企業法務マン迷走記2

 大船ならぬ「酔っぱらった船」に乗ったかのような企業法務担当者の日常

2017年10月


法務担当者は渉外担当者に転身できるか 2

 えー、不定期・連載エントリーです。
 自分のキャリア整理のような面があり若い法務担当者の参考になるのかわかりません。

 20年ほど前、まだ自分が営業担当者の頃ですが、一時期プロジェクト的に「官需市場」を担当したことがあります。といっても大掛かりなものでなく当時の部門長の判断で立ち上げたもので、補助金行政によって潤う市場を取り込もうにしても、関連法や制度をしっかり理解している、理解しようとする人間がいないことには話にならないということで、官需営業の表とそうでない部分に通じているベテランと、若手の中では官需営業の「いろは」の「い」から「ろ」ぐらいの理解はあるだろうということで自分とが組まされました。この仕事は営業ではなくて経営や事業企画部門の仕事じゃないのかと思ったのですが、「情報とりも営業の仕事だ」のなんのとそんな理由。ともあれ営業として受注高ノルマを抱えつつ、霞ヶ関や県庁界隈をうろうろする日々を過ごしたのでした。

 役所を回るといっても、何の実績もない企業の担当者が「こんち、これまた」で役所の担当官と話ができるわけはありません。ベテランが築いてきた「伝手」を頼るにしても予備知識なしでは、さすがに舐められる。何から始めるか。公共事業として金が動く以上「予算」の理解からだろうと、そこから始めたのでした。
 こんな作業でした。
  1. 霞が関の官庁の資料館や図書館を回る。
  2. 予算案や関連する書類を探して閲覧する。
  3. コピー可能な資料はコピーする。
  4. 販売されている資料は購入する。
  5. 資料を読み込んで、訪問する部署や確認事項を整理する。
  6. 所管や関連部署を訪ねて面談する。
 単年度の予算資料を読んでもわからないものです。何に基づいて予算付けがされているのか、予算資料だけでなく、基本計画やマスタープラン、議会資料といった文献を遡って読んでいるうちに、次第に資料で使われている語句(いわゆる役所言葉も含む)、「官」なりの思惑とそのための理屈が分かってきます。3年分くらい予算資料を読むとある事業について、線が繋がるという感じでしょうか。
(もっとも、これは20年前の話です。上記の1から4は、デスクに座ったまま官庁・自治体のホームページを一巡するだけで大体のものは得られるでしょう。まったく便利な時代になったものです。)

 役所を回るといっても、すべてアポイントを取ってからというものばかりではありませんし、時間をもらったといっても1時間ももらえるわけではありません。短い時間でどれだけのことを聞けるか、あるいは本当に聞きたいことを1つに絞るというのも重要で、その点はベテランの上司に教え込まれました。
「いいか、決め台詞は『教えてください』。民間企業の人間から教えてくださいといわれて断わる役所の人間はいないぞ。」 本当かいなと思いながら時間を作ってはぐるぐると役所を回っていたのでした。

 本来の営業の仕事かどうかは別にして数多の文献を読み込み分析、要約し、次の行動を何パターンか考える、という経験が多少なりとも現在の企業法務の仕事に役立っているかもしれません。「官」の思惑や理屈を読む、という癖がついたのもプラスかなとも思っています。
 
 では、そんな過去の営業経験といくばくかの法務経験をもって、官庁相手の渉外業務につけるかというとどうか。もちろん、それで十分だという方がいても異論はありませんが、もっていたほうが良い経験として業界団体の活動があります。
 上記の官需営業経験を通じて得たものはありますが、結局は自分の営業数字のためだけのものです。自分が渉外という仕事を目の当たりにしたのは、販売から事業企画部門に異動してからのことですが、それについてはまた不定期に。

 参考にならないかなあ、やっぱり。
   

世に隠蔽の種は尽きまじ 「大惨事と情報隠蔽」(草思社)

 あまりきついことを書くとブーメランとなるかもしれないので少し弱気な製造業勤めです。

 残暑厳しい初秋に書店に平積みされた書籍に「大惨事と情報隠蔽」(草思社:D・チェルノフ&D・ソネット)があります。
 自動車メーカーと鉄鋼メーカーの「不適切な行為」が五月雨式に明るみになる→何回も謝罪するという最悪の流れを辿っていますが、これらの事案が発覚する直前に本書が刊行されたのは何かの前兆だったのでしょうか。原書が2016年発刊のようでですから結構なスピードで翻訳版が出たのではないでしょうか。
 著者はチューリッヒ工科大学の企業家リスク講座に所属する広報や金融学の研究者で、リーガルの人ではありません。

