企業法務マン迷走記2

 大船ならぬ「酔っぱらった船」に乗ったかのような企業法務担当者の日常

2019年09月

 珍しく実務と関連の深い書籍の話題を。

 「住宅会社のための建築工事請負約款モデル条項の解説」(匠総合法律事務所編著 日本加除出版)
 建築・住宅業界から一定の評価を得、また影響力もあると思う法律事務所による民法改正に伴う「建築工事請負契約約款」に関する書籍。過日東京木場の木材会館で開催された本著の出版記念セミナーは満席状態だった。
 下請・納品業者の立場でこの手の書籍やセミナーに参加する理由はいうまでもなく取引の相手方が今後置かれる環境と、下請に対して講じてくるであろう「措置」を測るためである。元請である住宅会社との契約は元請が用意する契約書式を丸呑みせざるを得ない、下請の工事や納品にかかる「瑕疵」が原因のトラブルが生じた場合には元請が発注者との間の契約条項を横滑りさせてくる、元請との間に数段階の流通業者を介した取引であろうとトラブル発生の際に流通業者が「契約当事者」の役割を果たさない等、業界特有の諸々は21世紀になろうが元号が変わろうと依然横たわっている。元請(住宅会社)と関わりの深い法律事務所はどのような「モデル条項」を提案しているのか。

 下請業者の目でチェックしたのは、まず次の2点。
  1. 「瑕疵」から「契約内容不適合」
  2. 「保証期間の定め」
 前者はいうまでもないだろうと思われそうだが、建築工事においては契約内容とは契約書だけではなく、仕様書、特記仕様書や設計図面、施工図、施工詳細図、定例会議議事録などの全てが契約内容になる。また建材、設備機器に関してはカタログやサンプル確認、ショールーム等での仕様決定の場面も「契約内容」としてエビデンスを確実に交わして残すことが後々のトラブル回避につながるだろう。
 後者は、現状では「根拠があるようなないような保証期間」について、消費者契約法第10条とからめての解説。契約約款の保証期間の規定については、品確法の対象範囲以外は1年ないし2年、故意過失がある場合に5年なり10年という期間の規定が多いが、これが最近適格消費者団体の「狙い目」になっているとの警告。ひとたび訴訟提起されれば期日の内容が団体のウェブサイトにアップされることから、住宅会社はレピュテーション悪化を回避するため早々に約款改定で手を打つという状況にあるらしい。改正民法で短期時効がなくなるので保証期間の定めは要注意だろう。製品保証書における保証期間を1年ないし2年としている建材や設備機器メーカーも同様である。設計耐用基準など理論付をしっかりと準備する必要があるだろう。

 さすが建築紛争の実態を踏まえていると納得した条項は
  1. 発注者の協力義務
  2. 発注者のメンテナンス不全
 前者は発注者が仕様を期限まで決めないことで工事遅延が多々生じる実態を踏まえてのこと。後者は、保証書や取扱説明書などで発注者に求められる適切なメンテナンスを怠ったことが原因で「契約不適合」状態が生じた場合は、発注者に修補や損害賠償請求権は認められないというもの。実際、何の手入れもせずにクレームだけは起こすという居住者が多いのであらかじめクギをさす条項。

 本書籍で提案された「モデル条項」が実際に使われるかわかるのはもう少し先のことになるが、前述したように建築・住宅会社だけでなく下請関連事業者も入手・熟読しておくべき1冊と思う。



 
  

 法務系エントリは後で上げるとして。
 
 久々にCDを買う。マイルス・デイヴィス『RUBBERBAND』
 1985年に録音されていながらお蔵入りしていた音源にヴォーカルやその他音源を加えミックスし仕上げたもの。マイルス本人がとうにこの世の人ではないので、このような手法で発表することに賛否はあるかもしれない。でもマイルスが存命だとしても30年以上も前の音源をそのまま発表するような人物ではないので、これはこれで「あり」と勝手に思う。本人が存命だったら例によって「shit !」というかもしれないが。

 新しい音源を加えているとはいえ「あの頃の音だよなあ」という瞬間がある。そう思う時点でもう完全にシニアなのだがこればかりはどうにもしようがない。この週末もヘビーローテションしていたのである。

 


