企業法務マン迷走記2

 大船ならぬ「酔っぱらった船」に乗ったかのような企業法務担当者の日常


ローパー問題についてあれこれ 

 特集に惹かれて読んでみた「季刊労働法2016冬号」。その特集は「低成果労働者の人事処遇をめぐる諸問題」。

 「これはパワハラだと思います。指導の枠を超えていると思います。」といった内容の相談メールに基づき裏取りやら聞き取りを進め、パワハラと名指しされたマネージャーやその上席と会うやいなや「泣きたいのはこっちの方ですよ。どうすればいいのやら。」とこちらも深刻な表情。「みてくださいよ」とメールの送り主の仕事の内容ぶりを書証と一緒に渡される。幾度となく繰り返される返品伝票、アポ破り、顧客からの苦情のメール。確かにひどい。これは自分が彼のマネージャーであっても一喝するだろうなとため息をつきます。
 実は年々こういうケースが増えているのですね。業務の習熟が遅いといえばよいのか、他の社員と比べてもどうもあれだという社員が起こす問題。
 特集の冒頭「低成果労働者の雇用のめぐる法的対応(九州大:野田進名誉教授)」によるとローパフォーマーの事を「ローパー」と労務周りの人は呼んでいるそうですが(知りませんでした)、愛嬌のある音の響きとは裏腹にローパーの存在が職場環境を蝕んでいく可能性が高く、このエントリーのタグもあえてリスク管理としました。(実際に危機的なケースをみたことがありますからね)

 特集記事は労契法16条との関係、最近の判例動向(金融やIT業界の例が中心)などで構成されていますが、現場のマネージャーと共有したいと思ったのは「低成果労働者に対する人事実務の対応(杉原知佳弁護士)」。もし問題のある社員が自部門にいた場合にどのように対応すればよいのか、わかりやすく整理されていると思います。とにかくマネージャーが一人で悩んだり、あるいは怒鳴りつけるなどして自分の立場を悪くしないように、事態の打開に向けてひとつひとつプロセスを重ねてもらうのが一番なのですが、そこに人事なり法務といった管理部門によるフォローアップも欠かせませんね。
こじれてしまった後の労働審判や裁判の可能性を考えると、法務はもっと労務に近づくべきなのだろうと思いつつ、最近の自分の仕事ぶりは大丈夫だろうかとふと漠然とした不安にもかられる夜。


不正の種は尽きまじ 職場がヤバイ!不正に走る普通の人たち

 久々のエントリーとなってしまいました。

 ここ何年か新卒社員の研修の初日か二日目に「コンプライアンス研修」の時間枠が割り当てられるのですが、まだ企業勤めを始めてもいない子らに一体何を伝えれば良いのだろうかと考えあぐねるのですが。
ここで何回かネタにしてそれなりの反応があるのが「企業不祥事はどんな人が起こしているのか」というもの。不祥事はいけないこと、でも会社の中でそんなことをしでかすのはどんな人物かというと、当然ながら入社数日の若者には想像がつきにくいもの。「普通の人ですよ。不祥事を起こした人も皆さんと同じように学校を卒業して4月1日に入社してこうして新入社員研修を受けていたのですよ」というと「え?」という表情をします。すぐにはイメージできないのでしょうね。

 タイトルに惹かれて手に取った本書、「フリーランスの経理部長」が書いたものですので会計系の不正が主な内容です。
不正会計というと某電機メーカーの事例が取りざたされていますし、企業法務担当者の関心もついああいう大事件に向きがちかもしれません。独禁法、景表法や個人情報保護法などのリスク管理も本気で取り組まなければならないかもしれません。しかし、これらのリーガルリスクよりも日常的にさらされているリスクは、「普通の社員」が手を染めてしまう横領、着服、背任、そこまでいかなくても不正な会計処理だと思うのですよね。

