企業法務マン迷走記2

 大船ならぬ「酔っぱらった船」に乗ったかのような企業法務担当者の日常


 いろいろと議論がヒートアップし、そしてやや鎮まった「企業法務」論。
空中戦を下から見上げていた、というのが正直なところ。
 ビジネス法務10月号で「一人法務の心得」という特集が組まれるあたりが「企業法務」の現実の一面だろう。ただ本特集の執筆陣の顔触れや職歴を拝見しやや偏りがあるように感じた。もっともこれは編集部の取材や執筆依頼に応じることができた企業だと理解しておく。

 企業の一部門あるいは一つの課や係である以上、「法務」も所属企業の置かれた状況に左右されるのはいうまでもない。法務が単独の部門で置かれるか、管理部門の「部」なり「課」にぶら下げられるか、あるいはそもそも「課」でも「係」ですらなく、総務部や経理部の誰かに株主総会や取締役会、変更登記にかかる業務や契約管理、債権管理といった業務を兼務させることにとどまっているかもしれない。日本の企業の大部分を占める老舗の中小企業(上場企業の子会社含む)はこの「兼務」が実態ではないだろうか。兼務している本人が「自分は企業法務の仕事を担っている」と意識しているかはわからない。総務あるいは経理の業務の「一部」として黙々とこなしているのだと思う。他の業務同様「100%やれて当たり前」の仕事のひとつとして、だ。

 飛び交う「企業法務」論、それなりの規模の企業法務担当者や新興の勢いに乗る企業法務担当者、その周囲の弁護士が中心だが、彼らの脳裏に「法務」と名乗らず、しかし分業化の進んだ大企業の経験の浅い法務担当者と比べてもひけをとらずに企業を支えている「兼任者」の姿を少しでも思い浮かべた瞬間があっただろうか。
 
 ここ数日気になっていたのは、こんなことです。

 

 柄にもなく体調を崩した8月下旬。
 この夏、企業法務関係者のSNSやブログ界隈を賑わした「企業法務論」。部門としての機能、職務範囲に関する意見、攻め・守り論、そして21日発売のビジネス法務2019年10月号の「一人法務の心得」などなど。こうした盛り上がり(?)に対して、生え抜き法務ではない身からするとなんとなく座りの悪さというか身の置きどころがなさそうなので反応しなかったのですが、モヤモヤをためておくのも性に合わないので書き留めることにしました。

 企業の一部門としての「法務」論の盛り上がりについて感じたのは、まず「既視感」。

 部門の「あるべき」論、職務範囲、人材育成・強化論というものは、特別なテーマではなく、その最たるものは「販売・セールス」部門を対象としたものでしょう。書店の規模にかかわらずビジネスコーナーの一角を常に占めているのは、販売・セールス関連書籍ですからね。「最強のセールス」「セールスチームの作り方」「これから生き残るセールス」などなど(タイトルは適当、でもこんな感じが多いですよね)。
 ここ数年、企業法務の「技法」や「あるある」といった法律知識ではなく法務という仕事の仕方にフォーカスした書籍も増えてきましたし、法律誌にも定期的にこうした記事が掲載されるようになりました。
法務という仕事のノウハウがオープンにできるようになったということでしょう。

 「営業の成績は顧客との商談時間次第」と営業担当者の商談時間を増やすことを目的に、販売部門がシステムやツールを導入したのが90年代末期から00年代初頭にかけてのことです。現在のリーガルテック系とは当然比較するものではありませんが、本来業務のためにその他の業務は省力化するという点では共通していますよね?

 法務という業務に対して様々な意見や議論が交わされるようになったのは、「法務」が企業の一部門として根付き認知されてきたということだと思います。おおいに議論を交わせば良いと思います。
長年あれこれいわれているセールス・販売部門ですら「これが最強」というものは未だにないのですから。

 自分は販売部門出身なので、例え話が販売部門に偏ってしまいます。一緒くたにするなよという向きもあるかもしれませんが、もう少し書き加えますね。今回はこれにて。

 

 更新の間が空いた理由は特になく、だらけていただけです。はい。再開です。

 今年に入って、販売部門からの問い合わせの機会が増えているものに、販売先からクラウド系サービスのアプリの導入を要請されその対応をどうしようかというもの。
 建設業界は二次元、三次元CADなど意匠・構造設計の分野では90年代からテクノロジーが導入されていたのですが、今導入どうこうというのは建設工事現場ごとに元請⇄下請業者間の工程管理や施工図、施工写真データのやりとりをクラウド系サービスで行おうというもの。ひとつの建物が着工から竣工引渡しに至るまでは数多の専門工事業種が出入りします。日程、入場する人員数、搬入するトラックの台数、使用する荷揚用リフトやエレベーターの使用する順番などなど、元請の現場担当者の工程管理にかける手間は相当なものです。慢性的な施工業者不足に加えて「働き方改革」で4週8休実現に取り組まなければならなりません。電話やfax連絡が根強く残る業界ではありますが、いよいよtech系導入待ったなしとなったと。まあ、それはいいことなのですが。

 元請から「工程管理のこのアプリを導入します」「アクセスIDとパスワード付与のために担当責任者のメアドを登録してください」というようなメールを受け取った営業担当者からの問い合わせ。営業担当者によっては「何がなんだかわからない」状態で「導入しないと仕事もらえなくなるかもしれません」と半分脅しのような要請を重ねてきます。そして情報システム部門は渋面になります。
 アプリを大別すると、①元請自社開発 ②一応法人向サービス ③個人向けカレンダーアプリレベル で、③は論外、①②も親会社含むグループの情報セキュリティー基準と照らし合わせて検討ということになります。正直、「玉石混交」といってもいい状態。なかには大手中堅元請での採用をPRされているものもありますが、それを理由に無審査で承認というわけにはいかないのが難しいところ。      
 建築業界のように多重の請負、数次の建材流通で成り立っている業界では、元請1社に採用されれば一気にそのアプリのユーザーは増えますが、ユーザーの情報セキュリティーの水準も従業員のリテラシーもバラバラ、まちまちです。こういう点をアプリメーカーはどこまで把握されているのだろうかとふと思うのです。
 先の要請に対しては、アプリメーカーと情報システム部門と直接コンタクトを取らせて諸々の確認しています。同業者によってはあまりセキュリティーのことは触れずに導入して「うちの担当者のスマホは、元請からのアプリでぱんぱんだよ」と苦笑していますけれどね。

 クラウド系サービスに対する過度な警戒は不要な時代なのかもしれませんが、突然アプリのユーザーにさせられる立場からすると、ただ「弊社のこのアプリは優れています!」というPRだけでは「それなら安心だね」とはならないのですよ。スタートアップやベンチャー企業の「功成り名遂げる」という姿勢は理解できないわけではありませんが、商品やサービスのシェア争いの前にユーザーが安心して事業者を選択できる市場を作ることも必要ではないかと思うのですよね。
 「なんだか新しくて良さそうだけど、比較対象もないし、これでほんとにいいのかな」という保守的なユーザーの気持ちも汲んでくださいな、というエントリでした。

このページのトップヘ