「土地代とか人件費の安さだけで工場の立地を決めちゃだめなんだよなあ」
一昔前、同じ県下に生産拠点を構える同業者のS氏が酒を飲みながら嘆きました。
「やっぱりモノづくりの風土というかDNAがある地域とそうでない地域とでは違うんだよ」
彼がいわんとすることはわかりました。勤務先の工場でも彼がいうような事態が起こっていましたからね。(ここでは多くは書きませんが)

 そのS氏の勤務先である企業の創業の地を久しぶりに見学してきました。(このような場合は「広報職」という立場です)ついでに同じエリアにある、今苦境に陥っている電機メーカーの創業者の実家である酒、味噌の醸造元にも立ち寄ってきました。(このように書くとどこだかわかりますよね)

 前者の場所を訪れるのは7、8年ぶりのことです。
古くからモノづくりの歴史のある地域ですが当時は一企業が創業地に建てた歴史館をどうように地域社会で活かすかという試みを始めたばかり、どうなるのだろうと思っていたのですが、今回訪れてみるとごく普通に地域に溶けこんでいるようにみえました。

その日はちょうどその施設と町が行うイベントと重なっていたのですが、地元の小学生がその施設内の工房で作った作品がイベント会場を盛り上げる小道具として並べられていました。(作り手の名前入りで。見事なものばかりでした)
 
 同社のその施設の事業(文化事業)が単体で収支がとれているかはわかりません。
しかし、自分の手で作ったモノがイベントで使われ見物客を喜ばせたという経験をきっかけにして、小学生のうちの何人かがその企業の作り手またはその町の地場産業の担い手になる可能性もあるわけですし、また協業を重ねていくことで地域と企業との良好な関係が保たれることもあるわけで、長期的な投資活動と考えられなくもありません。同社は比較的ドラスティックなグループ経営に移行しているのですが、そのなかでぶっつり断ち切られることなく継続しているので評価を得ているのでしょう。

 自分は創業の地があり創業家がきっちりと存在感を示している企業の強みというものを改めて痛感し、ああ、こりゃあ敵わないなと素直に思いました。
 製造業にとって「モノづくり」をどのように継承し発展させていくか、人材確保をはじめ非常に重い課題になりつつあります。今回見学した企業と同じことは当然できませんが、何かしらのヒントはあると思いました。

 と、自分だけが思っていても仕方ないので、まあ経営者や人事部門も他社のいろいろな見学しに行く事を薦めることからかと、立ち寄った醸造元で買った原酒を呑みつつぐだぐたと書いたのでした。