企業法務マン迷走記2

 大船ならぬ「酔っぱらった船」に乗ったかのような企業法務担当者の日常

2019年02月

 2月25日付で東京商工リサーチが発表した企業倒産調査によると、2018年の負債1000万円未満の倒産は3年連続で前年を上回る521件。このうち人手不足関連は31件、うち代表者の病気・死亡による後継者難によるものが27件、とのこと。

 BLJ4月号の特集は企業法務担当者が心躍らせる?「M&A」特集。今回は「コンパクトM&Aの対応実務」。先月号の実務解説「カーブアウトM&Aの法的留意点」に続いての特集です。読者の需要が高いのでしょうね。

 大掛かりな企業買収・合併というよりは「カーブアウト」のような事業部門の切り出しと売買、中小企業の事業承継といったケースに備える方が企業法務担当者としては現実的かもしれません。直近でも同業他社がとあるサプライヤーの親会社との間でカーブアウトM&Aの手法で、まんまとサプライヤーを完全子会社に収めた事例がありうまいなあと感心したことがありました。(いや、実際は感心している場合ではないのですが)当該企業の渉外担当者曰く「弱ったところを狙って安く買う、いつもの手」とのことでしたが、こういう企業の法務担当者はどのようにM&A業務に対応しているのでしょうね。

 取引規模が大きくないM&Aでは、DDを大手法律事務所や会計事務所に丸々託すわけにはいかないでしょうから、買主企業の法務担当者の関与する割合も大きくなると思います。ではどうすれば?というのが今月号の特集の趣旨なのでしょうか。この点ではTMIの佐藤義幸弁護士の「法務デューデリジェンスにおけるメリハリの付け方」が的を得ているように思いました。この記事と先月号の「カーブアウトM&Aの法的留意点」を合わせ読むと「コンパクトM&A」での法務担当者の仕事のありようというものが掴めると個人的には思いました。取引額は大きくないが売買の対象事業(対象会社)を従前と変わりなく運営していくために諸々のコスト発生、ということがカーブアウトではありますからね。

 M&Aの記事というとどうしても横文字が多くなりますね。活発に企業買収に投資をしている産業がIT系や金融系であることもあるのかもしれませんし、ファイナンス用語は日本語に置き換えられないという事情もあるとは思いますが、本当に「コンパクトM&A」を必要としている層はどこなのかということを考えるとどうももやもやとした思いが残ります。
 自分が今いる業界(そして勤務先)の事業は裾野が広く、冒頭で引用した事業承継に行き詰まる可能性がある小規模企業がサプライチェーンを構成しています。
 (法務担当者がいるわけがない)小規模企業の存続の手段としては「コンパクトM&A」が一つの手法なのですが、法律雑誌に掲載されるだけでは必要なところになかなか届かないのですよね。





 
  

 法務ネタに戻ります。拾い読み、ビジ法2019年4月号です。

 メイン特集は「契約書審査 効率化の要点」ですね。
 某所で開催された#2clegal + #legalAC の会合でもテーマのひとつになっていました。

 請負契約の業界かつ請負人側なので、相手方の一方的な書式で取引契約締結を要請されるケースが多いので契約書審査といってもかなり限られた範囲で「抵抗できるかどうか」ぐらい。それなりの規模の相手方だと業界団体作成の約款が下敷きになっているので、一時期に比べれば「契約者平等の精神」の輪郭をなぞるくらいにはなってきたのかと思う今日この頃です。
 営業担当者からよく「法的に問題はありませんか」と訊かれます。問題のあるなしでいえば「問題ない。」ことの方が多いのですが、自分たちが契約書上の規定を全部守れるか、あるいは過剰なリスクを抱えることにならないか、といったところを読み取れているのかというところが本当に心配。審査を依頼されたときは、ドラフトに手をつけるより前に「ここのところちゃんと読んだか?」「打ち合わせ通りの内容か」「現場で守れるのか」「(社内の)経理に確認したか、品証部門とは話が付いているか」などなど質問を投げかけることが先になります。こちらが理解するためということもありますが、仕事欲しさに前のめりになっている担当者を落ち着かせ、交渉できる余地に気づいてもらおうという感じでしょうか。法務がごちゃごちゃいっているから交渉してくるのではなく、取引の当事者として少しでもリスクを減らしてこれるようになれよ!と担当者が理解できるようなコメントをひねり出す業務でもあります。
 さてこんな業務をどのように効率化していくか
 
