ふた昔前の話になるが、記憶に残るエピソードとして。
 
 「見積の件で来てくれないか。営業ではなく本社部門の人間と話がしたい。」とある地場ゼネコンの部長から電話。当時某自治体の公営住宅向け設備建材の窓口を担当していたのですが、自治体の所管部門にでも連絡先を聞き出したのだと思います。
当時勤務先はその自治体の公営住宅向け設備では一定のシェアを維持していました。公営住宅団地の入札の度に引き合い見積依頼があったので、今回もそんなことだろうと出向いたのでした。
 開口一番、「A団地について、おたくが見積を提出した元請を全部教えてくれ。」
「は?」どう考えても「調整のため」の質問です。
「おたくもこの業界のことは承知しているだろう。」まあ承知はしていますが、昔と違ってそういった行為からは手を引かせてもらっていますよ、と返したのですが、先方は「そういう話とは少し違う。」と返してくる。では、どういうことでしょうか。

 入札制度が指名競争から一般入札に変わったことは仕方がない。問題は公共工事のイロハもわからないまま業者が参入してくることだ。標準仕様書や標準図、特記仕様書の意味を知らない業者が多い。何を優先事項として単価算出しなければならないか理解していない。厳しい中間検査や竣工検査の実態も理解できないまま、民間工事と同じ感覚で見積を出してしまうのだ。見積落としがあるから当然応札価格は下がる。請けてトラブルのはその業者の勝手だが、その下がった価格は役所の契約課に残る。
「俺はそういう事態を避けたいのだ。わかるだろう。」

 それはわかる。公共工事なのにろくに仕様書や図面も確認せずに見積もる代理店はあった。見積漏らしがありました、と泣き言を繰り返したところで「しょうがないね、次から気をつけてね」などとそっと発注額を上乗せしてくれる発注者はいません。

 が、しかし。

 先方の要求には応じませんでした。記憶はここまで。この地場ゼネコンがA団地を落札したのか、自社の設備が採用されたのかも一切記憶がありません。

 リニア談合の報道を眺めていたらふと記憶が蘇ったのでした。ついに逮捕者が出ましたが、どうにも違和感が付きまとう事件です。違和感を感じるのは法務担当者としてあれなのかもしれませんが。