企業法務マン迷走記2

 大船ならぬ「酔っぱらった船」に乗ったかのような企業法務担当者の日常

2012年02月


正しい会社の売られ方 7の3

(1)吸収合併契約締結の承認
取締役会(2008年1月末)
存続会社:勤務先 消滅会社:合同会社(ファンドの受皿会社)
契約書は会社法第749条に基づく内容。
吸収合併の対価は「吸収合併存続会社の株式」(同条1項2号イ)
⇒合同会社が保有する株式を自己株式取得して、代わりに対価として合同会社の株主(投資ファンド)に自社株を交付します。
これにより投資ファンドの持株比率が株式譲渡契約で規定され金融機関との金銭消費貸借契約で前提条件に規定されたものになるのでした。(投資ファンドが80%台、元親会社が10%台)
吸収合併の効力発生日は3月下旬としました。

(2)臨時株主総会招集
①会社吸収合併契約締結承認 
②定款一部変更案
何を変更するかというと 《公告方法》です。
多くの非上場会社は公告方法を「官報」にしていることと思います。勤務先もそうでした。
吸収合併という組織再編行為を行うので「債権者の異議申立期間(会社法第779条)」を設けるのですが、組織再編の内容と債権者に異議申し立てが可能であることを官報公告と知れている債権者に個別に催告しなければなりません。主だった債権者(サプライヤーさん)だけでも、けっこうな数にのぼります。まず現実的ではありません。
そこで回避策としたのが会社法779条3項の規定です。公告方法が会社法第939条1項2号に定めるところの「日刊新聞紙」であれば、官報と日刊新聞紙で公告を行うことで、個別催告を行わなくてよい、というものです。(司法書士との打合せで確認したのですけどね)ということで定款変更(公告方法)を行うわけです。
ちなみにこの日刊新聞紙は日経・朝日・読売・毎日といった全国紙ではありません。ぎりぎり(といったら失礼か)日刊新聞紙扱いです。
「そんな新聞知らないぞ(重ねて失礼)」という役員もいましたが、手続優先といってスルーしました。

臨時株主総会は2月初旬に開催、官報・日刊新聞紙での公告を2月中旬に実施(催告期間は最低1カ月)、3月下旬に合同会社吸収合併を終えました。

こうして、勤務先の株式譲渡手続は2008年3月下旬にひと段落ついたわけですが、「売られたこと」が本当に響いてくるのは、このあとからでした。

正しい会社の売られ方 7の2

3.2008年1月●日 臨時株主総会
 ・株式譲渡の承認
 ・定款変更案の承認 (株券発行会社、株式譲渡制限の撤廃)
 ・取締役選任
 ・監査役選任
4.同日 直後取締役会
 いうまでもなく
 ・代表取締役、取締役社長選定など
 あわせて、合同会社の連帯保証人となり、金融機関に担保差し入れなければならないので
 ・抵当権設定、質権設定の契約締結の承認

これら株主総会議事録、取締役会議事録、変更後定款の原本証明付き謄本、履歴事項全部証明書、抵当権関係の契約書諸々金融機関に提出する書類作成を経理スタッフと自分のほぼ2名でこなしたのですが、勤務先売却やら自社の財産への抵当権設定の手続をそつなくこなす、という何とも奇妙な時間を過したわけです。

そうこうして株式譲渡の法的な手続は終わり、金融機関との諸々の手続に進みましたが、もうこれについては、金融機関のいうとおり進めるしかなかったということしか憶えていません。書類不備や期限遅延は許されませんでしたから、手続が終わるたびほっとして忘れていったというのが正直なところです。
唯一はっきり憶えているのは以下のエピソード。