 本書は
 第1部 リスク情報隠蔽はなぜ問題か
 第2部 リスク情報隠蔽の事例
 第3部 情報隠蔽・歪曲の原因
 第4部 隠蔽が進行中の事例
 第5部 リスク情報管理の成功例
 の5部構成となっています。
 第2部の事例は工業部門、金融部門、軍事・社会・自然災害、小売製造業 と広い範囲から、時期としては第二次大戦のソ連赤軍のものから21世紀のエンロン事件、サブプライム住宅ローン危機、福島第一原発などまだ記憶に新しく、事案としては終わっていないものまで20以上の事例が挙げられています。(日本語版出版にあたってフォルクスワーゲン社のディーゼルエンジン排出ガス不正が加えられたとのことです。)本書の版が重ねられるとしたら、間違いなく今般の自動車メーカー、鉄鋼メーカーの事例も加えられるかもしれません。

 第3部は事例の分析と統計学上の用語を用いて情報隠蔽の原因を分類しています。やや新鮮味がないと思う向きもあるかもしれませんが、それは不祥事は同じ原因で繰り返されるということの裏返しでもあります。これだけ企業不祥事が明らかになる時代であってもなぜ企業人は学べないのかという問いを突きつけられます。そして、「わかっていること」を本当に「実行すること」の難しさを痛感します。

リスクマネジメントというのは景気がよすぎるときには巨額の利益を邪魔するものとみなされ、危機的状況にあるときには省みるひまがないということである。(本書456ページ)

 件の2社に限らず、法務、監査、コンプラ担当者は情報隠蔽にどのように立ち向かっていくか、重い宿題です。




 



 

無形資産の毀損か枯渇か

 10月18日付日経朝刊に「ESG投資」(環境・社会・統治といった見えない価値への評価)が取り上げられていました。それで、管理会計の世界で取り上げられている「インタンジブルズ」を思い出しました。着目している点は似ていると思った次第。(走り読みの記憶ですのであくまで印象です)

 直近で報道を賑わしている自動車メーカー、鉄鋼メーカーの件ですが、報道先行でまだその行為の全貌がはっきりしていません。品質管理制度そのものがそれに携わる従業員の資質(人的資本というのでしょうか、インタンジブルズでは企業が支配できないものとしています)に依存していたことが今回の事案の原因の一つであるならば、日本の製造業に共通の「資産」として内外の評価を得ていたものを自ら毀損させてきたということになるのでしょうか。あるいはそこにベテラン社員の引退や新人の採用難で人員確保や確保後の訓練も不十分といった事情が絡むとするなら、資産の「枯渇」というところでしょうか。ただし鉄鋼メーカーの方は数十年も前から本来の意味とは異なる「トクサイ」を続けてきたとの報道ですのでそれが事実であれば、そもそも「資産」がなかったということなのかもしれません。

 もともと書こうとしていたエントリを変更、メモとして。


 

示唆するもの 『観応の擾乱』(亀田俊和 著)

 本日のネタは『観応の擾乱』であります。何がどうなのか混乱の極みの解散総選挙についてこの文言を呟いたところ、『観応の擾乱』(著:亀田俊和 中公新書)の著者にRTされまして畏れ多いことであります。#LegalTechLTで盛り上がっているというのに、室町幕府初期の内乱をネタに?というところですが企業の組織ネタとして考えていたので、まあそのあたりをぶつぶつと。

 観応の擾乱は、兄弟仲良く幕府をスタートさせたはずの足利尊氏・直義兄弟の骨肉の争いに全国の諸将と北朝・南朝が巻き込まれた(南朝方はつけ込んだというのが正解か)内乱。歴史嫌いの理由にあげられる「登場人物が多いし、敵味方がコロコロ変わるのでよくわからない」そのもの。
 大雑把に現代風に例えると、長年大手企業の下で苦渋を舐めてきた下請会社の経営者尊氏・直義兄弟と彼らを支えて来た総務部長である高師直一族が、ようやく単独で事業を立ち上げたものの組織の統治方法や権限やらを巡って争いさらに後継者問題も加え、大株主を巻き込んだ争いになってしまったという感じでしょうか。
 内乱初期では兄尊氏はぼろ負けです。尊氏側についていた高一族もほぼ壊滅させられました。それから尊氏は巻き返し、弟直義を追い詰め死に至らしめ勝利します。この後も武蔵野での合戦や、庶子直冬との戦いは続きましたが最終的には反対勢力を駆逐するのです。
本書『観応の擾乱』ではこの内乱を通じて尊氏と室町幕府は政権担当能力を身につけたと評価しています。
 共同経営者の弟と有能な総務部長を失って初めて兄が経営者として独り立ちしたというところでしょうか。

