取引

2019年03月16日 18:47

 先日建設紛争に関する諸々の顧問法律事務所からセミナーの案内が届きました。日程はなんとかできるかと思いますが空席があるか。
 セミナーの題目の一つは建設業契約の電子化。紙と署名と判子の3点セットの建設業界も電子化よる契約業務の省力化は避けて通れない問題になってきたのでしょう。同法律事務所のクライアントには大手中小の建設・住宅事業者、建材流通事業者、建材メーカー 等、裾野の広い建設業界の上流から下流までいます。代表弁護士は基本的には「契約電子化」「三文判で済む申請書類は電子化を進めるべき」といった旗を振っているので、今回のセミナーを契機にひょっとしたらぞろりと山が動くかもしれない? 
 しかし現時点での電子契約、電子サインの話はあくまで発注者(事業主・個人)と請負者(建設・住宅事業者)との間のものにとどまる話が主流で、請負者と数次の段階を経由する下請負事業者との間の契約については触れられていません。

 また同時期に、社内の建設現場担当から元請がカレンダーアプリで現場工程の管理を行うため、アプリを会社貸与のスマホやタブレットに元請指定のアプリをダウンロードしてよいかといった問い合わせが数件寄せられました。建設現場の特にビルやマンションの工程管理は多数の職種が出入りすることもさることながら、天候や突発的に起こる諸々で工程変更することも珍しくないため、元請の工程管理責任者の工程調整業務はなまじのプロジェクトマネージャーの比較になりません。カレンダーアプリの導入は必然でしょう。しかし下手をすると元請の数だけアプリをダウンロードすることになりますし、またセキュリティのしっかりとしているアプリと残念なものとがあります。顧客の要請と親会社を含むグループ会社の情報セキュリティ方針の板挟み、という状況も生じかねません。

 電子化の目的は業務の省力化です。しかし取引の安全は担保しなければなりません。アナログであれデジタルであれ、抜け道を見つける人間は必ずいます。「紙・署名・判子」時代とはまた別の運用の厳格さが要求されるものと思います。しかし厳格さのみでは新しい仕組みは広がらないでしょう。裾野が広い建設業界、業界構造の上の方の事業者だけが「電子化」を推し進めても意味がないのです。当面ある程度の「ゆるさ」も許容し「電子化」のハードルを下げることも必要ではないかと思います。

厳格と寛容のバランスは業務システム共通の話ですけれどもね。



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2018年10月27日 13:23

 もう月刊誌の世界では、12月号ですか。
 既に評価されている方も見受けられるBLJ2018年12月号の特集「実務視点で考える適切な契約期間の定め方」、例によって走り読みのメモ。

 何らかの事由で契約解除を検討せざるを得ない状況が生じたときに真っ先に確認する項目の一つが契約期間に関する条項。継続的取引基本契約書、LOI、NDA、共同研究開発契約書などなど様々な契約書がありますが、だいたいどの契約書の「契約期間」の条項は終わりの方に設けられていますよね。わりとしっかりと契約書を読み込み検討してくる事業部門の担当者でも、ここまで確認したら大丈夫と思うのか終わりの方にある契約期間についての確認が甘くなっていることがあります。1年間で十分なのか、2年間にした方がいいのでは?自動更新条項は不要、そもそもいきなり継続的な契約にしていいの?といったようなことを担当者に確認します。(さすがにすべての契約書審査で行うわけではありませんが)
以前、某企業とLOI に基づきNDAを締結している際に、「うっかりしていたけど契約期間切れてる!」という事態が起こったことがありその反省もあってのことですが。

 先日、経理の債権回収部門との立ち話で、契約書雛形を使う場合でも取引内容や相手方によって契約期間条項を使い分けるかといった意見も出たので、個人的には「契約期間」については地味にツボなポイントでした。

 本誌の各記事でも触れられていますが、事業環境の変化がめまぐるしい昨今、特に先行き不透明感の漂う業界で仕事をしていると契約期間満了を待たずに終了、解除せざるを得ない状況は常に想定しておかなければなりません。特に「継続的契約終了の制限の法理」は契約当事者部門にもよくよく理解してもらおうと強く思いますね。何事も終わらせることの方が手間がかかりますが、案外簡単に考えている人もいますからね。
 具体的な契約解除に関する実務については、ビジネス法務12月号から連載が始まった「契約解除の実務ポイント」に繋がっていくのでしょうか。絶妙な微妙なリレー特集記事ですね。

 ではでは(いつもながら)簡単ですが。


  

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2018年05月20日 13:46

 普段片田舎にいるもので、NDAバトルとか最近の企業法務の動きに全然ついていけてません。
 ますます備忘録というかボヤキ帳のようになっていますなあ。

 NDAについては以前も書いたのですが、件のイベントの様子をハッシュタグなどで追いながら思うことを。
 ペラっと「これ問題ないと思うんでハンコください。」と渡されるNDAドラフト。よほどのことがない限り、ガツガツと加筆修正を入れることは確かにありません。スピード感をもってビジネスを推し進めなければならない業界・企業の法務担当者と成熟産業の中位あたりで浮き沈みしている自分とでは抱えている課題が当然違います。手間がかからない、重要性も低いが、急かされる頻度(緊急性とはいわない)と物量を考えれば「雛形」で済ませたいという気持ちもわからなくはありません。

「問題ないすよね?」
「確かに条文は問題ないよ。でもさ、相手とこのNDAを交わそうと決めたときのメモとか議事録を作ってお互い交わしてあるの?」
「え、作ってないと思うす。ないとまずいすかね。」