金融機関の会議室で、前述の書類の受け渡しのほか、投資ファンドへの株式譲渡(株券の手渡し)を行った際、金融機関の営業マンが記念写真を撮りましょう!と提案し、自分と投資ファンド社長が株券を手に持つ構図で写真に収まることになりました。撮影の瞬間「はい、笑顔で!」と声をかけられましたが、我々が笑えるわけないじゃありませんか、まったく。今も微妙な表情をした自分が写っている画像をこの時の誰かが持っているはずです。

このあと3月に合同会社の吸収合併を行うわけですが、とりあえずここで第1段階が終了。
個人的には、法務1年目にしてはからずも企業買収のひとつのパターンについて、勤務先の売却劇を通じて学んだわけです。
会社は売買できる(される)ものなのだ、と実感しましたよ。

引き続き、次は合同会社との吸収合併について。

正しい会社の売られ方 7の1 

株式譲渡から合同会社吸収合併までの作業ドキュメントを数日に分けてアップします。

手続は、教科書どおり、といってしまえばそれまでですが、実際に行ってみると書面準備やらスケジュール管理の徹底に忙殺されました。アクロバチックな日程でしたが、こういう案件に手なれた司法書士の手助けがなければ、無理でしたね。
おかげさまで実務を通じて会社法の勉強にはなりましたけれど。

株式譲渡以前の勤務先の会社法上の機関設計は
「非公開会社・大会社・取締役会設置会社・監査役設置会社・会計監査人設置会社」。
これが株式譲渡により
「公開会社・大会社・取締役会設置会社・監査役会設置会社・会計監査人設置会社」になります。
手続概要は以下のとおり。

1.12月●日親会社取締役会開催
⇒親会社から当社に対して「株式譲渡承認請求」(会社法第136条) 
⇒株式譲受先である合同会社から当社に対して「株式譲渡承認請求」(同137条)
 会社法第138条に基づく書面を頂く。

2.勤務先臨時取締役会開催

1.の同日に取締役会の招集期間省略同意(会社法第368条2項)をもって取締役会開催。
まあ、日程的にこれしかなかったのでということでした。
⇒株式譲渡の承認決議
⇒臨時株主総会の招集決議&臨時株主総会付議議案決議
 臨時株主総会を年明け早々に開催する段取りとなりました。
(1)100%子会社だったので、定款で「株式譲渡は株主総会の承認を要する」と定めていたため。
(2)株主総会付議議案は以下
①株式譲渡承認(会社法第139条)
②定款変更案
ⅰ)株券不発行会社⇒株券発行会社とする。
ⅱ)株式譲渡制限の撤廃
 この2点は金融機関との金銭消費貸借契約の条項と関連してのこと。
ⅲ)取締役選任
 定款変更により、株式譲渡制限を撤廃するので取締役の任期が満了(会社法第332条4項3号)
 (親会社からの取締役が抜け、投資ファンドから役員を迎えることになりました)
ⅳ)監査役選任
 定款変更により株式譲渡制限撤廃、公開大会社・非委員会設置会社となるので監査役会設置義務を負うため(会社法第328条1項)
(親会社、投資ファンドから監査役計3名を迎えることになりました)

株式譲渡承認決議を行った取締役会議事録、臨時株主総会議事録、直後の取締役会議事録、変更後の定款の原本証明付き謄本は金融機関が貸付にあたって提出を求めていた書類でした。もう当時は書類の山に埋もれていました。

正しい会社の売られ方 6の2

前回、下線部をひいた項目について、我々が貸付人のために事務作業を行わなければならなかったものの例を挙げておきます。

■前提条件
①株式譲渡ののちであっても親会社が対象会社(=勤務先)株式を一定の割合で保有すること
②勤務先が一定期間現行商号の使用を許諾することに関して契約を締結していること。 
⇒商号やブランド変更は、会社の事業活動に大きな影響を及ぼす可能性があるので、激変緩和措置を株式譲渡契約に規定しておくこと、ということ。(当時企業グループの冠名が商号に付いていました。本来なら連結から外れる時点で冠は使用できないルールでした)