 審査業務の効率化が常に話題になって久しいし、AIツールを使ったサービスの発展普及が「効率化」の解決策の有効な方法のひとつになることに異論はないけれども、それで全ての取引上のトラブルが回避できるというわけではないでしょう。また学習型のAIツールであれば、同じAIツールを導入したはずなのにユーザーのインプット次第でツールの成長度合いが異なるといったことがあるかもしれません。
 本特集は冒頭日立製作所の飯田氏、東京ガスの藤井氏両氏によるオーソドックスな契約書審査業務の心得の2連発となっていますが、AIツールの時代を迎えたとしても、いや、だからこそ企業法務担当者が身につける必要があるスキルについて改めて言及されたものと思います。
 AIツールが契約書審査を効率的に行いそして確実に有利なドラフトを作成できるようになるには、インプットの質を高く保つのが前提でしょうし、そのインプットは当面企業法務担当者が行うのでしょうからね。
 



 


 

 法務情報のフォローを後回しに日々を過ごしながら。

 少し古いネタになりますが、BLJの2019年2月号ブックガイド特集に異質な1冊が紛れ混んでいたので
その読後感といえばよいのか。「管理職が読んだ1冊」にあった「半席」(青山文平著)。ジャンルでいえば江戸の武家モノになるのでしょうけれども、主人公は若い徒目付。現代の企業での役割でいえば監査担当者に近いお役目でしょうか。この役目を果たしてなんとか旗本の身分を得ようとしているのですが、上役からいいつかるのは、裁決済みの事件の「なぜ」を究明せよというものばかり。こんな仕事をしていて自分は旗本になれるのかと思いつつ事件の当事者や周辺に当たっていくのだが…という連作。

 「なぜ?を何回繰り返しましたか。」
 業務災害が発生し事故速報が入ったときに、環境安全部門の責任者が報告者に返すコメントです。彼がこのコメントを返す速報は事故を起こした当事者に帰責させる記述に偏っていたり、対策が対処療法に留まっているのが(自分の目から見ても)明らかなケースのとき。原因を「個人の資質やスキル、経験」や「すぐできる措置」に留めることは再発防止にはつながりません。社内規則に基づく報告義務を「形式的」に守ることを最優先にしてしまいがちな現場に対して厳しい一言です。

 「もう1回訊くけど、なぜこんなことをやろうと考えた?」
 従業員が不祥事を起こしたとき、本人や周囲に対するヒアリングや調査は数回繰り返します。上層部は早く結論を出せとせっついてくることが多いのですが、聞き流すことも多々あります。不祥事を発生させそれを可能にした環境や土壌など本人以外の要因まで洗い出さないことには有効な再発防止策を打ち出せないと思うからなのですが、以前エントリーで書いたように「着地点」を求められることもあり(以下省略)

「なぜ」を繰り返し、あるいは「なぜ」の筋を描き読み、事故や不祥事の原因の底にたどり着いたとしてもそれが必ずしも心地よい結末をもたらさないのが「監査」や「監察」の一面。目に見える実績ややりがいがあるのか?と思う人も多いでしょう。実際この業務に伸び盛りの若手・中堅ではなく、引退間際のベテランを張る企業が多いことと思います。業務経験に通じた人間が適任というのがそれらしい理由ですが、なんとなく引退前の並木道(花道ではない)のように考えている経営陣もいるのでしょう。
 親会社の内部監査室長と接する機会が多いのですが、彼は監査・監察の仕事を幹部候補生のコースに入れるべきだとの意見の持ち主。将来経営のありようを担う人間こそ中堅の時期に業務や従事者の裏表を知り、経営改善の意見を経営者に具申する経験を積ませるべきだと。「引退までの月日を指折り数えるような人間を監査の仕事に就かせても、本当に組織にプラスになると思う?」と。

