企業法務マン迷走記2

 大船ならぬ「酔っぱらった船」に乗ったかのような企業法務担当者の日常

カテゴリ: 企業法務

 カレンダー企画出番が迫るが、その前に1ヶ月以上更新していないのでリハビリが必要。で、埋草的エントリー。

  ここのところのSNSのタイムラインやブログ記事を読んでいて、ふと頭の中に蘇ってきたのがエントリータイトル。造注(ぞうちゅう)。当然造語。建設界隈でバブルが爆ける前に盛んに使われていた言葉である。建設業界はたとえ大手であっても基本的には「請負」の世界で発注者から「仕事を請ける(受注)」構造にあった。「請け負け」とも揶揄されるように、契約者対等の精神などどこの世界の話かというところだった。80年代半ば前後の空前の「不動産開発ブーム」のなかで、「仕事が来る、請けるのを待つだけでなく、(建設業者が)自ら事業を企画し、新たに注文を造っていこう」というムーブメントが起こった。多くのゼネコンに「設計」「購買」「建設」といった部門に加えて「都市開発事業部」や「事業開発本部」なる部門が生まれて「注文を造って」いった。当然多重請負の末端に近い納入・施工業者だった我々もその波に遅れまいと日夜駆けずり回ったものだ。しかしそれは長続きしなかったし、大きな代償を払う羽目にもなった。

 仕事を請ける一方だった側が自ら企画し、または仕事を発注する側と一体になって新たな仕事を生み出そうとした発想に誤りはないと思うし、「造注」ほどのものではないが90年代後半以降「御用聞き営業から提案営業へ」と販売部門がスタンスを変えようとしたのも根底の部分は同じだと思う。
そして、バックオフィスやその業務の受託側である士業の昨今の動きについても同じような印象を持っている。

 「最初の志は正しくても状況や運用によって、本来の目的から外れていくことがありますよね。」というのは事業者団体活動のある事情について公取委に相談したときに担当官からやんわりといわれた言葉だが、これは何事にも共通するのではないだろうか。

 バックオフィスが「生産性」や「貢献度」を意識することは大事だし、組織内のプレゼンスを高めようとするのは否定しない。ときにアピールしなければならないことも承知している。が、そもそもの志はどこにあるのか。その方法や手段にブレは生じていないか。邪な計算をしてはいないか。常に自覚し疑いを持つことも必要ではないかと思う。

 諸々の動きについてのぼんやりとした不安からのぼやき。
 
  

 ほぼ半月ぶりのエントリーとなってしまった。といってネタのストックを貯めているわけではないので
今日は製造業関連の話題にさらりと触れてお茶を濁そうと思う。

 製造業の11月といえばまず「品質月間」(主催:日本科学技術連盟、日本規格協会、日本商工会議所)
勤務先も品質保証部門がポスターを購入して社内の製造拠点中心に啓発しているが、ここ最近は営業拠点にも掲示し、メッセージも社内イントラに掲載するようにしている。今年からどういうわけか品質保証部門が自分の管掌範囲になってしまったので、メッセージを慌てて作成して経営トップ名義で掲載した次第。
 主催団体が定めた今年の標語は「みんなでつくる つなぐ お客様の笑顔」と過去の標語と比べるとぐっとソフト寄りになった。
 勤務先の場合、取引形態はBtoB、しかし製品は消費者が直接手を触れ使用するものなので品質が企業の生命線といってもオーバーではない。品質に対して従業員の意識を高く保っておく必要がある。
 昨今の企業の品質問題は偽装や隠蔽することを是としてしまった企業経営が問題となったわけで、品質問題はモノづくりの現場だけが取り組めばよいということではなくなってしまった。消費者のもとに届くまでのすべての過程の「質」が問われることを考えれば、シンプルでソフトではあるが今年の標語は品質への取り組みの本質を示しているのではないだろうか。
 品質向上は技術開発や製造部門だけの課題ではありませんよ、販売部門においては商談や販促物の内容、施工部門も品質を問われますよね、今月は自分の仕事の品質について考える機会としてくださいと朝礼でも本社社員の前で話をしたのだが、ブーメランにならないようにしないといけないね。

 もうひとつは「製品安全総点検月間」(経済産業省)
 製品を安全に使用するための周知月間なのだが、11月は家庭で冷暖房機器の切り替えのはじめ半年ぶりに家電製品やガス・石油機器を引っ張り出して使用を始めるタイミングにあたる。機器の状態を確認したりコンセント回りの清掃を行い火災などの重大製品事故を発生させないように、ということである。またこの機に自宅に「リコール対象製品」がないかも確認してもらえると大変助かる企業が多いと思う。
ぜひお願いしたいところである。(業界団体の立場)



