取引

2021年05月22日 18:00

 春先に出版された「Q&Aでわかる業種別下請法の実務」(長澤哲也・小田勇一編著 学陽書房)をようやく読むことができた。
 このような編集の書籍はつい勤務先に関わりの深い項目周辺から読み始めてしまうのだが、反省してきちんと第1編「下請法のルール全体像」から読んだ。(当たり前か)章ごとに第2編の業種別の関連Q&Aが案内されているので、法務担当者だけでなく、購買や設計等の部門担当者が本書を手にとったとしても法の全体像と各論との関わりはわかりやすいのではないだろうか。

 第2編については勤務先(製造業、建設業界隈) に関わりの深い項目として「素形材」「化学」「建設」「建材・住宅設備」といった項目を中心に読んで確認した。業種特有の重要論点別に編集されているが、製造業の「製品製造」に関する業務は広く、各々の部門、プロセスの業務で下請法適用取引がある。勤務先でいっても、金型、開発試作、サンプル、物流、施工、メンテナンス、情報成果物など。つい資材購買取引にばかり注意が向くが、資材購買部門は「下請法取引」の当事者という意識があるので理解はしている。ただ減資などで自社の資本金の額が小さくなった場合に、当事者意識が緩む可能性がないともいえない。「下請法をクリア」がすべてではないと釘を指しておくことも必要かと思う。
 資材購買以外の部門が案外無頓着に外注を行うことがある。取引開始前の支払コード登録の際に経理部門でチェックがかかるよう、支払担当者の下請法についての理解も必要と思う。

 「建設業」「建材・住宅設備」の項目で、下請法・建設業法のについて言及されている点に注目した。建設業界は中小規模以下の元請業者と古くからの商習慣が根強く残る数次にわたる流通(ここも中小企業中心)を介した取引が大部分で、「建材・住宅設備」に関する取引もその一部。この取引が「売買契約」の場合であっても、資本金要件で下請法適用取引に該当するケースは少ないと思う。
 本書にある「下請法適用の売買取引」「建設業法適用の請負取引」の線引きは、元請から流通段階を含めて建設業法を遵守するための「建材・住宅設備」事業者側の(苦肉の)策という側面がある。

 企業は資本金の額によっては「親事業者」「子事業者」の両方の立場となることがある。法務担当者が日常的に下請法に接する機会はないかもしれないが、自社の事業全体を俯瞰して、部門や業務プロセスごとの下請法リスクは洗い出しておいたほうよいかもしれない。
下請法ではないが、数年前の消費税増税の際にまったくノーマークだった部門がやらかして当局にご指導いただいたことがあるので強く思う。
また本書は「業種別」という切り口を設けているが、特に製造業の法務担当者は自社の事業内容と照らし合わせながら全業種を通読することを勧める。





 

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2020年06月07日 17:33

 「契約書のチェックをお願いします」
 業種業態を問わず企業法務担当者の「契約書精査」の仕事が始まる。
 TwitterのTLで定期的に繰り返される「営業担当者が(事業担当者)が契約書を読まない」論だが、「契約書」を読まなかった、かつての営業担当者としては「すみませんな」としかいいようがない。
確かに「契約書の内容をまったく気にしない現場」は問題ではあるが、読まないとされている「契約書」の性格、内容によっては一概に現場担当者を責めることはできないと思っている。「読まない」とはいっても瑕疵担保条項(契約不適合条項)や保証条項、支払条項などにそこそこ目を通している様子が確認できれば、なるべく文句をいわないようにしている(あくまで自分の努力レベルだが)。
 契約書は法務が審査する、というのが定着しているが、「契約書以外の書類」は法務に回ってこないということもありえる。相手側から契約書以外に渡された書類があるなら一通り全部寄越してもらうことにしている。

 本当に細かく審査すべきは、基本契約書の条項に優先すると規定された場合の「個別契約」の内容と考えるが、毎日現場と取引先との間で飛び交う「注文書」や「発注書」やその後ろにそっと付いている「約款」や「発注仕様書」を逐一法務がチェックできるだろうか。
 法務担当者が「発注仕様書」や「製作図」といった本来の「契約の内容」を精査し、現場担当者に適切な指摘を返せるかといえばかなりの困難を伴う。たとえば、自分が所属する業界の官需系の請負契約では標準仕様書や特記仕様書、設計図、各部詳細など契約書の他に様々な書類、図面が「契約書類」となるが、それぞれの書類の「優先順位」を法務担当者が知らなければ「契約書審査」が成り立たない。
「契約書をちゃんと読んだか(契約内容をよく確認したか)?」は法務側にも向けられる言葉でもある。

