企業法務マン迷走記2

 大船ならぬ「酔っぱらった船」に乗ったかのような企業法務担当者の日常


正しい会社の売られ方  改めて考えてみる

  「おめでとうございます。」
昨年初夏のある日、証券会社や印刷会社、投資アナリストからの電話が続きました。
といっても株式上場を果たしたわけではありません。
勤務先の二度目の株式譲渡が買主、売主の両方から発表されたからです。

「おめでとう?」 正直なところぴんと来ませんでした。
投資ファンド傘下になって5年、丸ごと上場企業へのバイアウトが成功したということは、対象会社にとって成功の部類だと証券会社の人間から説明されたのですが、
祝辞のあとに「出口戦略としてはまずまずじゃないですか」という科白を続ける人が多かったからかもしれません。

「出口?」
出口戦略、投資ファンド傘下にいる間、経済紙記者や調査会社の調査員からよく問いかけられた言葉です。
対象会社に出口戦略を問われても困る。会社が潰れるか、解散させられるか事業転換でもしない限り、主要事業は続けていくのだから、我々に「出口」などというものはない、それは株主(投資ファンド)のための言葉だと何回も切り返したものです。

それでも上場会社へのバイアウトというのは出口ではないにせよ、ひとつの区切りではあるかもしれない、そのように思おうとはしたのです。が、それでも釈然としない気持が残ります。
なぜか。

それは最初の株式譲渡の際に勤務先が背負ったものが重く、二度目の株式譲渡においてもそれが一気に解消したわけではなく(例をあげれば金融機関からの借入金などですが)まるで顎の骨に埋もれた知歯が疼く、痛むというような存在になっていることを知っていたからかもしれません。

なので最初の株式譲渡、二度目が出口なら入口とでもいうのでしょうか、起点からもう一度考えてみようかと思うのです。
起点..最初の売り方売られ方はこれしかなかったのかということです。

では今日はこれにて。




リコール 一番長かった6月 18

だらだらと3ヶ月もかけてしまいましたが、一区切りつけます。

消費者行政や法制度などについては今後も取上げていくつもりなので今回はふれません。本稿を書くきっかけとなったBLJ7月号「クライシス・マネジメント基礎講座」の記事を読み直しながら、今思うことをぼそぼそと。

■平時の人材、有事の人材
前述の記事で「危機対応の基本的な考え方」で郷原弁護士が「世の中への説明はフォーメーション視点で考える」としてサッカーのフォーメーションに例えて危機対応体制について書かれています。
これに異論はありませんが、品質保証、法務、広報セクションでフォーメーションを組んでいくにしても、所属や立場(職位)だけでは対応しきれないと思います。なんというか、平時向きの人材と、有事向きの人材とでもいいましょうか。一連の対応のなかでみるみるうちに心身が弱っていった方をみていますので、「品質部門の責任者だから」「広報担当者だから」といった理由だけで対応チームの、特に社外と接するパートに配置するのは避けるべきと思います。
適切ないい方ではありませんが「揉め事に出張るのに抵抗がない」という人を対外窓口に選ぶことでしょうね。ただそういう人だけでは当然チームが成り立ちませんから、データ収集や分析を得意とする人やOB社員など過去の経緯をよく知る人などで裏方を充実させることも大切。行政や業界団体とある程度腹をわって付き合える人もチームに加えます。
ただ、短時間でこのようなチームを組めるのは滅多にできないだろうとも思います。有事に強い人材を育成、確保しておけるかどうかが企業の真の実力なのかもしれません。

■業界団体、同業他社との緩やかな繋がり
CSR、法務といったセクションの人間を充てるわけにはいきませんが、メール1本、電話1本で情報交換できる関係を築いておきたいものです。今回もそうでしたが、多数の最終製品メーカーが同一部品を採用していることが往々にしてあるので、どこか1社で重大事故が発生すると、最終的に業界全体で対応することになります。今回のケースでは、広報担当者同士が繋がりをもっていたので、記者会見準備は短時間で足並みを揃えることができました。