 

 今年の初夏のことになるが昔見知った名前と顔を報道で見た。若い頃見知っていた顔だったが「ついにこの日が来たのか」という何ともいえない気分になった。というのもその人物の逮捕報道だったからである。

 その人物は発注側のキーマン(発注権限者)であった。駆け出しの営業担当者の頃だから、工事現場の元請との折衝は自分が担当し、キーマンへの対応は上司が引き受けていた。当時は30代後半だったか、まだ役付でもないのに相当額の発注権限を握っていて巨大企業は違うのだなと思っていたのだが、裏も癖もある人物で、上司も商社(というかブローカー的存在)を介して対応していた。上司は「お前は関わらなくてもいい」といい、商社の人間も「とかくカネがかかる」と苦笑するような、そんな人物である。仄聞すると社内でとかく噂が浮いては沈むといったことの繰り返しだったようだが、それでも組織から放逐されない何かを身に纏っていたのだろう。
 あれから30年ほどの年月が流れ当時の記憶も薄れかけていたところの報道であった。

 癖のある(かなり抽象的な表現だが)人物というのはどの企業にもいる。もともとそういう類の人間なのか「発注権限」のある業務に長く従事しているうちにそうなるのかはわからないが受注者側をうまくコントロールすることに長けているという点は共通している。そんな人物に仕事ください、何でもいうことは呑みます、手伝います、でもたまには儲けさせてくださいという欲顔丸出しの人間が近づけばいいように利用されるのは明らかである。

 内部統制、コンプライアンスが叫ばれ続けていてもなお企業不祥事が後をたたないのはなぜか。前述のような事案がぼちぼちと発生するのはなぜか。

 最近思うのは業務システム(ITということだけではない)を構築するメンバーや総務・法務などコンプラ系部門の人間が購買や販売といった仕事のうちにある危なかしさを感じる機会が限られているのではないかということ。以前社内不祥事の調査を行った際に、自社の業務システムの諸々が「皆が真面目にルールを守ること」を前提にしていたがゆえに、初めからそれを悪用しようとする人間に対しては脆弱ということがあった。業務システムを考える担当者たちは基本的に真面目で実直なタイプが多いと思うが、自分たちの基準でものを考えるだけでは不十分だろう。幅なのか深みといえばよいのか、優等生的ではない要素を交えて構築していくことが脇のしまった内部統制・コンプラになっていくのではないだろうか。(すごい抽象的で我ながら情けなくなる)

 珍しく実務と関連の深い書籍の話題を。

 「住宅会社のための建築工事請負約款モデル条項の解説」(匠総合法律事務所編著 日本加除出版)
 建築・住宅業界から一定の評価を得、また影響力もあると思う法律事務所による民法改正に伴う「建築工事請負契約約款」に関する書籍。過日東京木場の木材会館で開催された本著の出版記念セミナーは満席状態だった。
 下請・納品業者の立場でこの手の書籍を購入したりセミナーに参加する理由はいうまでもなく取引の相手方が今後置かれる環境と、下請に対して講じてくるであろう「措置」を測るためである。元請である住宅会社との契約は元請が用意する契約書式を丸呑みせざるを得ない、下請の工事や納品にかかる「瑕疵」が原因のトラブルが生じた場合には元請が発注者との間の契約条項を横滑りさせてくる、元請との間に数段階の流通業者を介した取引であろうとトラブル発生の際に流通業者が「契約当事者」の役割を果たさない等、業界特有の諸々は21世紀になろうが元号が変わろうと依然横たわっている。元請(住宅会社)と関わりの深い法律事務所はどのような「モデル条項」を提案しているのか。

 下請業者の目でチェックしたのは、まず次の2点。
  1. 「瑕疵」から「契約内容不適合」
  2. 「保証期間の定め」
 前者はいうまでもないだろうと思われそうだが、建築工事においては契約内容とは契約書だけではなく、仕様書、特記仕様書や設計図面、施工図、施工詳細図、定例会議議事録などの全てが契約内容になる。また建材、設備機器に関してはカタログやサンプル確認、ショールーム等での仕様決定の場面も「契約内容」としてエビデンスを確実に交わして残すことが後々のトラブル回避につながるだろう。
 後者は、現状では「根拠があるようなないような保証期間」について、消費者契約法第10条とからめての解説。契約約款の保証期間の規定については、品確法の対象範囲以外は1年ないし2年、故意過失がある場合に5年なり10年という期間の規定が多いが、これが最近適格消費者団体の「狙い目」になっているとの警告。ひとたび訴訟提起されれば期日の内容が団体のウェブサイトにアップされることから、住宅会社はレピュテーション悪化を回避するため早々に約款改定で手を打つという状況にあるらしい。改正民法で短期時効がなくなるので保証期間の定めは要注意だろう。製品保証書における保証期間を1年ないし2年としている建材や設備機器メーカーも同様である。設計耐用基準など理論付をしっかりと準備する必要があるだろう。

