@miraisaaanの宇奈月温泉レポートから引き継ぎます。湯上りに都市では見かけない飲料メーカーのサイダー風の炭酸水を飲みながら書くような感じで。

 今年は、製造業の品質偽装に関するニュースが続きました。開示情報を追っかけ読んでいますが、原因究明・再発防止などの特別委員会報告はそれはそれで進めていただくとして、品質偽装した製品を買わされた方の重要関心事は「損害賠償請求ができるか、できるとしたらどの範囲までか」。再発防止に取り組んでもらうのは当然、お詫びもわかる、でも実際に発生した損害はどうしてくれる、話はそこからだというところではないでしょうか。

 日用品製造事業者A社は、製造販売する製品Mのために原材料メーカーB社が製造する原材料Cを加工業者Dが加工した部材を購入している。X月5日、B社は第三者認証機関の臨時認証継続審査で原材料Cの検査方法に問題があるとの指摘を受けた。B社は認証機関が何らかの措置をとると予想し、X月20日取引先に対してCに関して当該認証表示を行うことを自粛するとの通知をFAXで行なった。X月30日、認証機関はB社に対してCについて認証を取消する旨公表した。
Cは、B社が加盟する事業者団体Eが制定する「自主品質表示制度」の対象製品であり、Eは第三者機関の認証を条件にB社のCに自主品質表示マークを表示することを認めていた。Y月2日、EはCを本自主品B社のX月20日付の取引先に対するFAXの内容から同日時点でCが第三者機関の認証を受けた製品ではないとみなし、CをX月20日に遡って自主品質表示制度の対象外とすることを公表した。
 A社の製品Mは納入先が遵守すべき関連法令によりEの自主品質表示制度対象の部材を使用しなければならないものであった。
急ぎ調査したところ、B社がX月21日以降生産したCをD業者が加工した部材を使用して生産しX月30日までに出荷納品したMが200台、未使用の部材在庫100台分。そしてY月3日以降Y月中に出荷納品しなければならない受注残が400台分あることがわかった。
 ちょっと長くなりましたが、A社の立場だったらどうする?
 B社のCの認証取消によって
 ⑴損害は発生しているのか
 ⑵損害が発生しているとして損害賠償請求できる範囲はどこまでか
 ⑶損害賠償請求の相手方は?

 間髪入れず取り組まなけばならないのは納品済みの製品M200台の対応です。通常なら返品、代品の納入ですが、A社はB社のCを使用した部材で生産した製品しかないため代品の納入ができません。キャンセル、製品引き取りとなります。売上利益は戻さなければなりませんし、さらに引き取りコストが発生します。
 未使用の在庫部材も使用できません。引き取ってきた製品と共に処分するよりありません。ここで処分コストが発生します。
 Mの受注残400台についても、Cに変わる原材料を加工した部材が調達できるまでは生産できません。これも大半を注文キャンセルとするより策がありません。見込んでいた売上も利益も失います。
 A社の損害はこれだけでしょうか。


 A社はB社に代わる原材料メーカーとCに代わる原材料を調達しなければ、製品M事業を継続できません。
 B社に代わる原材料メーカーとCの代替え品候補は幸いすぐに見つかったとしても、改めてその代替え品の品質検証は行わなければなりません。検証にもコストがかかります。
 従来のB社ーD業者間と同じ取引条件でそのメーカーと取引できるとは限りません。まず購入コスト。
継続的取引ではなくスポット取引のため購入コストが上昇します。
 B社のCの工場出荷仕様と代替え材料のそれが異なりD業者による加工工数が増える可能性があります。それだけでなく、D業者の製造ラインの変更する必要があればそのコストがA社の調達コストに反映されます。D業者の生産設備では対応できない場合、A社が直接原材料を購入し自社工場で加工するケースも考えられます。この場合も製造ラインの変更や、生産管理システムの改変など直接・間接業務を問わずコストがかかります。また、材料を変更したことによる初期の一時的な生産効率の低下、不良率の上昇などの収益悪化要因が発生する可能性もあります。
 これらはいわゆる「転注コスト」ですが、B社のCを使用した部材調達コストとの差額が発生すれば、A社はこれも損害だと主張するでしょう。

 A社は誰と損害賠償請求の交渉をするのかという点。
 A社と直接取引契約を締結しているのはD業者です。しかし加工業者が中小規模以下の事業者である場合には、損害賠償請求を行うにしてもそもそも賠償請求に耐える資力がないことがほとんどです。今回のような場合、A社の損害発生の原因はB社の製品の第三者認証取消にあるので、B社に直接損害賠償請求を持ち込む選択もありでしょう。

 表には出ませんが、おそらく今年の事案でこのような検証と交渉の火蓋が切られているのはないかと思います。そして裾野が広い原材料であれば当然争いの当事者は多く、やらかした企業側は「業績に与える影響」についてなかなか説明ができないのではないでしょうか。


 いつになく長々と書きましたが最後はポエムで。

 製造業に身を置く身としては、こういった事態がいつ我が身のことになるかわかりませんので、今回やらかした企業について歯切れよくものをいえません。が、あえていうならば。
 元所属した企業グループの主力事業が諸々の原材料事業でしたので工場の中というのは概ねわかります。
 製造ラインや検査ラインで見るのは粉末であったりドロドロで異臭のする原液であったりただの板状の何かであったりと、それが何に使用されているのかということが従業員に直ちにわかるものではありません。工場の来客用の見学コースには見本や納入先での使用のされ方が展示されていますが、毎日従業員の目に触れているとは限りません。自分たちの仕事がどこで活かされているのか、手を抜けばどういうことが起きるのか、こういうことがわかりやすく腹落ちできていなかったのではないかと思いますね。自分の家族に害が及ぶとわかっていながら、手抜きをする、偽装をするという人間はそうそういないと思います。
 自分は若手対象のコンプラ研修の際に、奥さんや子供、彼氏彼女に正直にいえないような仕事はするなということをいっているのですが、今年話題になった企業のまさに当事者である従業員の方はどのような心境でデータを書き換え、あるいはハンコを押していたのでしょうか。また経営者や上司はどのような心境で従業員にそのような行為をさせていたのでしょうか。


 明日クリスマスイブは、@yuki.sato.5458さんです。イブらしい素敵なエントリーを勝手に期待。