 本書を読んで自分なりのポイントとしたのは「なぜ尊氏は巻き返しできたのか」という点。
ぼろ負けしながらも直義との講和で恩賞充行権(役職員の査定や報酬決定とその執行権といえばいいのかな)を死守したところが潮の変わり目になりました。
幹部や上司を何をもって信用するか、その組織に留まるかという判断基準が「業績に対する正当な評価と報酬支払」というのはいつの世も変わらないということですね。
 また室町幕府スタート時は尊氏・直義の二頭政治と理解していたのですが、実質は直義がほぼ切り盛りしていたことが本書で明らかにされています。
 シンボルとしての経営トップと実務上のトップとに分かれる「共同経営」の危なっかしさも中世の時点ですでに起こっていたのですよ。統治と権限、というのは今も昔も経営者にのしかかる課題であることに変わりないということでしょうか。

 ところどころ企業法務の視点を織り交ぜ読みましたが、中世史に興味がある者としては面白い本でした。
 日本の中世史は趣味としてじっくり取り組みたいと改めて思いましたね。
 

されどNDA Business Law Journal 2017年11月号

 えー、月が変わってしまいました。今年も今月を入れて3ヶ月ですね。

 BLJ11月号。
  • 特集「秘密保持契約の最適化」から。
 まず、総勢9名ものクロストークを編集しきった編集部に頭が下がります。リアルに意見を交わす座談会とは異なるので、山場を作っていくのはさぞご苦労されたのではないかと思います。はい。

 ピラッと1枚、「ちょっと見ておいてください」と営業や事業部門から依頼されることが多いNDA。
曰く「これを交わさないと始められないので。」
 いやいや、もう何かを目的にしてNDAを交わそうという協議した時点で始まっているんじゃないの?というような話を何回したことか。現場の勘違い、NDA締結が契約交渉の第1段階だと思っていることです。これが共同開発の検討のようなケースでもたまにあるようなないような。
 相手方のフォーマットで時々見かけるのが「秘密情報の例外」と「秘密保持義務の例外」の勘違い。
あとは、共同開発検討を目的とするNDAでほぼ設けられている「成果の帰属」条項。まだそんな段階ではないだろうと、検討が終了して次の段階「共同開発契約書」を締結する場合に定義しましょうとやんわり押し返すこともあります。
 またどうも相手方の社内事情もあってかNDAや販売基本契約などを一気に締結しようとけしかけられた時に、NDAに対するコメント応酬が噛み合わないので「スタート地点がなんか違うのではないか」と事業部門にコメントを戻し、後先は逆ですがそもそものLOI締結まで押し戻したこともあります。

 NDA レビューをきっかけとしてひとつのビジネス全体を見渡すケースもたまにはあります。何が目的なのか、自社側の開示情報量が多いのか少ないのか、いつまでに目的の検討を終えるのか、検討が無事済んだら次はどうなるのか。別に新人でなくとも、新しい取引の契約はちょっと面白みを感じるものです。その端緒がNDAのレビューとしたら、やはり「されどNDA」なのですよね。

  • 実務講座「建設業法遵守のポイント 人の配置に関する規制を中心に」
 組織再編の際に苦闘苦悶するのがこのポイント。
 吸収合併の場合、被合併会社の建設業許可は存続会社に引き継がれないので、存続会社が保有している許可が被合併会社のそれより少ない場合、あたふたとすることになります。ま、理不尽な逆さ合併を目論まれた時の歯止めにはなりましたが。
 注意すべきは人事異動ですね。営業所に専任技術者が不在!というみっともない事態にならないよう、人事部門は特に注意を促しておく必要がありますね。

  • 連載「法務部門における品質確保・向上の方法論」
 今回が2回目ですが、コメントはもう少し回が進んでからかな。










 
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