企業法務マン迷走記2

 大船ならぬ「酔っぱらった船」に乗ったかのような企業法務担当者の日常


正しい会社の売られ方 6の1

投資ファンドによる買収方法がLBOなので、まず受け皿会社(ファンドが設立した合同会社)と金融機関と金銭消費貸借契約を締結。時間をかけずに勤務先が受け皿会社を吸収合併するのですから、結果的に勤務先が借入をするのと同じことになります。
ところが、100%子会社時代は企業グループ内金融で資金をまかなっていましたから、社内の誰一人として金融機関と付き合ったことがありません。
契約書の概要をまとめたファイナンス・タームシートが届いたときは社長、経理担当取締役、自分とで内容を読み合わせましたが、なんかもううちのめされた感じでした。

タームシートは契約書の下敷きになるもので、ざっくり以下のような構成、項目です。
金融機関によって構成は違うかもしれませんが参考までに。
実際はA4用紙に文字がびっしり、というものでした。

■ローン基本条件
  貸付人 借入人 対象会社 保証人 組成金額 
■ローン内容
  貸付額 貸付実行日 満期日 貸付形態 金利条件 
  金利支払日 元本弁済方法
  資金使途 貸付実行 決裁口座 担保の種類 保証、
  ローンの前提条件 ローン期限前弁済
  貸付義務免除 遅延損害
  借入人の義務 表明保証事項
  借入人及び保証人の義務 報告義務 財務制限条項 作為義務 不作為義務
  期限の利益喪失事由、請求失期事由etc

下線部には、親会社と投資ファンドとの勤務先株式の譲渡契約において規定される事項が含まれています。
まさに、がんじがらめ。

 このときになっていかに大企業の子会社は恵まれた環境にあったのかということに気づかされました。
町工場の社長や商店街の商店主は、それこそ身代すべてを担保にして銀行や信金と交渉しているのだなと。
  
 しかし、そんな感慨を抱いたのは一瞬のことで、タームシート(のちの契約書)で前提条件なり義務と定められた項目のうち法務がやるべき内容を自分なりに書き出していくうちに「期日に間に合うのか?」という不安がどんどん膨らんできたのでした。 

正しい会社の売られ方 5の2

前回、企業グループ離脱にあたっての課題を取り上げましたが、法務として関わる時間が多かったのは③の商号変更です。他の課題は、どちらかというと親会社と勤務先との間の協議事項で解決することが多く、当事者間の合意が得られれば履行時期を前後させることができました。
 しかし商号変更については、親会社が属する大企業グループのブランド管理部門から変更日の期限は動かせないと厳命されました。ほどなく提示された株式譲渡契約書においても、商号変更に関する作為義務の項目が多く、期限を守れなかった場合については厳しいペナルティが設定されていました。商号変更の期限厳守を前提にしつつ、親会社と交渉し、何らかの例外措置を引き出さないことには、実務の現場が廻らなくなる畏れがありました。

 40年余も同じ組織にいた集団を、わずか2年ほどの期間ですっぱり分離できれば、売却側にとってこんな楽なことはないでしょうが、それには事細かな準備が必要のはず。実際、当社の例でいうと協議のうえ、分離の実施期限を延期した事項が多く、また例外措置の交渉を必要とする事項がありましたから、親会社してみれば目論見が違ったかもしれません。こちらからすれば、そんなに簡単にいかないって!ということなのですが。
  
 ともあれ、デューデリ、グループ離脱分科会の段階を経て、2007年の年末には株式譲渡に関する手続と金融機関との契約手続に入りました。

 次回は「はじめての借り入れ」(予定)です。

 

正しい会社の売られ方 5の1

「金の切れ目が縁の切れ目」

 独立資本の企業や気鋭のベンチャー企業で働く方には「だから大企業は甘いんだよ」といわれそうですが、企業グループからの分離の過程について書いていきます。

企業グループから切り離すということで、親会社が分科会を設けて解決すべき課題を通告してきました。
ざっというとこんな課題でした。これらの結論は株式譲渡契約のなかにも規定されました。

①不動産の整理
②知的財産権の譲渡
③商号変更
④手形割引サービスの終了
⑤共同購買システムの利用期間の制限
⑥情報システム(IT基盤)の分離
⑦親会社労働組合組織からの労組独立と組合の名称変更
⑧健康保健組合、年金基金からの退会
⑨親会社従業員持株会からの退会
⑩団体保険の取り扱い変更

 当社の売却を発表したあと、親会社の社長はことあるごとに「同じ釜の飯をくった仲間を支援してもらいたい」と社内ではいっていたようですが、実際資本関係が切れるのですから支援といっても限界があります。実務現場では「さっさと縁を切りたいのだな」としか解釈できないような言いようが目立ちました。資本関係が切れるのだから即刻諸々縁を切るところ、それでは大変だろうから猶予期間を設けてあげますということでしたが、それでもほとんどの項目が最長で3年を目途に解消することを求められていました。福利厚生にかかわる⑧⑨⑩のように従業員個人の生活に影響を及ぼす事項もありましたから、従業員から当然とまどい、不平不満の声があがりました。

 経営不振が理由で切り離されることになったのに、③や⑥のように億単位の費用が発生する項目もあり、ますます当社の経営を圧迫するではないか、と腹がたったこともありました
 親会社の法務部長から、「できることは協力するから話をあげてこい」といわれたことだけが唯一の救いでした。(この項、続く)
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