企業法務

2022年12月25日 22:12

 このエントリーは、#裏legalAC 2022 参加エントリーです。 
@Hinata Oshima さんからバトンを受け継ぎ、裏のアンカーを努めます。
 経文諱武(@keibunnibu)さんから始まった裏法務系AC、そういえば経文諱武さんや裏表にエントリしたdtk先生と出会ったのも三軒茶屋だったかなと記憶を辿る。

  はじめにタイトルのネタ元に触れると、Old and Wise とは1982年発売のTHE ALAN PERSONS PROJECTのアルバム「Eye In The Sky」のラストに収録された小曲のタイトルである。初めて聴いたのは発売時、10代の終わり頃。当時から見れば十分年老いた自分が今ここにいる。

Old and Wise
Arista/Legacy
2008-11-10



  今年の春先、BUSINESS LAWYERSのインタビューを受けたものが世に出たので、キャリア論的なものには触れないでおこうと思ったのだが、1年を振り返る時期でもあるのでこの曲の歌詞を少しなぞりながら思ったことを記録しておこうと思う。

 20代、30代のときに目指したものになっているか、見たかった風景(いうまでもなく業務の世界という意味)を今見ているかといえばそうはなっていない、と思う。やや濁すのは当時何を目指していたのかもうはっきりとは思い出せないからだが、販売や事業企画といった直接部門にいた若造が見聞きして考える範囲だと思う。40代を迎えてから法務に異動し、そして50代半ばで内部監査責任者に異動した。もうどう考えても若い頃に所属したビジネス部門に戻ることはない。だから当時見たかった風景を何かのきっかけで思い出すこともないだろう。
長い目で見れば地続きかもしれないが、異動前の職務経験が今の(内部監査の)職務経験に加算されるわけではない。
年齢は重ねたけれども自分はそれに見合った知見経験をもっている人間になっているのだろうか。

 仮に、20代遅くも30代前半までに企業法務の職についていたらどうだっただろうか。法務歴25年から30年になっているはずだ。しかし、1990年代以降の企業の経営環境やそれに伴う会計・法務・監査の世界の変遷はすさまじい。ただ年齢を重ねただけ、過去の経験しか財産がない人間だと企業内であっても立場も働く場も失い、荒涼とした風景を眺めるだけになるかもしれない。
年齢を重ねることが、そのまま賢さにつながるわけではない。

 この裏表のlegalACでは自分の表裏エントリの2つを除く企業法務の48の風景を見させてもらっている。自分の知らない、関わっていない、そして面白い風景がある。まだまだ自分は何も知らないしわかってもいない、見たかった風景を思うよりも知らない風景を見ようと強く思う。たぶん、しんどい道かもしれないが。(初期からずっとこの企画に参加していながら、こう思うのは初めてである)

 毎年、某方面からの圧力があるのかわからないけれど幹事を引き受けている@kanegoontaさんに対してまたエントリーを書いていただいた方々に最大限の御礼を申し上げてしめたいと思う。



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2022年12月24日 17:40

 今回は #legalAC 2022参加エントリー、@kataxさんからバトンを引き継ぎました。
 (今回はといっても4月以来の更新、その間何をしていたのだろう)
 2年前のこの企画のエントリー「監査と法務」の続編となっているのかそうでないのか自分でもよくわからないまま、とりあえず「監査と法務2」とした。少しの間、お付き合いいただければ。

 景表法違反や独禁法違反、品質データ不正や情報漏洩などの企業不祥事が明るみにでるたび、「あの企業の法務は何をみていたのだろうね」とか「監査は機能していたの」といったコメントが飛び交い、または「そういえばその企業、今法務募集しているよ」といった情報も飛び交うことがある。
 またはTwitterその他SNSで繰り返されるネタやら愚痴がないまぜになった「企業法務あるある」。

 企業法務部門は法曹資格者や法科大学院、法学部卒、非法学部であっても知的水準が高く、努力家で責任感の強いメンバーで構成されているとはいえ、企業のなかの「いち部門」。他の管理部門や販売、製造といったビジネス部門と同様、何らかの不備や不都合、矛盾を抱えていてもおかしくはない。
いうまでもなく業務監査対象部門に「聖域」を設けるわけにはいかない。法務部門と業務を監査するなら何を監査項目として監査業務にあたるか、つらつらと考えてみた。