■保証人(=勤務先)の義務 
①事業報告書、財務諸表、貸付実行後の月次報告、株主名簿、税務申告書のコピー等の書類提出
⇒のちのち経理部門は報告義務に追われることに。
②当社と子会社が保有する不動産について、貸付人が満足する調査会社の調査報告書の提出
⇒金融機関指定の調査会社が工場その他査定にきました。
③当社と子会社が保有する主要動産、棚卸資産の外部評価会社による評価書提出
⇒金融機関指定の外部評価会社が工場その他をチェックしていきました。

■保証人の作為義務
①借入人と保証人との吸収合併を当該年度末までに完了させること
②貸付人に対する財産の状況、経営状況の定期報告
③金銭消費貸借契約の「担保」の項に記載された担保目的物に、貸付人のために第一順位の担保権を設定する
⇒当然といえばそうなのですが、担保設定の際の登録免許税だけでも凄い金額に。
④借入人(=合同会社)は対象会社、対象会社子会社を連帯保証人にする
⇒後日子会社に説明しにいったとき、顔を真っ赤にした役員から「どういうことだ!」と怒鳴られました
  
この場で全部あげられないのですが、タームシートや契約書の条項から察するに、要するに親会社、投資ファンド、金融機関の3者が総がかりでスキームを仕上げていたというわけです。知らないのは我々だけだったのかもしれません。

このあと年末にかけて金銭消費貸借契約書が仕上げられていきましたが、我々の手の届かないはるか上空で親会社、親会社の法律事務所、投資ファンドの法律事務所、金融機関、金融機関の法律事務所が深夜まで闘っていました。大変だなともはや他人事のように思っていましたが、契約書確定版には金融機関の法律事務所のフィーは対象会社の負担、とさりげなく契約書にありました。

次は株式譲渡から合同会社との合併までを手続等を中心に。 

正しい会社の売られ方 6の1

投資ファンドによる買収方法がLBOなので、まず受け皿会社(ファンドが設立した合同会社)と金融機関と金銭消費貸借契約を締結。時間をかけずに勤務先が受け皿会社を吸収合併するのですから、結果的に勤務先が借入をするのと同じことになります。
ところが、100%子会社時代は企業グループ内金融で資金をまかなっていましたから、社内の誰一人として金融機関と付き合ったことがありません。
契約書の概要をまとめたファイナンス・タームシートが届いたときは社長、経理担当取締役、自分とで内容を読み合わせましたが、なんかもううちのめされた感じでした。

タームシートは契約書の下敷きになるもので、ざっくり以下のような構成、項目です。
金融機関によって構成は違うかもしれませんが参考までに。
実際はA4用紙に文字がびっしり、というものでした。

■ローン基本条件
  貸付人 借入人 対象会社 保証人 組成金額 
■ローン内容
  貸付額 貸付実行日 満期日 貸付形態 金利条件 
  金利支払日 元本弁済方法
  資金使途 貸付実行 決裁口座 担保の種類 保証、
  ローンの前提条件 ローン期限前弁済
  貸付義務免除 遅延損害
  借入人の義務 表明保証事項
  借入人及び保証人の義務 報告義務 財務制限条項 作為義務 不作為義務
  期限の利益喪失事由、請求失期事由etc

下線部には、親会社と投資ファンドとの勤務先株式の譲渡契約において規定される事項が含まれています。
まさに、がんじがらめ。

 このときになっていかに大企業の子会社は恵まれた環境にあったのかということに気づかされました。
町工場の社長や商店街の商店主は、それこそ身代すべてを担保にして銀行や信金と交渉しているのだなと。
  
 しかし、そんな感慨を抱いたのは一瞬のことで、タームシート(のちの契約書)で前提条件なり義務と定められた項目のうち法務がやるべき内容を自分なりに書き出していくうちに「期日に間に合うのか?」という不安がどんどん膨らんできたのでした。 
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