 NDAフォーマットを統一できたとしても、その一歩手前の「一緒にビジネスできるか、検討してみない?」は、当事者がこれからやろうとしている「ビジネス」の数だけあります。NDAに費やす時間を減らす一方で「これからやろうぜ」の段階に法務担当者が関わる時間が増えないとね、と思います。それにはどうすればいいのか、というのは法務担当者各自が一生懸命考えるしかないですよね。
こちらにはフォーマットはないんだよね。




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2018年03月04日 17:10

 ふた昔前の話になるが、記憶に残るエピソードとして。
 
 「見積の件で来てくれないか。営業ではなく本社部門の人間と話がしたい。」とある地場ゼネコンの部長から電話。当時某自治体の公営住宅向け設備建材の窓口を担当していたのですが、自治体の所管部門にでも連絡先を聞き出したのだと思います。
当時勤務先はその自治体の公営住宅向け設備では一定のシェアを維持していました。公営住宅団地の入札の度に引き合い見積依頼があったので、今回もそんなことだろうと出向いたのでした。
 開口一番、「A団地について、おたくが見積を提出した元請を全部教えてくれ。」
「は?」どう考えても「調整のため」の質問です。
「おたくもこの業界のことは承知しているだろう。」まあ承知はしていますが、昔と違ってそういった行為からは手を引かせてもらっていますよ、と返したのですが、先方は「そういう話とは少し違う。」と返してくる。では、どういうことでしょうか。

 入札制度が指名競争から一般入札に変わったことは仕方がない。問題は公共工事のイロハもわからないまま業者が参入してくることだ。標準仕様書や標準図、特記仕様書の意味を知らない業者が多い。何を優先事項として単価算出しなければならないか理解していない。厳しい中間検査や竣工検査の実態も理解できないまま、民間工事と同じ感覚で見積を出してしまうのだ。見積落としがあるから当然応札価格は下がる。請けてトラブルのはその業者の勝手だが、その下がった価格は役所の契約課に残る。
「俺はそういう事態を避けたいのだ。わかるだろう。」

 それはわかる。公共工事なのにろくに仕様書や図面も確認せずに見積もる代理店はあった。見積漏らしがありました、と泣き言を繰り返したところで「しょうがないね、次から気をつけてね」などとそっと発注額を上乗せしてくれる発注者はいません。

 が、しかし。

 先方の要求には応じませんでした。記憶はここまで。この地場ゼネコンがA団地を落札したのか、自社の設備が採用されたのかも一切記憶がありません。

 リニア談合の報道を眺めていたらふと記憶が蘇ったのでした。ついに逮捕者が出ましたが、どうにも違和感が付きまとう事件です。違和感を感じるのは法務担当者としてあれなのかもしれませんが。




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2018年02月12日 10:00

 過日、地方営業支社の経理担当者から問い合わせがあり。
 ここ何ヶ月かある販売先の売掛金回収に違算が生じている、どうも自社の売上計上日と販売先の買掛計上日とズレがあるようなのだけどもどうしようというような内容。単なる月ズレなのか、販売先の検収買掛の基準に変更があったのか確認してみてねというような会話を交わしたのだけども、あれ待てよ、そんなチャラっとした話で済まないよな、なんか大きな話があったよな?というところで、タイミングよくビジ法2018年3月号特集2の「新・収益認識基準 契約法務の対応」。そうだよ、IFRS。そして「収益認識に関する会計基準(案)」。



 本記事構成は
  1. 早わかり解説「収益認識に関する会計基準」とは
  2. 法務部が主導すべき新基準の契約への適用手順 (以上、片山法律会計事務所 片山智裕氏)
  3. 売買契約書見直しのポイント (弁護士法人L&A  横張清威氏)
  4. 請負・業務委託契約書見直しのポイント (AM&T 中村慎二氏)
の4稿、いずれも弁護士+公認会計士両方の資格を有する方の手によるものです。

 1.の冒頭で今回の新しい収益認識基準が注目される理由として
契約に基づく収益認識の原則を採用したことにあり、会計基準の体系の中核に契約という法律概念が導入されたことは画期的、業際的である。
とサクッと解説されております。
 税務・会計領域と法務領域の接近についていまさら当方がいうまでもありませんが、今回は会計サイドからの「契約書の内容」に対するアプローチということでよいのでしょうかね。これまで取引契約締結の際の経理サイドのチェックというのは、与信と支払・回収条件の確認に重きが置かれていた部分がありますが(あくまで勤務先では、ですが)、本基準の適用に当たって、法務と財務経理と二人三脚で取り組まなければならないということですね。
 留意しなければならないのは「新・収益認識基準」の適用時期。
 上場・非上場を問わず、遅くも2021年4月から始まる事業年度から本基準を適用とありますが、2018年4月から任意で早期適用できるとあります。自社の会計基準の変更を3年後に行うとしたとしても、販売先や取引先が早期適用する場合には、もっと早い時期に「契約書見直しの要請」をされるかもしれません。民法改正対応と会計基準対応と契約書レビューを同時並行で進めるということになりますね。(けっこうきついなあ)

 3、4の記事はどうしても駆け足にならざるを得ないのは理解できるのですが、ちょっと各論に過ぎるかなという感想。欲をいえば、売買や請負を問わず企業取引は商社・代理店や中間取引業者を介した契約の比率が高いので、この場合の適用手順の手ほどきがあればよかったと思います。が、いずれにしろ会計系の専門書籍はちゃんと読まなければなりませんね。




 



 

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