 組織論、機能論の一方でコツコツと日々の業務を遂行している「一人法務」の方も多いことと思う。ビジネス法務2019年10月号の特集記事はそんな法務担当者を支援する好企画であった。自分も一人法務と諸々の業務を抱えてきた身なので、本記事やコラムを読みながら胸をなでおろしたり反省したりであった。
 一人法務は「攻め」だの「守り」、「三線」だのいっている暇はない。
それなりの人数がいて分業制の進んだ法務部門に在籍するよりは多くの経験が積めることは間違いない。成功体験であればいうことはないし、事業撤退、訴訟、不祥事対応などの厳しい局面のそれであっても無駄にはならないと思う。
 しかしいつまでも一人法務体制でよいかということではない。「法務専任」ではなく他の業務との兼務している状況ではなおさらである。
 上場準備段階にある企業は主幹事証券会社から法務に限らず管理部門の一人体制・兼務業務の解消を指導される機会があるが、業歴もそこそこ、業績も安定している非上場企業は第三者から敢えて管理体制について指導助言を受ける機会はないだろう。一人法務または兼務体制でも十分機能していると経営陣は思っているかもしれない。

 企業の事情により一人法務、または兼任体制を敷くことはやむを得ないとしても、そのこと自体のリスクを認識すべきと思う。うまく回っているのは担当者ひとりのプライドと責任感に拠っているに過ぎないことに気づいているか。

 ではどんなリスクか?(自戒と反省も含めて)

 【責任と権限】
 総務などの管理部門の下に法務担当者として置かれる場合は特にそうだが、担当者の職務権限と責任範囲をどのように定めているか。「一人法務」で諸々責任を担わせる一方、権限は他部門担当者と同様の範囲にとどめるのか。裁量の幅を拡げるのか。このような決め事がない。
当該部門の管理者が企業法務の仕事を理解していればよいが、実質担当者に一任状況になり管理者のチェックが効かない(管理者が「わからない」)という状況にないか。
法務従事者を責任のみ管理職並み、職務権限、裁量は担当者の範囲という状況に置いていないか。

 【キャリア形成、昇給昇格の面】
 担当者がコツコツと数年業務経験を重ねていけば当然昇給昇格の時期が訪れる。
しかし「部下なし」の管理職昇格を認めないという人事方針もあるだろう。法務担当者の奮闘空しく企業の事情により増員もできない(間接部門の増員は簡単ではない)にもかかわらず、他部門と比べて不利な環境になっていないか。ラインを持たない「専門職」というポジションを設ける企業があるが、法務担当者をこのポジションに付けたら当面「法務または兼任業務」は「一人」体制のままで、専門職の責任とプライド頼みが続くことになる。
 仮に一人であっても法務諸々の部門長職に引き上げた場合にも、誰が管理責任を負うのかという課題はついて回る。一人の権限裁量を拡げれば同時にブラックボックス化のリスクが生じる。たとえ法務部門長であってもそれは例外ではない。

 自社は上場する必要もないし、それほど強固な管理体制は必要ないのではないか?
そう思っている経営陣はいるかもしれないが、例えば小規模なM&Aの当事者・対象会社になる、既存借入先からではない機関からの借入、出資が必要になる可能性はないとはいえない。管理体制の整備状況は必ず見られる。一人法務・兼任業務体制を続けざるを得ないのなら、経営陣は相応のリスクヘッジを講じなければならないと思う。彼(彼女)が「ぷっつり」切れて退社したら0人になってしまうのだから。



 いろいろと議論がヒートアップし、そしてやや鎮まった「企業法務」論。
空中戦を下から見上げていた、というのが正直なところ。
 ビジネス法務10月号で「一人法務の心得」という特集が組まれるあたりが「企業法務」の現実の一面だろう。ただ本特集の執筆陣の顔触れや職歴を拝見しやや偏りがあるように感じた。もっともこれは編集部の取材や執筆依頼に応じることができた企業だと理解しておく。

 企業の一部門あるいは一つの課や係である以上、「法務」も所属企業の置かれた状況に左右されるのはいうまでもない。法務が単独の部門で置かれるか、管理部門の「部」なり「課」にぶら下げられるか、あるいはそもそも「課」でも「係」ですらなく、総務部や経理部の誰かに株主総会や取締役会、変更登記にかかる業務や契約管理、債権管理といった業務を兼務させることにとどまっているかもしれない。日本の企業の大部分を占める老舗の中小企業(上場企業の子会社含む)はこの「兼務」が実態ではないだろうか。兼務している本人が「自分は企業法務の仕事を担っている」と意識しているかはわからない。総務あるいは経理の業務の「一部」として黙々とこなしているのだと思う。他の業務同様「100%やれて当たり前」の仕事のひとつとして、だ。

 飛び交う「企業法務」論、それなりの規模の企業法務担当者や新興の勢いに乗る企業法務担当者、その周囲の弁護士が中心だが、彼らの脳裏に「法務」と名乗らず、しかし分業化の進んだ大企業の経験の浅い法務担当者と比べてもひけをとらずに企業を支えている「兼任者」の姿を少しでも思い浮かべた瞬間があっただろうか。
 
 ここ数日気になっていたのは、こんなことです。

 

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