企業法務マン迷走記2

 大船ならぬ「酔っぱらった船」に乗ったかのような企業法務担当者の日常


リコール 一番長かった6月 8

つづきです。
 
【変転】

 所轄消防署に事故詳細の確認を依頼したものの、そこはやはりすぐに回答が頂けるものではありませんでした。日はじりじりと過ぎていきます。

 一方で、リコール公表&会見の最終調整に入っていました。機器メーカー側に大手上場企業が多く、定時株主総会の日程が迫っていましたが、さすがの経産省もここは配慮したのでしょう、リコール公表と会見は7月初旬で落ち着こうとしていました。
 そこで念には念を入れての公表数値の最終確認にはいったところで、ある機器メーカーの製品(リコール対象製品には入っていなかったが用途が同じもの)にも、似たような製品事故が多発していることと、販売先の把握や回収状況が低い水準であることが明らかになったのです。経産省からは当然この際その製品についても同時に公表せよ、という指示です。
 
 どのような会見ストーリーにするか、協議会内での協議を重ねました。

 結局、件の人身事故については、会見の日までに所轄消防署の確認がとれない場合は公表を控えざるをえないという判断になりました。そしてまず事故があったことが明確な「報告済みの人身事故」について、「ユーザーの誤使用」ではなく「製品設計上の瑕疵があったこと」を認め、公表、謝罪を会見の場で行うこと、前述の機器メーカーの別の製品事故についても同じ会見の場で公表する、このような流れで会見原稿の練り直すことになったのです。

 この時点でカレンダー上では6月は終わりを迎えていました。
しかしこのままずっと月が変わらないのではないか、そんな思いにとらわれていました。

 次回はリコールCMについて少し触れておきます。

リコール 一番長かった6月 6

 つづきです。

【葛藤(1)】

 メーカー団体による共同リコールという方向が決定したところで、リコールの主体となる協議会の発足や広報体制づくりが始まるのですが、それはひとまず横に置きます。

 本篇2で書いたように、新たに発足した協議会と加盟した企業で共同リコールに向けて改めて対象製品の総出荷台数、改修済み台数、事故件数の報告と詳細確認が開始されました。実際、最初の事故の発生から20年もの年月が経過しており、再確認作業というのはけっこうな労度です。20年も経てば製造、出荷、販売それぞれの業務に関わった人間も異動なり退職なりしていますし、在籍していたとしても記憶もおぼろげになっています。
 またこの作業の中で、各企業間で微妙に「製品事故」の定義が異なっており、最終数値がまとまるまでの間何回か議論となりその都度数値を見直すことになりました。(注:けっして「事故」認定の基準を甘くしたということではありません)

 本篇2で書いたように、この作業のなかで6月第2週に発見された勤務先の「報告されていない1件の人身事故」の情報ほど協議会内を困惑させたものはありません。「なぜ今頃そんな話がでてくるのか」「いまさら..」などという声があがったのも無理はありません。また機器メーカーからは、社内情報管理体制について厳しく追及されました。もともと機器メーカー側は、過去の自主改修活動を含めてユーザーに対する責任は最終製品メーカー側にある、というスタンスにありましたから、機器メーカー側への報告直後の協議では、先方のCSR部門長から辛辣な言葉を浴びせかけられました。(あとからその会社の広報室長に慰められたほどです)当然我々に反論の余地はありません。

 メモ発見後、即座に親会社(当時の)法務にも報告、そのまま親会社の顧問法律事務所に今後の対応について相談しました。対応といってもひとつしかありません。この「報告されていない人身事故」の公表についてです。

 答えはいうまでもありません。しかし、こういうときに悪魔のささやきをきいてしまう人もいます。
「事故直後から現在に至るまで、被害者の家族から当社に対して何のアクションもないじゃないか」「寝た子を起こさなくても」
「もう時効だよ(時効じゃありませんが) 」

 さいわい(という言い方も変ですが)、当時の事業部門長は「公表する」という意思を固めていたのですが、経産省と協議会とで枠組みを作ってきた共同リコールとの関わりをどうするか、ということが課題となったのです。  
                                                                      つづく 

 

リコール 一番長かった6月 5

つづきです

【急転】

「リコールさせる」「業界をあげて改修率100%を実現させる」「TVCMも実施させる」
正確かどうかもう自信がありませんが、時の主務大臣が国会において、野党からの質問にこのような主旨の答弁をした時点で、業界全体の運命は決まりました。

 おりもおり、ある機器メーカー製品(自主改修中)で火災事故が発生してしまったのですが、そのときのメーカー側の対応に不満をもった関係者が、某党機関紙に投書。そこでこの製品事故(当時はまだ「使用者側の不注意・誤使用)の状況が知れました。ちょうど国会の時期にあたったため、格好の与党の攻撃ネタになったのでしょう。監督官庁である経産省の事務次官、そして大臣に矛先が向かったのです。つまり20年近くも自主改修などといっているが、類似の事故の件数からいえば製品欠陥ではないか、監督官庁としての責任をどう考えているのか...このような論調で追及されたわけです。

 改正消安法を施行させたばかりの経産省は、「製品安全」「消費者保護」の立場から業界になたをふるうよりありません。なんといってもメーカーの失態により大臣に答弁させてしまったのですから、所管部門の課長(キャリア)の怒りはただ事ではありません。
 「過去に溯って製品欠陥を認めよ」「リコールを実施しろ」「これまでの改修の進捗の遅いメーカーはリコールCMをうて」
最終製品メーカー側も機器メーカー側もそれぞれ言い分はあるにしろ、もはや経産省の命令に従うよりありませんでした。

 そして、「改修の進捗の遅いメーカー」の1社が勤務先だったのです。非常に重い課題を負わされました。(まだこの時点(5月末)ではリコールCMの実施はなんとか避けようとしていましたが)

 とはいえ即日リコールというわけではありません。
国会答弁にまでなったこの案件については、最終的に経産省が記者発表したのち、同日メーカー団体がリコール実施、記者会見実施というフローとなりました。
 経産省が発表する以上、対象製品の総出荷台数、改修済台数とその結果としての進捗率、事故があった場合はその件数を正確なものにしなければなりません。そこで5月末時点で最終製品メーカー、機器メーカーとも数値の洗い出しにかかりました。またリコールを行う主体についてメーカー間での協議が開始されました。

 リコール会見が終わり、経産省の所管と落ち着いて話せるようになった頃、「あの大臣答弁がなければね、厳しい指導はするにしても、ここまで騒ぎ立てることはなかった。あそこ(国会)までいったら、悪いけど君らを叩かざるをえない」とぽつりといわれました。
 
 行政の面子をつぶしたらまずい、ということはあるのです(教訓)
                                                                    つづく
livedoor プロフィール
QRコード
QRコード
アクセスカウンター

    • ライブドアブログ