つづきです。

【葛藤(1)】

 メーカー団体による共同リコールという方向が決定したところで、リコールの主体となる協議会の発足や広報体制づくりが始まるのですが、それはひとまず横に置きます。

 本篇2で書いたように、新たに発足した協議会と加盟した企業で共同リコールに向けて改めて対象製品の総出荷台数、改修済み台数、事故件数の報告と詳細確認が開始されました。実際、最初の事故の発生から20年もの年月が経過しており、再確認作業というのはけっこうな労度です。20年も経てば製造、出荷、販売それぞれの業務に関わった人間も異動なり退職なりしていますし、在籍していたとしても記憶もおぼろげになっています。
 またこの作業の中で、各企業間で微妙に「製品事故」の定義が異なっており、最終数値がまとまるまでの間何回か議論となりその都度数値を見直すことになりました。(注:けっして「事故」認定の基準を甘くしたということではありません)

 本篇2で書いたように、この作業のなかで6月第2週に発見された勤務先の「報告されていない1件の人身事故」の情報ほど協議会内を困惑させたものはありません。「なぜ今頃そんな話がでてくるのか」「いまさら..」などという声があがったのも無理はありません。また機器メーカーからは、社内情報管理体制について厳しく追及されました。もともと機器メーカー側は、過去の自主改修活動を含めてユーザーに対する責任は最終製品メーカー側にある、というスタンスにありましたから、機器メーカー側への報告直後の協議では、先方のCSR部門長から辛辣な言葉を浴びせかけられました。(あとからその会社の広報室長に慰められたほどです)当然我々に反論の余地はありません。

 メモ発見後、即座に親会社(当時の)法務にも報告、そのまま親会社の顧問法律事務所に今後の対応について相談しました。対応といってもひとつしかありません。この「報告されていない人身事故」の公表についてです。

 答えはいうまでもありません。しかし、こういうときに悪魔のささやきをきいてしまう人もいます。
「事故直後から現在に至るまで、被害者の家族から当社に対して何のアクションもないじゃないか」「寝た子を起こさなくても」
「もう時効だよ(時効じゃありませんが) 」

 さいわい(という言い方も変ですが)、当時の事業部門長は「公表する」という意思を固めていたのですが、経産省と協議会とで枠組みを作ってきた共同リコールとの関わりをどうするか、ということが課題となったのです。  
                                                                      つづく