2019年12月22日 09:00

タイムカプセル #legalAC

  このエントリーは法務系Advent Calendar 2019 参加エントリー。みなみちか先生(@ChikaA17)からバトンを引き継ぎました。

 昨日21日で畑違いの部門から法務(と広報のような部門)に異動して13年が経過した。異動時点で既に不惑を過ぎていたので、年齢とスキルの釣り合いが取れないまま年月を重ねている。そしてこんな体たらくのまま後継者を決めなければならない時期を迎えている。自分が法務を引き継いだ時のように、わずか数日、教わったのは袋とじの方法のみということを繰り返すわけにはいかない。

 今年は企業法務職の機能や役割に関する議論が活発化した年であったが、13年というわずかな期間を通じて思ったことは法務や広報という部門は企業の「語り部」「生き証人」といった役割を負っているのではないかということだ。
 また大袈裟な、と思う方がいても仕方がないと思うが、10年、20年、それ以上の期間と企業活動が続いていけば様々なことが起こる。いわゆる「有事」の際には、必ず法務や広報部門の人間がその場の中心に身を置かれ、ことの対処にあたる。事案によっては、半年、1年以上かかるかもしれないがいずれ終息し、その経過・記録はきれいに整理文書化されファイルに格納され共有される(はず)。ナレッジマネジメントの世界である。
 だが、「有事対応」に関しては文字や画像、動画に残した記録が事の全てとは限らない。
 
 「有事」という状況に追い込まれていく時の焦燥感、思惑の読み合い、主張のぶつけ合いでまとまらない「会社の見解」、二転三転する「当局の指示」、重苦しい空気に包まれる深夜の会議室、ストレスで体調を崩していく担当者、判断を躊躇する役員の発言。メディア対応に怯える経営トップの表情、着地点が見え思わず本音を語る行政官の表情。二転三転する状況のなかで巧みに折衝の落とし所を探り当てる交渉担当者の思考、法務・広報が集まり公表文案を練っている最中、これ以上はないという表現が生まれる直前の「閃きの連鎖」。その場に居合わせた者が体感する「場の空気感」とでもいおうか。ただしこれらは企業の公式記録に残している類の情報ではないだろう。

 事故・不祥事を繰り返す企業がある。様々な記者会見事例がありながら会見に失敗する企業。いずれも最小人数法務体制から見れば羨ましいほどの法務や広報体制が整っており、過去の事案も教訓として活用もされているであろうレベルの企業にもかかわらず、だ。もしかしたら、文字情報は残っているが過去の当事者が体感した「場の空気」が伝わっていないのかもしれないと思う。

 企業の記録に公式に残らない(隠蔽ということではない)情報を記憶し伝承していかなければならないとしたらその役割はやはり法務や広報の担当者が適任と思う。ただ問題はこの職種に就いている当事者たちが企業を去るときがくるということと、そのサイクルが早まる可能性が高まっているということである
 
 今後、企業法務の仕事に就くのは法曹有資格者、法科大学院卒の人が大半を占めるようになるだろう。企業法務の業務はポータビリティ性が高く、こうしたキャリア・スキルの持主である法務担当者は自身のキャリアアップのために企業を渡り歩くことに何の抵抗をもたないだろう。そうでなくとも終身雇用制度が終焉を迎えつつある。仮にある有事対応を経験した人物が職場を去る際に、彼・彼女が体感した情報を残す術がなければ、瞬時にその企業から失われてしまう。仕方ないと諦めるしかないのか。

 今年盛り上がったもう一つの話題はリーガルテック系であった。
勃興期にある数々のリーガルテック系サービスについては未だ論じるほどの知見は持たないのだが、脆弱な法務基盤しかない企業こそ活用に躊躇する理由はないように思う。
ただ自分がリーガルテック系に望むものは、法務担当者や広報担当者の脳内にある「経験」の保存である、といったら突飛なことだろうか。今や旋盤の熟練工の「勘」「感覚」ですらデジタルデータに変換が可能な時代である。脳科学も格段の進歩を遂げている。いずれ有事対応時の法務担当者や広報担当者の経験や記憶、思考や行動パターンをデータ化できるだろう。それこそ「場の空気感」を再現することができるようになるかもしれないしその実現を勝手に期待してしまう。

 いつでも、何年先でも、アクセスできるタイムカプセル。
 え、あ、自分が知らないだけで既にある? 


(ぼやき)
 自分はそうはならないと思ってはいるものの過去の記憶は美化しやすい。そのつもりはなくても若い世代からすればおじさんの「武勇伝」になっているかもしれない。そんなことが理由で伝えたい情報が受け取り拒否にあってしまうことは避けたい。過度な個人の感情を排したデータにできればと思った次第。

 
 明日は@kaz_miyashitam先生のエントリです。
 

 

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