■所管官庁や消費者行政機関との接点
定期的に官庁の担当官や消費者行政機関に「相談」を持ち込み、行政サイドの判断基準を確認しておくことも必要かと。行政も世間の評価を気にして、事故や苦情、クレームの措置の基準を動かすことがありますので。また日頃相談をもちかけておくことで担当官が案外親身になって動いてくれるときもあります。

今現在実行できていることとそうでないことがあります。近道はなくこつこつと積み上げていくしかないと思います。また繰り返しになりますが、多少煩がられても、しつこく社内に働きかけていくのが経験者が果たすべき役割なのでしょう。

5年前の6月からの約3ヶ月間は本当に毎日がめまぐるしく動きました。
秋に入りようやく落ち着き、さてにわか法務としてはちゃんと勉強しなければならないなと思っていたところ、次の事件となりました。

次の事件とは「正しい会社の売られ方」の一連の出来事です(笑)

本稿はこれで終わりです。だらだらとした連載にもかかわらず読んで頂いた方に御礼申し上げます。

リコール 一番長かった6月 17

 【リコール会見】

その後の諸々です。
一番多かったのは「求償」です。

過去に遡って製造物責任を認め、賠償請求がある場合は案件ごとに対応する、と公表しましたので続々と求償に関する問い合わせがアフターサービス部門に寄せられました。
これは承知のうえなのですが、様々なケースがありました。

一般的なのは事故被害額と支払われた保険金の差額の請求です。(製品事故とは「火災」です)
しっかりと書類を示してくれる方から、根拠のわからない請求まで含めてくる方までいろいろ。
たとえば
事故の巻き添えで死んだペットの見舞金●十万円(えさ代含む)などというのには困りましたね
ペットは猫だったのですが、血統書つきの猫かと思えば拾った野良猫。だからといって見舞金ゼロというわけにもいきませんが、なぜえさ代まで?と社内打合せはで皆いっせいに脱力しました。説得にあたったアフター部門担当者も頭を悩ませていました。

本当の意味で悩ましかったのは、被害者本人でなくある種の「市民」を間に入れて交渉してくる方。「市民」はきまって某政党機関紙との繋がりを匂わせながらコンタクトをとってきます。その繋がりが本当かどうかはわかりません。しかし、今回のリコールが某機関紙が発端でしたので注意は必要でした。

関わった例としては、損害保険の差額支払いのほかに、被害者本人の名誉回復に尽力せよというもの。
火災事故の火元として実名入りで報道され住んでいた賃貸マンションから引っ越さざるを得なかった。近隣の住民に対してメーカーから説明にまわれという要求でした。損害保険の支払いについてはよくよく調査すると貸主である不動産会社と保険会社との間に不可解な状況があったので、これは損保会社同士の交渉に一任。名誉回復についても、そもそも名誉棄損があったのかよくわからない。ご本人や周囲に確認しても、的をえない..というような状況で。アフター部門から可能な限り近隣の方には説明に回ったのですが、近隣の方はあまり気にしていなかったようでした。そこまですると前述の「市民」の方も納得したようで、以後何のコンタクトもなくなりました。

求償に対する支払のほとんどは会社で加入している製造物責任保険でカバーできましたが、この保険の対象範囲は当該製造販売中止後20年後まで、でした。リコールした時点で19年目でしたから、その翌々年以降何かあった場合は「自腹」となります。製品に瑕疵がある可能性があったら、すぐ手を打たなければならない..とこういう点でも痛感しました。

ともあれ、6月からのリコール対応は秋風が吹く頃には通常のアフター業務で粛々と対応する段階に落ち着いたのでした。

あれから5年経ちましたが、まだリコールは終了していません。
回収率・改修率はともに95%を超えていますが、それでもたまに事故発生の速報が入ります。
一方で社内で当時の事を知る人が少なくなってきています。
何らかの形でこういう事例を語り継いでいかなねばならないと改めて感じます。

次回でこの項を終わらせます。
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