企業法務マン迷走記2

 大船ならぬ「酔っぱらった船」に乗ったかのような企業法務担当者の日常


リコール 一番長かった6月 9

 つづきです

【リコールCM】
 
 2006~07年頃というのは湯沸し器メーカーや電器メーカーをはじめいろいろな企業が「お客様への重要なお知らせ」といったTVCMが放映されていた時期です。覚えていませんか?

 人身事故を発生させていること、改修率が低いことを考えれば、経産省の命令には従わざるをえず、また国会での大臣が「リコールCMを実施させる」と答弁している以上、実施しないことには行政側もメディア等に対する示しがつかないという状況だったと思います。
 協議会が正式に発足し、勤務先の二件目の事故例が発見されたときは6月下旬に入っていました。経産省にリコールCMを実施すると回答するには、実施時期とCMの放映量をある程度押さえておく必要がありました。
 年間または半年単位のTVCMのタイム枠(特定のチャンネル、提供時間枠)をもっているような企業であれば、その枠の中で通常のCMから、リコールCMに素材を切り替えてしまえばそれで済むのですが、あいにく勤務先はタイム枠をもっていません。
 単発枠(スポット枠)を押さえるのが課題でした。

 巡り合わせというのかなんというのか、僕は法務に異動する前は販促部門にいたので、その時のつてで広告代理店に連絡をとり、7月のスポット枠を押さえることを依頼しました。といっても、一方で資金にも限界があるので、投下量として700~800GRP(1日のうち朝から夕方8時までの間、1時間に1回はどこかのチャンネルで流れる程度)の確保です。
 頭の痛いことに法令や行政の命によるCMであっても、TV局は無料で放映してくれるわけではありません。さらに(これは新聞広告でも同じなのですが)リコールの際は料金が上乗せされてしまうのです。(そもそも予定していた広告主にどいてもらうから、という理由のようですが?)
 どうにも合点がいかない点です。最近は広告料のダンピング提案も珍しくありませんが、リコールの場合はどうなのでしょう。

 それはともかく、リコールという目的もあってか代理店の営業マンが頑張ってくれたのか7月中旬から2週間のスポット枠を押さえることができました。経産省に時期と放映量の目安を報告を行いましたが、また放映量が少ないの何のといわれるかと思いましたが、CMを実施するということで何かほっとされたような印象を受けました。
 やはり大臣答弁の内容を実行させることができたという安堵感だったのかもしれません。
行政も現場は現場なりの苦労があるのだと思いました。

次回もリコールCMのつづきです。

リコール 一番長かった6月 8

つづきです。
 
【変転】

 所轄消防署に事故詳細の確認を依頼したものの、そこはやはりすぐに回答が頂けるものではありませんでした。日はじりじりと過ぎていきます。

 一方で、リコール公表&会見の最終調整に入っていました。機器メーカー側に大手上場企業が多く、定時株主総会の日程が迫っていましたが、さすがの経産省もここは配慮したのでしょう、リコール公表と会見は7月初旬で落ち着こうとしていました。
 そこで念には念を入れての公表数値の最終確認にはいったところで、ある機器メーカーの製品(リコール対象製品には入っていなかったが用途が同じもの)にも、似たような製品事故が多発していることと、販売先の把握や回収状況が低い水準であることが明らかになったのです。経産省からは当然この際その製品についても同時に公表せよ、という指示です。
 
 どのような会見ストーリーにするか、協議会内での協議を重ねました。

 結局、件の人身事故については、会見の日までに所轄消防署の確認がとれない場合は公表を控えざるをえないという判断になりました。そしてまず事故があったことが明確な「報告済みの人身事故」について、「ユーザーの誤使用」ではなく「製品設計上の瑕疵があったこと」を認め、公表、謝罪を会見の場で行うこと、前述の機器メーカーの別の製品事故についても同じ会見の場で公表する、このような流れで会見原稿の練り直すことになったのです。

 この時点でカレンダー上では6月は終わりを迎えていました。
しかしこのままずっと月が変わらないのではないか、そんな思いにとらわれていました。

 次回はリコールCMについて少し触れておきます。

リコール 一番長かった6月 6

 つづきです。

【葛藤(1)】

 メーカー団体による共同リコールという方向が決定したところで、リコールの主体となる協議会の発足や広報体制づくりが始まるのですが、それはひとまず横に置きます。

 本篇2で書いたように、新たに発足した協議会と加盟した企業で共同リコールに向けて改めて対象製品の総出荷台数、改修済み台数、事故件数の報告と詳細確認が開始されました。実際、最初の事故の発生から20年もの年月が経過しており、再確認作業というのはけっこうな労度です。20年も経てば製造、出荷、販売それぞれの業務に関わった人間も異動なり退職なりしていますし、在籍していたとしても記憶もおぼろげになっています。
 またこの作業の中で、各企業間で微妙に「製品事故」の定義が異なっており、最終数値がまとまるまでの間何回か議論となりその都度数値を見直すことになりました。(注:けっして「事故」認定の基準を甘くしたということではありません)

 本篇2で書いたように、この作業のなかで6月第2週に発見された勤務先の「報告されていない1件の人身事故」の情報ほど協議会内を困惑させたものはありません。「なぜ今頃そんな話がでてくるのか」「いまさら..」などという声があがったのも無理はありません。また機器メーカーからは、社内情報管理体制について厳しく追及されました。もともと機器メーカー側は、過去の自主改修活動を含めてユーザーに対する責任は最終製品メーカー側にある、というスタンスにありましたから、機器メーカー側への報告直後の協議では、先方のCSR部門長から辛辣な言葉を浴びせかけられました。(あとからその会社の広報室長に慰められたほどです)当然我々に反論の余地はありません。

 メモ発見後、即座に親会社(当時の)法務にも報告、そのまま親会社の顧問法律事務所に今後の対応について相談しました。対応といってもひとつしかありません。この「報告されていない人身事故」の公表についてです。

 答えはいうまでもありません。しかし、こういうときに悪魔のささやきをきいてしまう人もいます。
「事故直後から現在に至るまで、被害者の家族から当社に対して何のアクションもないじゃないか」「寝た子を起こさなくても」
「もう時効だよ(時効じゃありませんが) 」

 さいわい(という言い方も変ですが)、当時の事業部門長は「公表する」という意思を固めていたのですが、経産省と協議会とで枠組みを作ってきた共同リコールとの関わりをどうするか、ということが課題となったのです。  
                                                                      つづく 

 
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