企業法務マン迷走記2

 大船ならぬ「酔っぱらった船」に乗ったかのような企業法務担当者の日常

2013年10月


正しい会社の売られ方 幻のIPO

 「ウチがずっと親会社でいるなんて思っていませんよね?」
 「まさか!おたくだってずっとウチの株式を抱えているつもりもないでしょう?」
 「いや、君じゃなくて他の皆さんがどう思っているかなんですけど」

 投資ファンド傘下になって3年目を迎えたある日のファンドのスタッフと僕との会話です。
メディアの取材に対しては勤務先の株式上場の可能性について言及してきた投資ファンドですが、担当者層で具体的に「出口戦略」のことについて触れてきたのは、このときが初めてだったと思います。
 当時の勤務先の状況といえば、販売子会社の吸収合併や商号変更を行い、苦しい思いをしながら固定費を削減しなんとか業績を維持しようとしていたときですから、「株式上場を目指す」といわれても正直いまひとつなぴんとこない話でした。しかし準備期間をいれて3年はかかる株式上場です。買収してから6年以内に勤務先への投資回収を終わらせたい投資ファンドとしては、3年目で準備開始というのはぎりぎりのタイミングでした。

 いまひとつピンとこないまま、しかし「何から始めるのだ?」という話になります。
勤務先の場合、「中期経営計画」の策定から始めることになりました。
「前にも作ったけれどまた?」社内からこんな反応が返ってきます。
確かに過去数回「中期経営計画」は作成したことはありました。しかし無手勝流で作成したり、完成するとファイリングして以後開かずのファイルになった例がありましたからそんな反応が起こるのはある意味仕方がありません。
難儀なことになるなあと思っていたのですが、ファンドスタッフからの意見もあり中期経営計画作成作業の事務局を引き受けることになりました。そしてこのまま上場準備の事務局まで続けることになるのでした。

とりあえず今回はここまで。


 

 

正しい会社の売られ方 人材4

 某誌記事のほとぼりが冷めた頃(何の?)なので再開です。
続きといえるのか何ともいえませんが、羅列気味に書きます。

 ずっと子会社でいる企業には独立企業に通用する人材がいないか、といえばそんなわけはありません。
親会社が構築した人材育成制度は利用できることもありますし、勤務先のようにある時期までは同じ企業に所属していた人間は、その企業ならではの階層別教育も受けています。基本的なスキル取得やキャリアは積んでいます。
 会社を売られると、元の会社の人材育成制度やそれに基づくものぶっつり切られます。
人材育成というのは、時間も費用もかかります。相応の人間を投入しないと新たな制度を構築するのは容易なことではありません。人材育成に関するスキルもそうですが、何より新しいものを作り出す、というパッションが必要になるのですが...

 株式譲渡契約には必ず売主買主の免罪符のような条項があります。
「対象会社の役員、従業員の雇用や処遇などの諸条件については当面の間現行のものを継続する、保証する」といった条項です。激変緩和措置としてはもっともな内容ですし、対象会社の従業員の一番の関心はやはり雇用の保証、既得権の継続です。(もっとも株式譲渡契約の内容が対象会社にオープンにされることはありませんが)
買主としても必要な人材の流出は避けたいところなのですぐには手をつけません。
買収決定後の顔合わせの場面でも「当面、従来と変わりません」とにこやかに説明したりもします。
 そこでなんというか、対象会社側は安心してしまうのですね。

 今になって思えば、投資ファンド傘下の期間中に独立企業といて生きていくというマインドを従業員一同で共有し、そのための体制に舵を切る絶好のチャンスだったのでしょうけれど、おりしもリーマンショック。それどころではない状況におかれてしまいました。出口戦略のロードマップとその過程で必要となる人材、スキルの明確化、人材、スキル不足を補うための教育、訓練といったことに取り組めればよかったのですが、不運というべきか(運も実力といわれたら非常に悲しいのですが)目先の資金、財務諸表のボトムライン対策が優先事項になりました。
LBOによる借入契約の財務制限条項が重くのしかかっていたのです。

前回の繰り返しになりますが痛感していることを。

 親会社が不振事業部を子会社として切り出すということは短期間連結子会社にしているかもしれませんが、事業譲渡や売却のシグナルなわけです。しかしこのシグナルを当の子会社が受け止めているとは限りません。
前回は子会社側が独立企業として生きていく準備が必要といいましたが、逆に親会社側も切り出す時点ではっきり宣告してもよいのではないかとも思います。お前たちは独立するか別の親を見つけて生きていくのだと。そのほうが対象会社も覚悟ができますし、それが結果的には「親心」になるのではないかと。

 さて、この連載を今後どうしたものかと思うのですが、投資ファンド傘下であった以上「出口」のことに触れざるをえませんね。
 逡巡したのですが、次回からは「実現しなかったIPO」について可能な限り書いていこうと思います。



 





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