あまりきついことを書くとブーメランとなるかもしれないので少し弱気な製造業勤めです。

 残暑厳しい初秋に書店に平積みされた書籍に「大惨事と情報隠蔽」(草思社:D・チェルノフ&D・ソネット)があります。
 自動車メーカーと鉄鋼メーカーの「不適切な行為」が五月雨式に明るみになる→何回も謝罪するという最悪の流れを辿っていますが、これらの事案が発覚する直前に本書が刊行されたのは何かの前兆だったのでしょうか。原書が2016年発刊のようでですから結構なスピードで翻訳版が出たのではないでしょうか。
 著者はチューリッヒ工科大学の企業家リスク講座に所属する広報や金融学の研究者で、リーガルの人ではありません。

 本書は
 第1部 リスク情報隠蔽はなぜ問題か
 第2部 リスク情報隠蔽の事例
 第3部 情報隠蔽・歪曲の原因
 第4部 隠蔽が進行中の事例
 第5部 リスク情報管理の成功例
 の5部構成となっています。
 第2部の事例は工業部門、金融部門、軍事・社会・自然災害、小売製造業 と広い範囲から、時期としては第二次大戦のソ連赤軍のものから21世紀のエンロン事件、サブプライム住宅ローン危機、福島第一原発などまだ記憶に新しく、事案としては終わっていないものまで20以上の事例が挙げられています。(日本語版出版にあたってフォルクスワーゲン社のディーゼルエンジン排出ガス不正が加えられたとのことです。)本書の版が重ねられるとしたら、間違いなく今般の自動車メーカー、鉄鋼メーカーの事例も加えられるかもしれません。

 第3部は事例の分析と統計学上の用語を用いて情報隠蔽の原因を分類しています。やや新鮮味がないと思う向きもあるかもしれませんが、それは不祥事は同じ原因で繰り返されるということの裏返しでもあります。これだけ企業不祥事が明らかになる時代であってもなぜ企業人は学べないのかという問いを突きつけられます。そして、「わかっていること」を本当に「実行すること」の難しさを痛感します。

リスクマネジメントというのは景気がよすぎるときには巨額の利益を邪魔するものとみなされ、危機的状況にあるときには省みるひまがないということである。(本書456ページ)

 件の2社に限らず、法務、監査、コンプラ担当者は情報隠蔽にどのように立ち向かっていくか、重い宿題です。