですね。研修事務局や社内講師を業務としていたこともあるのでいっておきますと、泊まり込みの研修で2日目の朝に前日の内容のおさらいをしてみると、受講者の記憶に残っているのは2割から3割がいいところなのですね。泊まり込み研修であれば2日目に復習ができるのですが、半日から1日の研修ではそれができません。あれも教えたい、これも理解させたいと講師は張り切ると思いますが覚えているのは「2割」なのです。「何を忘れずに持ち帰ってもらいたいか」と考えると、受講者の「腹落ち」が不可欠になります。
 研修カリキュラムの練りこみは当然、さらに受講者の業務上の諸々の情報もある程度必要になると思います。販売研修事務局の頃の話に戻りますが、ある教育コンサルのカリキュラムを導入した際に、同じカリキュラムなのに講師の違いにより受講者の「腹落ち度」に明らかに差が生じた例がありました。コンサルの中でも人気1、2位を競うような講師であっても、受講者の諸々の読み違いがあったのでしょう、結局講師を変えてもらったことがあります。
 我が身に置き換えあたら、本当に厳しい話ですよね。

 じゃあどうすればいいのだということになりますが、法務には法律相談や契約書レビューなどを通じて様々な事業の情報・エピソードが集まっているはずです。それらが受講者に「腹落ち」してもらえるネタ元になると思います。身に覚えがある、どこかで聞いた話というものがカリキュラムに織り込まれていれば、法務研修と聞いて斜に構えている受講者も居ずまいを正して研修に参画するでしょう。自分から参画した研修はきっと記憶に残り職場に持って帰ってもらえる(と、自分はそう期待しています)

 講師の話法、話術の巧拙に研修が左右されるのはいう点も忘れてはいけません。
 少し噛むぐらいはどうということもありませんが、決めのフレーズが「飛んで」しまっては元も子もありません。といって、タブレットやノートに目を落としたままというのもダメです。
マネージャー研修の講師の時は何回もロールプレイングを繰り返しましたし、たとえ1時間の研修であっても前夜ブツブツと一人で練習しています。たかが2割、されど2割。

 最近あまり研修をしていない身であれこれ書くのも気がひけます。背中のブーメランがさらに深く刺さる。

 実務解説「2018年の不祥事を振り返る」は別エントリーをあげます。


 

Xデー

 自動車メーカーの解任劇。陰謀説から盗人の仲間割れのような見出しが飛び交っていますが、所詮報道は報道という印象が強いので(といったら怒られれるかもしれないけれど、最近は特にそう思うので)、違う切り口で。

 良いニュースでもそうでもないものも公表すると決めたら公表日を「Xデー」と設定して具体的な作業を詰めていきます。作業は細心の注意を払って進めるのはいうまでもありません。特にステークホルダーにとって「衝撃的な内容」を含みかつ内密に進めなければならないものは、意図的なリーク以外の漏洩は防がなければなりません。
 仕事は段取り8割だと営業時代からよく上司にいいきかされていましたが公表に関わる仕事はその最たるもの。自動車メーカーの記者会見が用意周到すぎるという声もちらほらありましたが、用意周到が当たり前で、炎上し収拾がつかなくなる会見のほうが問題なのです。
 
 ここ10年ほどで企業広報とりわけ危機管理に関する書籍や情報の数は増えました。記者会見までの準備、記者会見当日の諸注意などそれらを読めば、ひととおりのことは理解できると思います。メディアトレーニングを受ける経営陣も増えたのではないかと思います。
 しかし「公表」の矢面に立つのは経営陣や広報担当者(ときに法務担当者)ばかりではありません。
営業担当者、購買担当者、コールセンター、ときには代理店特約店の担当者も矢面に立つのです。
「公表までの段取り」は当然ですが「公表後の段取り」も重要です。特に㊙︎事項で従業員に対してですら「公表日」 まで伏せていたという場合はなおさらです。こういうと語弊があるかもしれませんが、報道記事はメディアにとって「美味しい部分」あるいは「理解できた部分」の抜粋です。そうはいっても報道=事実と捉える人が大多数でしょう。報道により動揺、疑心暗鬼に陥るのは販売先、取引先だけでなく従業員も同じですが、自社の事情を社外の関係者に正確に伝えるのは従業員の協力をえるよりないのです。
公表直後に(あるいは直前)に少なくとも主だった従業員には説明し理解してもらわなければなりません。
 公表直後にステークホルダーに説明に向かう役職員の担当振り分け、スケジュールまで決めていく必要もあるでしょう。相手によっては契約に関わる話ももちかけられる可能性もあります。「リスク管理」が法務部門の業務であるなら、「公表」直後にスタートする諸々にも目を配りリスクを潰しておくことでしょう。「公表」だけでも大変な業務でそこまでで関係者は気力体力を使い果たしがちですが、そこからが正念場。「Xデー」は完了日ではなく、スタートの日でもあるのです。

 苦しんだリコールの記憶も10年以上経つと細かなところはおぼろげになってきました。
「へえ、知っていたんだ。そりゃ、そうだよね。」と社内のあちこちから微妙な感情をぶつけられた企業再編もひと昔前のことになりました。
 備忘のためのエントリー、でした。
 
 
 
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