2019年09月22日 13:53

居心地悪く法務を語る(3) 「一人法務」の陰陽

 組織論、機能論の一方でコツコツと日々の業務を遂行している「一人法務」の方も多いことと思う。ビジネス法務2019年10月号の特集記事はそんな法務担当者を支援する好企画であった。自分も一人法務と諸々の業務を抱えてきた身なので、本記事やコラムを読みながら胸をなでおろしたり反省したりであった。
 一人法務は「攻め」だの「守り」、「三線」だのいっている暇はない。
それなりの人数がいて分業制の進んだ法務部門に在籍するよりは多くの経験が積めることは間違いない。成功体験であればいうことはないし、事業撤退、訴訟、不祥事対応などの厳しい局面のそれであっても無駄にはならないと思う。
 しかしいつまでも一人法務体制でよいかということではない。「法務専任」ではなく他の業務との兼務している状況ではなおさらである。
 上場準備段階にある企業は主幹事証券会社から法務に限らず管理部門の一人体制・兼務業務の解消を指導される機会があるが、業歴もそこそこ、業績も安定している非上場企業は第三者から敢えて管理体制について指導助言を受ける機会はないだろう。一人法務または兼務体制でも十分機能していると経営陣は思っているかもしれない。

 企業の事情により一人法務、または兼任体制を敷くことはやむを得ないとしても、そのこと自体のリスクを認識すべきと思う。うまく回っているのは担当者ひとりのプライドと責任感に拠っているに過ぎないことに気づいているか。

 ではどんなリスクか?(自戒と反省も含めて)

 【責任と権限】
 総務などの管理部門の下に法務担当者として置かれる場合は特にそうだが、担当者の職務権限と責任範囲をどのように定めているか。「一人法務」で諸々責任を担わせる一方、権限は他部門担当者と同様の範囲にとどめるのか。裁量の幅を拡げるのか。このような決め事がない。
当該部門の管理者が企業法務の仕事を理解していればよいが、実質担当者に一任状況になり管理者のチェックが効かない(管理者が「わからない」)という状況にないか。
法務従事者を責任のみ管理職並み、職務権限、裁量は担当者の範囲という状況に置いていないか。

 【キャリア形成、昇給昇格の面】
 担当者がコツコツと数年業務経験を重ねていけば当然昇給昇格の時期が訪れる。
しかし「部下なし」の管理職昇格を認めないという人事方針もあるだろう。法務担当者の奮闘空しく企業の事情により増員もできない(間接部門の増員は簡単ではない)にもかかわらず、他部門と比べて不利な環境になっていないか。ラインを持たない「専門職」というポジションを設ける企業があるが、法務担当者をこのポジションに付けたら当面「法務または兼任業務」は「一人」体制のままで、専門職の責任とプライド頼みが続くことになる。
 仮に一人であっても法務諸々の部門長職に引き上げた場合にも、誰が管理責任を負うのかという課題はついて回る。一人の権限裁量を拡げれば同時にブラックボックス化のリスクが生じる。たとえ法務部門長であってもそれは例外ではない。

 自社は上場する必要もないし、それほど強固な管理体制は必要ないのではないか?
そう思っている経営陣はいるかもしれないが、例えば小規模なM&Aの当事者・対象会社になる、既存借入先からではない機関からの借入、出資が必要になる可能性はないとはいえない。管理体制の整備状況は必ず見られる。一人法務・兼任業務体制を続けざるを得ないのなら、経営陣は相応のリスクヘッジを講じなければならないと思う。彼(彼女)が「ぷっつり」切れて退社したら0人になってしまうのだから。





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