2000年代初頭、次期マネージャー対象の社内研修講師をしていた頃の話。カリキュラムの導入は当時人気があった「プロジェクトX」を教材に(当然許諾は得ての話)したグループディスカッション。「プロジェクトが成功した要因は何か」という設問に対して、題材となった企業のせいもあってか、どの研修回でも必ず「企業風土、社風がよかったから」という回答が上がったものです。
 企業不祥事があとを絶たない今、「不祥事が発生した、防止できなかった要因は何か」と問えば「企業風土、社風が悪いから」という回答が返ってくるのでしょうか。
 研修では「企業風土や社風は誰がどのように作っているとお考えですか」 とフィードバックしたものです。

 おや?と思って手にとった「『企業文化』の監査プログラム」(稲垣浩二著 同文舘出版 2018年)。
 著者はトーマツのパートナーです。おや?と思った理由は、会計、会計監査系の書籍のタイトルで「企業文化」の文言が含まれているのをあまり見かけたことがなかったからです。自分が知らないだけかもしれません、他にもたくさん出版されているよ!ということでしたらご容赦)。想定読者は若手会計士と思われます。不正会計や不正ではないけれども誤った会計処理に対する指摘、助言だけでは問題は解決しない、もっと具体的に企業にアイデアを提供することが必要で、その対象の一つが「企業文化」である、というのが本書の建てつけと理解しました。

 企業経営の生々しい実情に通じているのは法務側よりもむしろ会計側というのが実感としてあります。だからこそ企業法務担当者も財務・経理部門と立ち話ができる程度の会計知識は必要だと思っているのですが、会計側からも「企業文化」にアプローチしてくるなら、不正抑止、不祥事防止に関しては部門間の距離を縮めて取り組むことができるかもしれません。

 とはいえ企業文化というものは複雑怪奇です。自分の勤務先のように資本の出し手が2回変わったにもかかわらず本書でいうような伝統的な日本企業の慣習が抜けきったとはいえないのが実情です。
 内部監査でもって何をどう確認し、経営者サイドにどのような是正提案をしていくか。けっこうな課題を抱えたものだと改めて思うのでした。