 現場の担当者が契約書を読まないのは「読む動機づけ」が足らない可能性もある。
契約書をよく読むと「こういうことがわかるのか」「こういうことが避けられるのか」といったことを、まずは法務の側から示す工夫も必要。気の利いた現場担当者であれば、次回からちゃんと読み込んだうえでチェックを依頼してくる。
 手間はかかるが少数法務体制の場合、こうして現場に分身を増やしていくことも欠かせないのである。

 



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2020年03月08日 17:36

 在宅勤務が取り沙汰されるなか、あいも変わらず毎日出勤している。在宅勤務社員の桁数が4桁という企業の報道をみるとそもそもなぜ今まで都内に出勤させていたのだろうという疑問が湧く。その一方、その企業のなかには在宅勤務に切り替えができない部門があるだろうし(製造業は特に)、むしろその部門の職場の安全管理の方が重要と思うし、実際にどのように運営しているのか気になるのだがメディアの関心の外なのだろうか。何件かメディアの電話取材を受けたが、一様にサプライチェーンの状況についてのものばかりであった。

 在宅勤務に限らず、今回の有事が企業の業務のあり方を変えるきっかけにはなるとは思う。諸々のテック系の動きも加速するかもしれない。ただその道のりが平坦なものになるかそうでないかは企業の事情によって違ってくるだろう。
 ビジネス法務2020年4月号特集は「今こそ変化のとき 電子契約のしくみと導入プロセス」であった。
テック系サービスの紹介はこれまでも多く目にしていたが、実際に導入した企業のプロセスの一端が紹介されている点はよい試みと思う。さすがに業種・業界ごとの紹介まで届かないところが現状なのかもしれない。だた来年の今頃にはどうなっているか。
 各記事を読んだなりに「道のり」を思うと、契約業務を含む「電子化」は近くはないというのが実感で、どういうコースでどのくらいの期間や労力を必要とするかすらどうやって計算しようかという気分である。
 ただ「東京オリンピック開催前後から景況感悪化」と予想していたものが、ここのところのウィルス感染騒動によりもっとはやい時期に訪れるとすれば、直接収益に関与しない間接部門の業務改善や人員調整はまったなしとなるだろう。紙の契約書類を袋とじにして印紙を貼って押捺する業務に1時間/日を割くというのは悪い冗談のように扱われ、外注業者に請求書や領収書の作成・発送を委託する業務も「浪費」と批判されるかもしれない。または取引先から「取引先ごと」の電子契約システム導入を要請され、その対応いかんで取引継続に黄信号が点ることも考えられなくはない。
 間接部門は覚悟を決めて業務の省力化・電子化に取組み、自部門の業務デザインを変えていくときを迎えたのだろう。

 本特集の編集時期はおそらく昨年末から年初であったと思うが、特集見出しの「今こそ変化のとき」とは今となっては絶妙のものだと思うが、「今がそのとき」といっても過言ではなくなったと少し蒼ざめている。


 

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2019年07月08日 07:30

 「別れて そして」もう40年前の歌なのか。
  
     じゃ、なかった。

 ビジネス法務2019年8月号、特集「契約解除の実務」。
 2018年12月号から2019年3月号にかけて「契約解除の実務ポイント」と連載されていましたが、時間を空けずに再び特集記事を組むということは、法務担当者の需要が高いということなのでしょうか。
何事も始めるときよりも、終わらせるときのほうが難しいものです。まして中途で終わらせるとなると。

 企業取引の現場では契約解除する側にもされる側のどちらの立場になりますし、自分が締結時から関与している契約ばかりではありません。中途解除しようにも「うわあ、なんだこの条項は!」と埋まっていた不発弾のような条項がないとも限りません。契約書の字面からだけではわからない事情の有無を当事者部門からほじくり出さなければなりませんね。