1. 基本事項(部門の運営)
 コーポレート・ガバナンス云々という前に法務部門がまずちゃんと運営されているのかという確認。
 ①分掌業務、組織図、職務権限、担当別職務
 ②部門方針、年間業務計画とその実推
 ③部門内コミュニケーションの実態(ミーティングの内容や管理職と担当者間のフィードバック有無)
 ④労働時間管理
 ⑤経費管理
 ⑥研修・教育計画・実績  などなど
 不備がなければそれにこしたことはないが、どの部門でも担当別職務と労働時間に問題を抱えている例があり、法務で起きていても不思議はない。また、独立した法務部門ではなく、「管理部」や「総務部」の課・係であったり、ひとり法務の場合は上にあげたすべての点についてよく調査する必要があると考える。

2. 業務
 法務部門の業務範囲は企業や業態によって異なる。議論の沸騰する事項でもあるが内部監査が依拠するのは自社の諸規則、制度、機関決定事項や業務フローである。某霞ヶ関のガイドラインや事業者団体の描く法務の将来像ではない。内部監査が担うのは会社が法務部門の分掌として決定した業務を遂行するための体制を整備しているか、確実に分掌業務を遂行しているかの保証(監査依頼元への保証)である。
 最近、自分は法務業務を次のように分類して考えているので、それにあわせて

(1)利益(成果)に直結はしないが誰かが責任をもって引き受けないといけない業務
 会社を適法状態に保つための業務、しかし出来て当然、完全に遂行したところで誰が評価するのかという業務。身も蓋もない言い方で申し訳ないが、現実に法務担当者がぼやいていることである。
 ①登記
 ②許認可・諸届出手続
 ③公告
 ④諸規則・制度の制改廃
 ⑤文書管理
 ⑥各種会議、委員会事務局
 ⑦法改正対応
 ⑧「コンプライアンス」  などなど
 出来て当然だが、簡単ではない、準備も必要という業務をどのような業務分担やフローをもって遂行しているか。上記には会社によっては法務部門の業務に含まれないものがあると思うが、⑧のコンプライアンスの文字が法務の業務分掌にあれば、当事者部門が確実に実務を行い完了するまでチェックするのが法務業務になるだろう。
 監査側は「出来て当然」とするためにどのような体制や職務分掌、業務フローで運営しているかを調査し監査依頼元に報告することになるのだが、「出来て当然」業務といえど不備や隘路が生じていることもある。法務部門のみで解消できる事項であればその旨を、他部門の業務に原因があり法務部門のみでは解消できないことであればその旨を報告し、監査依頼元の次の指示を仰ぐことになる。
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2022年04月30日 23:34

 うっかり4月が終わってしまう前に、1本だけエントリーを上げるようにしよう。
定期的エントリーといえるかどうかはともかく、数年続いている新入社員研修エントリー。

 今年は実に3年ぶりのリアル集合研修(2週間)であった。過去2年のオンライン中心の研修を続けてきたが、ある種の限度もあったのだろう、感染リスクには十分に配慮するとして人事部門が最終的にリアル研修に持ち込んだようだ。
 諸事情あって、入社3日目、研修2日目にコンプライアンス研修(2時間)が組まれた。もっとも研修期間の可能な限りアタマのほうに、というのはこちらの希望でもある。ここ数年はわざわざこちらが念を押さなくても、研修2日目に組まれるようになった。

 コンプライアンス、といっても学校ではほとんど習う機会ないらしいので、(ちなみに今年は法学部卒もいたのだが講義でコンプライアンスにきちんと触れる機会はなかったという)企業法務界隈でのコンプラネタで講義を構成しても聴く側の新入社員にとっては退屈な2時間になるだけである。

実際にうまくいっているかはなんともいえないのだが、毎回こんなことをしている。
  • テキストやノートの特に導入部は何回も考え直す。これは受講者のため、というだけでなく自分の講義のリズム作りの意味合いもある。
  • 受講者のプロフィールを確認しておく。講義中に話題をふれそうな人の当てを作っておく。
  • 研修内容の8割は翌日は忘れられてしまうものとして、2時間の講義中の本当の山場は2つぐらいにしておく。
  • 無理に若者ネタには手を出さない。
  • あまり昔の話もしない、しても引っ張らない。リーマンショックですら新入社員が小学生の頃!のことなのである
  • 何よりタイムキープ。だから、前日/当日はぶつぶつとロープレをする。
  • 講義中は受講者のうなづき具合を確認する。
  • ときに指名して質問を投げる。こちらの意図した答えでなくてもOK、回答してくれたことに礼をいう。
  • 山場にきたら声の大きさやテンポを変える。(ロープレで確認する)
こんなところか。

講義の締めは毎回このセリフ。
「コンプライアンスの第一歩は会社のルールや業務の基本を身につけること、社内外のいろいろな人とその仕事を知ることから。だから、このあと2週間弱の研修カリキュラムはなれないことが多いかもしれないが、真剣に取り組んでください」
これをいうためにコンプライアンス研修は研修期間のアタマのほうにおいてもらっている。

