企業法務マン迷走記2

 大船ならぬ「酔っぱらった船」に乗ったかのような企業法務担当者の日常


リコール 一番長かった6月 5

つづきです

【急転】

「リコールさせる」「業界をあげて改修率100%を実現させる」「TVCMも実施させる」
正確かどうかもう自信がありませんが、時の主務大臣が国会において、野党からの質問にこのような主旨の答弁をした時点で、業界全体の運命は決まりました。

 おりもおり、ある機器メーカー製品(自主改修中)で火災事故が発生してしまったのですが、そのときのメーカー側の対応に不満をもった関係者が、某党機関紙に投書。そこでこの製品事故(当時はまだ「使用者側の不注意・誤使用)の状況が知れました。ちょうど国会の時期にあたったため、格好の与党の攻撃ネタになったのでしょう。監督官庁である経産省の事務次官、そして大臣に矛先が向かったのです。つまり20年近くも自主改修などといっているが、類似の事故の件数からいえば製品欠陥ではないか、監督官庁としての責任をどう考えているのか...このような論調で追及されたわけです。

 改正消安法を施行させたばかりの経産省は、「製品安全」「消費者保護」の立場から業界になたをふるうよりありません。なんといってもメーカーの失態により大臣に答弁させてしまったのですから、所管部門の課長(キャリア)の怒りはただ事ではありません。
 「過去に溯って製品欠陥を認めよ」「リコールを実施しろ」「これまでの改修の進捗の遅いメーカーはリコールCMをうて」
最終製品メーカー側も機器メーカー側もそれぞれ言い分はあるにしろ、もはや経産省の命令に従うよりありませんでした。

 そして、「改修の進捗の遅いメーカー」の1社が勤務先だったのです。非常に重い課題を負わされました。(まだこの時点(5月末)ではリコールCMの実施はなんとか避けようとしていましたが)

 とはいえ即日リコールというわけではありません。
国会答弁にまでなったこの案件については、最終的に経産省が記者発表したのち、同日メーカー団体がリコール実施、記者会見実施というフローとなりました。
 経産省が発表する以上、対象製品の総出荷台数、改修済台数とその結果としての進捗率、事故があった場合はその件数を正確なものにしなければなりません。そこで5月末時点で最終製品メーカー、機器メーカーとも数値の洗い出しにかかりました。またリコールを行う主体についてメーカー間での協議が開始されました。

 リコール会見が終わり、経産省の所管と落ち着いて話せるようになった頃、「あの大臣答弁がなければね、厳しい指導はするにしても、ここまで騒ぎ立てることはなかった。あそこ(国会)までいったら、悪いけど君らを叩かざるをえない」とぽつりといわれました。
 
 行政の面子をつぶしたらまずい、ということはあるのです(教訓)
                                                                    つづく

リコール 一番長かった6月 4

つづきです

【潮目】

 BLJ7月号の特集「クライシス・マネジメント」の中で郷原弁護士が行政当局の動きについて言及されています。
今回取上げているリコール実施は2007年ですが、このときがどういう時期だったかというと...

 2000年代半ばというのは製品事故や企業コンプライアンスの事例で必ず挙がるP工業の湯沸器不正な修理方法での死亡事故、M電器産業のFF式(室内設置型)石油温風器の製品欠陥、シュレッダーでの指切断事故が立て続けに発生し、製品事故とその企業対応が何かと問題になった時期です。製造業の監督官庁としての経産省、特に製品安全に関連する部署は非常に追い込まれていた時期ではないかと推察します。

 このような状況に対する経産省の打ち手がまず2006年12月の消費生活用品安全法(「消安法」)改正(2007年5月施行)です。

 改正のポイントは重大な製品事故(火災、人身事故)が発生した場合の製造事業者、輸入事業者に対して主務大臣への報告義務を課したのと、主務大臣による公表制度を設けたことです。これは重大な製品事故をすみやかに開示して周知することで事故の続発を防ぐという点で理にかなったものと思いますが、これは経産省が企業のためだけの役所ではなく、《ユーザーのための役所、ユーザーの安全のために尽力する役所》に軸足を移し始めたことを表明した法改正だと思います。(もちろん正論ですよ)一方で当時この舵の切り方を性急に感じたのも正直なところです。
経産省のなかは業種別に所管部門がありますが、こと製品重大事故に関しては製品安全課が仕切る形になりました。製品事故は必ず報告させる、毎週火・金曜日に製品事故(製造者・製品名・事故の内容)はプレスリリースする、これは見事に徹底されました。

 改正消安法施行日は2007年5月14日でした。
この直後に、本リコールを実施せざるをえない事件が起こったのです。


 

リコール 一番長かった6月 3

 【経緯・背景】
 リコール実施に至るまでの経緯について。さすがに少しぼやかしますので、少し判りにくいかもしれませんがご容赦を。

1.対象製品
部品(機器)とこれを組み込んだ最終製品(設備機器)

2.販売期間
1970年代終盤から1988年に製造販売された1.の製品
出荷のピークは1980年代中盤。バブル期と重なります。
この製品は同業者の多くが手掛けており、1.のタイプだけで
総出荷台数は50万台超。

3.製品事故
1988年 火災事故。報道記事になる。
1992年 火災による死亡事故(←勤務先の製品)
ただ火災の原因は使用者の不注意による誤作動、誤使用と判断。
この時点では製品起因(設計上の瑕疵)による事故ではない
とされたためリコールに至らず。

4.対応
勤務先は当時の法令に従って監督官庁(通産省・当時)に事故報告届出。
この頃から勤務先だけでなく同業者製品においても同様の火災事故が発生。
製品起因ではないまでも(使用者の不注意による誤作動・誤使用)、同様の事故が発生している以上対策をとることとなりました。
最終製品製造メーカーの多くは同じメーカーの部品(機器)もしくはほぼ同様の構造の部品(機器)を組み込んでいたため、部品メーカーと同業者で構成するメーカー団体等協議のうえ、販売済製品向けの改良部品を準備。メーカー団体としての自主改修活動を行政機関や関連団体の協力を得ながら開始しました。これが1988年末頃の話です。
その頃僕は駆け出しの営業マンだったのですが、納入先リストなどを作成させられたことを憶えています。
なお1989年からは部品(機器)を使用者の不注意・誤使用があっても事故が発生しにくい構造に変更、以降マイナーチェンジを繰り返しながらも勤務先を含む同業者数社は当該最終製品を今も製造販売しています。

5.くすぶり続けた問題
さて最初の死亡事故発生から19年経てからのリコール実施という異例の事態を迎えたわけですが、当初からくすぶり続けた問題は、本件事故の原因と責任は部品(機器)メーカー側にあるのか、その機器を組み込んだ最終製品メーカー側にあるのか、という点です。
双方の主張は当時から平行線をたどっていたようで、2007年6月にリコール実施協議に至っても変わっていませんでした。
両者の意見が一致していたのは、事故の直接的な原因は使用者の不注意・誤使用である、という点でした。

5.のような問題は、特にアセンブル製品の多いメーカーでは多かれ少なかれ抱えているリスクではないかと思います。
リコール後に使用者から損害賠償請求がある場合は、まず最終製品メーカーがうけざるを得ないのですが、部品(機器)メーカーへの求償可否は金銭面で無視できない問題となります。(実際、なりました)

どうも、ぼかしきれていませんね  (続く)
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