企業法務マン迷走記2

 大船ならぬ「酔っぱらった船」に乗ったかのような企業法務担当者の日常


リコール 一番長かった6月 4

つづきです

【潮目】

 BLJ7月号の特集「クライシス・マネジメント」の中で郷原弁護士が行政当局の動きについて言及されています。
今回取上げているリコール実施は2007年ですが、このときがどういう時期だったかというと...

 2000年代半ばというのは製品事故や企業コンプライアンスの事例で必ず挙がるP工業の湯沸器不正な修理方法での死亡事故、M電器産業のFF式(室内設置型)石油温風器の製品欠陥、シュレッダーでの指切断事故が立て続けに発生し、製品事故とその企業対応が何かと問題になった時期です。製造業の監督官庁としての経産省、特に製品安全に関連する部署は非常に追い込まれていた時期ではないかと推察します。

 このような状況に対する経産省の打ち手がまず2006年12月の消費生活用品安全法(「消安法」)改正(2007年5月施行)です。

 改正のポイントは重大な製品事故(火災、人身事故)が発生した場合の製造事業者、輸入事業者に対して主務大臣への報告義務を課したのと、主務大臣による公表制度を設けたことです。これは重大な製品事故をすみやかに開示して周知することで事故の続発を防ぐという点で理にかなったものと思いますが、これは経産省が企業のためだけの役所ではなく、《ユーザーのための役所、ユーザーの安全のために尽力する役所》に軸足を移し始めたことを表明した法改正だと思います。(もちろん正論ですよ)一方で当時この舵の切り方を性急に感じたのも正直なところです。
経産省のなかは業種別に所管部門がありますが、こと製品重大事故に関しては製品安全課が仕切る形になりました。製品事故は必ず報告させる、毎週火・金曜日に製品事故(製造者・製品名・事故の内容)はプレスリリースする、これは見事に徹底されました。

 改正消安法施行日は2007年5月14日でした。
この直後に、本リコールを実施せざるをえない事件が起こったのです。


 

リコール 一番長かった6月 3

 【経緯・背景】
 リコール実施に至るまでの経緯について。さすがに少しぼやかしますので、少し判りにくいかもしれませんがご容赦を。

1.対象製品
部品(機器)とこれを組み込んだ最終製品(設備機器)

2.販売期間
1970年代終盤から1988年に製造販売された1.の製品
出荷のピークは1980年代中盤。バブル期と重なります。
この製品は同業者の多くが手掛けており、1.のタイプだけで
総出荷台数は50万台超。

3.製品事故
1988年 火災事故。報道記事になる。
1992年 火災による死亡事故(←勤務先の製品)
ただ火災の原因は使用者の不注意による誤作動、誤使用と判断。
この時点では製品起因(設計上の瑕疵)による事故ではない
とされたためリコールに至らず。

4.対応
勤務先は当時の法令に従って監督官庁(通産省・当時)に事故報告届出。
この頃から勤務先だけでなく同業者製品においても同様の火災事故が発生。
製品起因ではないまでも(使用者の不注意による誤作動・誤使用)、同様の事故が発生している以上対策をとることとなりました。
最終製品製造メーカーの多くは同じメーカーの部品(機器)もしくはほぼ同様の構造の部品(機器)を組み込んでいたため、部品メーカーと同業者で構成するメーカー団体等協議のうえ、販売済製品向けの改良部品を準備。メーカー団体としての自主改修活動を行政機関や関連団体の協力を得ながら開始しました。これが1988年末頃の話です。
その頃僕は駆け出しの営業マンだったのですが、納入先リストなどを作成させられたことを憶えています。
なお1989年からは部品(機器)を使用者の不注意・誤使用があっても事故が発生しにくい構造に変更、以降マイナーチェンジを繰り返しながらも勤務先を含む同業者数社は当該最終製品を今も製造販売しています。

5.くすぶり続けた問題
さて最初の死亡事故発生から19年経てからのリコール実施という異例の事態を迎えたわけですが、当初からくすぶり続けた問題は、本件事故の原因と責任は部品(機器)メーカー側にあるのか、その機器を組み込んだ最終製品メーカー側にあるのか、という点です。
双方の主張は当時から平行線をたどっていたようで、2007年6月にリコール実施協議に至っても変わっていませんでした。
両者の意見が一致していたのは、事故の直接的な原因は使用者の不注意・誤使用である、という点でした。

5.のような問題は、特にアセンブル製品の多いメーカーでは多かれ少なかれ抱えているリスクではないかと思います。
リコール後に使用者から損害賠償請求がある場合は、まず最終製品メーカーがうけざるを得ないのですが、部品(機器)メーカーへの求償可否は金銭面で無視できない問題となります。(実際、なりました)

どうも、ぼかしきれていませんね  (続く)

リコール 一番長かった6月 2

【衝撃】

「まさかこんな事が!」「そんなバカな!」ということが起きたとき、人はまずどのようなリアクションを取るでしょうか。
落ち着いて、次々と打ち手を講じることができるでしょうか。法務パーソンとして経営陣に適切な働きかけができるでしょうか。

5年前の6月。
行政当局の指導(怒りか..)のもと、業界団体で共同製品リコールの準備を行っている最中にそれは起こりました。
リコールを実施するにあたり、まず行政当局がプレスリリースを行うということで、対象製品の総出荷台数、その時点での回収率について精査を重ねていました。なんといっても中央省庁が行うリリース内容に間違いがあってはならないからです。

10数年前(1990年代前半)の過去の書類をほじくりかえしていたところ、「昨年、(製品が原因と思われる)火事で死亡事故があったと建物オーナーからきいた」という一文がある書類が見つかりました。
すぐさまその情報はリコール対策の事務局に届いたのですが、ベテラン社員含めてその「死亡事故情報」については初耳でした。またその書類以外、その「死亡事故」に関するものを見つけることはできませんでした。

つまり
・伝聞情報である「死亡事故」の事実確認を行っていない。
・事実確認を行っていないため、事故当時の法令に従った行政当局への「事故報告」を行っていない。
・事故が事実であれば過去の時点において法令違反(事故未報告)を犯している
・事故原因が製品にあるかは別として、亡くなられた方とご遺族への対応をとっていない
と考えざるをえませんでした。

おりしもP工業やM電器産業の不祥事・製品事故が話題になっていた時期です。

文字通り「衝撃」でした。

この情報をどのように業界団体や行政当局に伝えるか、今からどのような対応をとるべきなのか、苦悶の日々が始まりました。


*注:繰り返しお断りしますが、本件は経緯を含めて共同リコール記者会見で公表しています。エントリーの内容は過去の不祥事の内幕を暴露するものではありません。
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