 内容はというと軽い読み物風の文体ですが刺さるところにはグサグサ刺さります。目次を読んだだけでも心が痛みます。例えば、『「社員を信頼して」が間違いの始まり』『不正は必ず目上の人を見ながらやっている』『「嘘をつかない」のが当たり前だというほど騙されている』『ハラスメントをする上司は本業の実力がないから騙される』など、「ああ、あるある」などといっている場合ではないのですが、頷かざるをえません。本書は経理担当者や監査担当者を念頭に書かれたものですが、リスク管理を担当する法務担当者も読んで損はしないと思いますし、研修ネタにもできそうです。

ところで…
 法務担当者もある程度会計の知識という声がありますし、自社のビジネスをよく理解するということも口酸っぱく言われていると思います。では自社のビジネスを理解とはどういうことでしょうか。業界知識や自社の強み弱み、販売先、取引先に関する知識ということでしょうか。では、そのビジネスを支えている自社の営業担当者や購買担当者が毎日どのような業務についているか、どのような業務システムを利用しているか把握しているでしょうか。高度な業務システムが構築されている昨今、不正を働くには業務システムを熟知し業務フローのどこに隙が生じるかを知らないと難しいのです。したがって不真面目な社員には大それたことができず、真面目にシステムを習得した「普通の社員」ほど不正が働けてしまう面があるのです。法務担当者も自社の販売や購買の業務システムをある程度知っておくべきですね。


 

拾い読み Business Law Journal 2017年2月号、3月号

 不精して2号まとめて、というわけではありません。

 BLJ2月号、恒例の「法務のためのブックガイド」2017版、そして3月号からは、惜しまれつつもとりあえず一旦(敢えて、一旦といっておきます)「企業法務ブロガーの辛口法律書レビュー」 について。

 2月号の「法務のためのブックガイド」。最初期の「今年買って読んだ書籍を持ち込んで座談会しましょう」と手弁当的企画も、今やBLJの柱の特集となりましたね。企業勤めの法務担当者の遠慮のない率直なレビューに敵う提灯記事はないでしょう。レクシスの書籍も斬られているのに、編集スタッフは太っ腹だなと思います。
書籍の購入はどうしても自分の業務に関わる書籍中心になるので(まあ、これも少ないのですが)、業務とは関わらないITやファイナンス、海外法関連の書籍は後回しになります。とはいえ、業務に関わりが少ないとはいえ、企業法務界隈のいわゆる「共通認識」は持ち合わせていたいので、様々な業種の法務担当者によるレビューが掲載されているのは正直助かります。全部を購入するわけではありませんが、参考にはさせていただいております。
 しかしそれにしても昨年はきちんと本を読んでいないなあと反省した次第。

 さて自分の周囲では2月号のブックガイド冒頭座談会での「不在」がかえって話題になったronnerさん、3月号の「辛口レビュー」ではきっちり締めていただいております。1位に「会社謄本 分析事始」を持ってくるあたり、まさに真骨頂ではないでしょうか。(この本、実は立ち読みしたことはあるのですが、閉鎖登記や下線部の多い登記簿謄本を抱える身としてちょっと辛かった(いや悪いことはしていませんよ)ので購入を見送っていたのです。)
 それはともかく最後まで「著者にも読者にも厳しい」連載でした。

 楽しみながらも思ったことを少し。
 ブックガイドやレビューの危険なのは、これから読者となる人間の「先入観」を左右してしまうところ。読者はレビューも「レビュー」しなければならない、と思うのです。ハードル高いけれどね。同じ職種である企業勤めの法務担当者のレビューといえど、所属企業の立ち位置からのものというのは忘れてはならないでしょう。わかりやすい例でいうと「下請法」、「システム開発」関連書籍。発注者側企業の法務担当者と、請負企業側の法務担当者とでは当然関心ごとが違いますからね。

 ともあれ、顕名匿名を問わず企業勤めの法務担当者による書籍レビューというジャンルを打ち立てたBLJ。継続することの難しさは察するのですが、このブックガイドが下手に「権威」にならないよう、手弁当的味わいを残しながら継続することを望みます。

 そしてronnerさんの「辛口法律書レビュー」については、法律書版「読まずに死ねるか」のようになってもらいたいなあと勝手に思っています。(本当に勝手だ、お気を悪くされたらすみません)










 
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