 『半席』の主人公は最初は戸惑い抵抗感を頂きながらもいくつかの事案の「なぜ」を探り、真の理由に行き着くことを繰り返していくうちに目付筋の役目に意味を見出していきます。連作の中には、ちゃんと監察の人間が恨みつらみを買い命を狙われる覚悟を持ちわせなければならないというエピソードも織り込まれています。
 時代物、若い武士の成長譚として読んでも十分面白いのですが、監査・監察の仕事の視点で読んでも面白い連作です。著者の経済関係の出版社の記者出身という経歴も反映してのこともあるのかもしれません。

 では。そろそろ企業法務ネタに戻らなければならないかな。


 
 
 

 



 

 心身の疲れか衰えなのか、通常業務はこなしているものの法律系の情報から距離を置いて数日。
たまたま近藤史恵の「サクリファイス」シリーズの3作目(スピンオフの短編集は除く)「スティグマータ」が文庫化されていたのをみつけたので読む。

 自転車のロードレースチームを舞台に、エースではなく「アシスト」を主人公に据えたシリーズですが、アシストが負う酷な役割をきちんと描いている小説だと思います。チームの勝利のため、エースを優勝させるため、風よけ、牽引役、ライバルを消耗させるためのアタック、ときにスポンサーを満足させるためにTV中継で大写しになるような走りまで要求される。エースはアシストを使い倒し、アシストはエースのために己の体力・能力を使い切る。「サクリファイス」とはよくいったものです。
第1作目の「サクリファイス」が刊行されたのは2008年。勤務先が売却され資本が変わり組織も流動的に変わる期間の始まりの頃、部門長は上にいるものの「法務」「広報」業務の経験者はなく、組織内における位置付けも混乱している状況で自分はどういう職業観を持って働くべきなのか、そういう思いが幾度となく浮かぶものの、日常業務に落いつくのが精一杯でした。

 それから10年。
 年末に事情があってとある面談に臨んだときに、10歳は年下であろう相手に「あなたは攻めの法務ですか、守りの法務ですか」と訊かれ苦笑いで応えるぐらいまではきました。
 世の中の大概の事業会社では収益を稼ぐ部門が「エース」であり、「攻め」であろうと「守り」であろうとバックオフィス部門に位置付けられる以上法務部門等が「アシスト」であることに変わりはないと思っています。
自転車のロードレースにおける「アシスト」が、ときにエースに先行してレースを作る、伴走して牽引役、風よけとなるのと同じような役割を果たすことができればいいかと。 
 ただしアシストとして使い倒されるにしてもそのための経験や能力は必要で、それが備わってなければ「アシスト」としてエースから選ばれないのはいうまでもありません。
 一方アシスト側から使い倒してくれる相手を選ぶことがあってもおかしくなく、使い倒されがいのないチームから別のチームに移籍するのはプロとして当然のことでしょう。経理や法務部門の担当者が転職する理由も似たようなところがあると思います。

 「スティグマータ」では、不安定なエースの様子を見てアシストとしての仕事をせずに自分のレースをしないかとチームメイトが誘ってくるのに対して、エースと一緒に走ると主人公が言い切る場面があります。自分だったらそう言いきれるか。
 
 使い倒され、使い切るアシストになれているのか。爽快なスポーツ小説を読んだにもかかわらず、読後にそんな思いを抱えたのは、やはり疲れているからなのでしょうかね。
 



 



 

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