2020年12月20日 13:39

監査と法務 #legalAC

(このエントリーは2020年法務系アドベントカレンダー #legalAC 参加エントリーです。カルアパさん(@lawyer_alpaka)からのバトンを引き継ぎます)

 ネタ被りを唆す一部の(悪魔の)声に応え、「内部監査」と「法務」の関係性(兼務)について現場からのレポート。
 まず今のところの結論。
       法務部門(担当者)はビジネスの真っ只中にある人である

 今夏、兼務していた法務部門の肩書(名刺に刷ったことはないが)を外し、内部監査に専念することになった。一部残った業務はあるものの(微妙な機関法務やトラブル対応。それもまもなく終わる)、基本的には法務業務で自分の名でサインすることはなくなった。
 兼務解消の理由は、上場親会社内部監査室からの度重なる指摘によるもの。勤務先は親会社企業グループのガバナンスでは以下の位置づけにある。
  • 親会社(上場)の完全子会社(買収による)であり、新規事業セグメントの一角企業
  • 売上規模から親会社の内部統制の範囲
  • 親会社と同等とまではいかないまでも、一定レベル以上の内部統制を求める企業
 親会社による内部統制監査(簡易版ELC)の統制環境には「重要なポストの兼職がないこと」という項目がある。「販売部門と管財部門の兼務」という例に昨年から「法務と内部監査の兼務」が加えられた。どの会社の誰を差しているかは明らかであった。内部監査人協会(IIA)の「専門職的実施の国際基準」の属性基準1112「内部監査部門長の内部監査以外の役割」、同1130「独立性の侵害」等の基準から引っ張ってきたであろう親会社の基準に従わない理由は乏しく、実際に親会社監査室からは自分の兼務が解消されない限り「統制環境はエラー」と警告されていたので兼務解消は必然であった。

 法務業務と監査業務は、「コンプライアンス」や「リスクコントロール」の点などから親和性があるとみられ、法務(非法曹)の次なるキャリアのひとつと考えている人もいるかもしれない。しかし、実際に内部監査の立場になると、仮に「監査職務に求められる保有能力」が同じだとしても、その「使い方」が異なるということをひしひしと感じている。

 絵画の制作に例えてみる。画家が事業部門とする。画家のそばにいる関係者を法務とする。彼(彼女)はどのような役割か。おそらく今の「企業法務部門」に求められている、目指している役割は、絵の下地を整え、下絵の段階から画家と共同して、時に絵筆を手に取り共同で絵画を完成させることか。または画家のスポンサーを見つけ画家のために有利な(損をしない)契約を締結することか、はたまた好条件で画廊と契約する、といったものだろうか。
「監査」はそうではない。絵を描く才能があったとしても、またはスポンサーや画廊と丁々発止の交渉を行える能力があったとしても、絵画制作そのものに携わることは求められていない。ひとつの絵画が完成し販売されるまでのプロセスのルールが整備され、その通りに絵画が制作・販売・現金化されたかを依頼者に保証する、といった役割だろうか。

 自分が監査に異動し、まず監査メンバーに注意を与えたのは監査実査中に対象部門に対して安易に助言や改善案をコメントすることである。監査メンバーはベテラン社員が配されていることが多く、自身の経験から口を出し、手を差し伸べたくなる場面があるのは理解できるがそれは監査本来の役割から逸れる。コンサルティング的な役割を求められているとしても、レポートラインは監査対象部門ではなく内部監査部門の上位機関である監査役や取締役・取締役会なのである。(レポートライン、内部監査室の所属について議論があることは承知だがこの場ではこのまま流す。)



さて「内部監査」と「法務」の関わり(兼務)についての話。

 管理職ではなく担当者であれば兼務は可能かという点である。
 よほどの大企業でない限り、法務や監査部門にそれぞれで専任で人員を割くのは難しい事情があるとは思う。とはいえ管財(財務や会計)部門の担当者を兼務させているかといえば、さすがにそんな企業はないだろう。
 法務部門が「管理部門のいち部門」から「ビジネスサイド」に軸足を移していく企業であれば、あるいは法務担当者自身が「ビジネスサイド」に身を置くのであれば、法務と監査の兼務は避けていくのが賢明と自分は考える。
 またIPOやM&Aの際にも内部統制環境は必ず(厳しく)監査される。兼務の理由の説明や客観性の確保のための措置の構築をその時になってバタバタと行うよりは、早い段階での兼務解消がよいのではないか。

 ただ法務と監査のどちらがよいということではない。どちらの役割を果たしたいか、ということ。
「ともに絵筆をとる」ことを望むなら、法務専任だろうと思うのである。



 内部監査担当の日も浅いにもかかわらず、つらつらと書いてしまった。
法務部門にしても監査部門にしても企業のおかれる環境によってまた姿を変えていくと思う。
三線ディフェンスでいうところ、一線から始まり三線に辿り着いた者の実感とぼやきとして収めていただければ幸いである。

 明日は、@NH7023 さんです。よろしくー。




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