 さすが建築紛争の実態を踏まえていると納得した条項は
  1. 発注者の協力義務
  2. 発注者のメンテナンス不全
 前者は発注者が仕様を期限まで決めないことで工事遅延が多々生じる実態を踏まえてのこと。後者は、保証書や取扱説明書などで発注者に求められる適切なメンテナンスを怠ったことが原因で「契約不適合」状態が生じた場合は、発注者に修補や損害賠償請求権は認められないというもの。実際、何の手入れもせずにクレームだけは起こすという居住者が多いのであらかじめクギをさす条項。

 本書籍で提案された「モデル条項」が実際に使われるかわかるのはもう少し先のことになるが、前述したように建築・住宅会社だけでなく下請関連事業者も入手・熟読しておくべき1冊と思う。



 
  

 組織論、機能論の一方でコツコツと日々の業務を遂行している「一人法務」の方も多いことと思う。ビジネス法務2019年10月号の特集記事はそんな法務担当者を支援する好企画であった。自分も一人法務と諸々の業務を抱えてきた身なので、本記事やコラムを読みながら胸をなでおろしたり反省したりであった。
 一人法務は「攻め」だの「守り」、「三線」だのいっている暇はない。
それなりの人数がいて分業制の進んだ法務部門に在籍するよりは多くの経験が積めることは間違いない。成功体験であればいうことはないし、事業撤退、訴訟、不祥事対応などの厳しい局面のそれであっても無駄にはならないと思う。
 しかしいつまでも一人法務体制でよいかということではない。「法務専任」ではなく他の業務との兼務している状況ではなおさらである。
 上場準備段階にある企業は主幹事証券会社から法務に限らず管理部門の一人体制・兼務業務の解消を指導される機会があるが、業歴もそこそこ、業績も安定している非上場企業は第三者から敢えて管理体制について指導助言を受ける機会はないだろう。一人法務または兼務体制でも十分機能していると経営陣は思っているかもしれない。

 企業の事情により一人法務、または兼任体制を敷くことはやむを得ないとしても、そのこと自体のリスクを認識すべきと思う。うまく回っているのは担当者ひとりのプライドと責任感に拠っているに過ぎないことに気づいているか。

 ではどんなリスクか?(自戒と反省も含めて)

 【責任と権限】
 総務などの管理部門の下に法務担当者として置かれる場合は特にそうだが、担当者の職務権限と責任範囲をどのように定めているか。「一人法務」で諸々責任を担わせる一方、権限は他部門担当者と同様の範囲にとどめるのか。裁量の幅を拡げるのか。このような決め事がない。
当該部門の管理者が企業法務の仕事を理解していればよいが、実質担当者に一任状況になり管理者のチェックが効かない(管理者が「わからない」)という状況にないか。
法務従事者を責任のみ管理職並み、職務権限、裁量は担当者の範囲という状況に置いていないか。

 【キャリア形成、昇給昇格の面】
 担当者がコツコツと数年業務経験を重ねていけば当然昇給昇格の時期が訪れる。
しかし「部下なし」の管理職昇格を認めないという人事方針もあるだろう。法務担当者の奮闘空しく企業の事情により増員もできない(間接部門の増員は簡単ではない)にもかかわらず、他部門と比べて不利な環境になっていないか。ラインを持たない「専門職」というポジションを設ける企業があるが、法務担当者をこのポジションに付けたら当面「法務または兼任業務」は「一人」体制のままで、専門職の責任とプライド頼みが続くことになる。
 仮に一人であっても法務諸々の部門長職に引き上げた場合にも、誰が管理責任を負うのかという課題はついて回る。一人の権限裁量を拡げれば同時にブラックボックス化のリスクが生じる。たとえ法務部門長であってもそれは例外ではない。

 自社は上場する必要もないし、それほど強固な管理体制は必要ないのではないか?
そう思っている経営陣はいるかもしれないが、例えば小規模なM&Aの当事者・対象会社になる、既存借入先からではない機関からの借入、出資が必要になる可能性はないとはいえない。管理体制の整備状況は必ず見られる。一人法務・兼任業務体制を続けざるを得ないのなら、経営陣は相応のリスクヘッジを講じなければならないと思う。彼(彼女)が「ぷっつり」切れて退社したら0人になってしまうのだから。



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