 製造業の経験だけですが、こんなことがあったよなということを少し書き出しておきます。まあ、皆さんも経験しているとは思いますが。
  • 契約書に例えば「3ヶ月前までの申し入れ」と規定されていたとしても、実際に「3ヶ月前」の申し入れで問題がないかという点。OEM契約などでは正式発注の前に原材料、部材、生産時間の確保などの都合上「内示」する規定を設けることがあるけれども、内示時期が正式発注の3ヶ月以上前の時期と規定していたらどうか。
  • 解除しようとする取引が下請法適用取引で、当該下請事業者の売上に占める自社の構成比が高かったら。あるいは自社との取引のために直近で設備投資をしてしまっていたら?
  • 販売先との中途解除。相手方がすぐに「転注」できるか、という問題。契約解除と供給停止により第三者(転売先)との間にトラブルを発生させないか。
  • 販売先との契約解除では、取引保証金を差入してもらっていたり土地建物に抵当権設定しているケース。差入書や権利書、登記識別情報の在りかが「あれ?」ということになっていないか。
 契約解除は、それまで続いていたモノ・ヒト・カネの流れを限られた時間で止めてしまうわけですから、申し入れる側だとしても簡単に片付くとは限りません。まして、契約締結時にはどちらの当事者も「中途解除」の日が来るとは考えていないケースが多いでしょう。取引基本契約に契約終了・解除時の「残存条項」が設けられているものが多いですが、解除時には改めて残存義務を含めた解除合意を取り交わすことはいうまでもありませんね。

 少しでも痛い目にあったことのある事業担当者や営業担当者は契約締結時点で「終わらせ方」を考えるのですが、「前進あるのみ」のような担当者や幹部社員は解除条項の話を嫌がります。しかし商売は何が起こるかわかりません。「あなたが望んだとおりの別れ方」ができるように、と説得し契約をまとめていくのも法務の仕事。

 システム開発の解除紛争についてはまた別の機会に。



 

 
 




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2019年05月12日 17:27

 企業法務戦士さんが取り上げた後に同じネタでエントリーを挙げるのは無謀とは思うけれどもメモとして。

 民法改正対応のまとめの時期ではあるものの、2021年4月の会計基準の変更「新収益認識基準」のインパクトの方が大きそうで、取引先の上場大企業の何処かから「新収益認識基準」を反映させた契約書更新案が来ないものかと密かに期待していたりして…。しかし来るのは瑕疵担保を「契約内容不適合」に文言修正したものが多く、あれあれ。

 法・制度改正に基づき社内外向けの書式を一新するときというのは存外「力仕事」。社内説明と理解度の確認。次に販売先・取引先宛の要請文書の準備などが必要になります。民法改正と会計基準の変更はわずか1年の違い。毎年基本取引契約の更改を要請したりされたりということは実務上まず考えられません。では2020年4月に民法改正も会計基準の変更も同時に行えるかというと疑問符、というか大変な困難を伴うだろうと。もし法務部門が契約書の書式だけ整えることだけが仕事ならば対応は可能かもしれませんが。

 すぐに理解できない箇所が多いことは承知で会計系の書籍をひっくり返し財務部門やIT部門と何をどう詰めるか。例えば…
  • 現行業務システムは製品工場出荷時に売上計上
  • 大口販売契約先が上場企業、販売リベート支払い
  • 連結子会社が工事進行基準をとっている
  • 維持管理契約が事業の中核の関連子会社がある
  • 知財ライセンスのローヤルティーの支払い・受領がある
  • 伝票を通すだけ(いわゆる手数料)取引がある    等々
 取引内容(商慣習的なものも含める)の確認とそれが新基準適用後も変わらず継続できるのか、業務システムの見直し(ITシステムの改修の要否も含む)の検証、事業継続の可否検討など、検討対象の網は拡げてとなると…来年4月に民法改正時と同時に対応できる企業がどれだけあるのでしょうか。(対応できる企業も当然あるでしょうけれども) 

 そして自分としては、内部監査人として今何を経営者や経営陣に提言すべきかという課題もあるのでした。(半身がまだ法務に突っ込まれたまま)

 「改正民法と新収益認識基準に基づく契約書作成・見直しの実務」のほか、読んでいる書籍は次の通り。(前にも貼ったかも)




 



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