自分の講義の評価は、研修日報である。
読みながら反省もするし、少しでもこちらの意図が届いているようなコメントをみてほっとしたりしている。

今年の反省は、終盤で息が上がったこと。
マスクをしての講義だったこともあるが、やはり2時間ライブで講義をするのが久々だったからか、忍び寄る老いか(苦笑)

研修運営についてはまた別の場、機会で。


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2021年12月25日 15:55

 このエントリーは裏法務系Advent Calendar2021 の参加エントリーです。
 @Hinata_SpaceLaw さんからのバトンを引き継ぎ、#裏legalACのトリを務めさせていただきます。
年々力作が増えるこの企画、うっかり最終日を選んだ己の愚かさをかみしめながら書きます。

 この企画で「会社のカタチ」を書いたのは3年前になる。定点観測、のようなものかな。

 今年は改正会社法、コーポレートガバナンス・コードの改訂、そして市場区分の見直し、と「コーポレート」系の話題に事欠かない年ではあったが企業法務というよりは経営企画・会計寄りのものと捉えていた。法務系の書籍と経営企画系のそれとでは扱い方が違い、実際にIRを担う経営企画・会計系の書籍のほうが実務への落とし込みについての具体的な記事があったような印象がある。
以下、つれづれと自分の印象だけ中心に書き残しておく。

1「取締役会の強化・活性化」 
 機関設計と独立社外取締役の設置、ダイバーシティな(面倒なので形容詞にする)取締役選任などが即取締役会の活性化に繋がるのか。というよりも取締役会の強化や活性化とは取締役会だけでできるものなのか。むしろ、取締役会の手前はどうなのか?ということにもっと論じるべきではないか。執行役、執行役会、執行役員、経営会議、要務会(ちょっと古いか)等、業務執行責任者の業務執行や彼らが構成する「会社の重要会議」の運営は万全なのだろうか。
 取締役会に重要な情報が確実に上がるようにという。では逆に取締役会や取締役は業務執行責任者や従業員に情報を発信し、それが確実に到達しているか確認できているのだろうか。
 自分の勤務先は国内事業のみで従業員数も2000名以下である。グローバル企業から比べれば、小さな規模である。それでも、経営トップの方針や重要会議の決定事項が担当者レベルまで伝わっていないことがままある。それを解消するためにいろいろと手間をかけているのが実情だ。
経営陣の発信情報が業務の現場に行き渡らないのに、取締役会側にのみ業務の現場からの情報が都合よく上がるとは考えられない。
 たまに監査役と話す。彼はガバナンスの基本は情報の正確な伝達からという。それは取締役会、取締役の発信に負うところが少なくないと思う。

2「グループガバナンス」
 親会社と子会社、という語句と考え方について。『コーポレート・ガバナンスの進化』(松田千恵子著 日経BP刊)第5章あたりを読んでいて思ったことがある。ひとつは親会社と子会社という語句が招く「誤解」である。このブログの古いエントリーに勤務先が上場親会社に売却された顛末やその後の姿を書き残しているが、その当時、自分らの会社は「親」という語句があるゆえに「親は子を守る」というまったく根拠のないことをどこかで信じていたのだ。
親会社は株主でありカネの出し手以上でもそれ以下でもなく、だから投資の見返りがなければ手放すし、高く売れるとなればカネにかえる。
 一方で「子」は自分のいうとおりにすべきだ、だからなんでも一体化すべきだとする「親会社」もあるだろう。ガバナンスの視点では間違いではない。ヒト、モノ、カネ、システム、これらをグループ内で無駄なく活用、子会社の経営を規律化するには、会社の仕組みを同一のものにするのが理想的だろう。
 だがM&Aによる企業の活性化という面ではどうなのだろうか。常にM&Aの対象会社にいる身からみると、いつでも切り離す、いつ切り離されてもよい、という「準備」も必要ではないだろうか。がっちり仕組みに組み込むことがベストとは限らない。
株主が親会社1名の子会社など、条件次第で3〜4ヶ月もあれば売却できるし売却されるのである。
親会社の取締役も子会社の取締役も「親子」の誤解はしていないだろうか。

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2021年06月06日 18:00

 勤務先の事業まわりの法施行令がこの夏にも改正され、これに伴いある制度がほぼ終了することが明らかになった。施行から12年経過し、制度が定めた消費者・事業者の義務履行が始まり3年というところであった。
 公表されている法改正と制度終了の理由として公表されている点異論を挟む点はない。ただこの制度の準備段階の2007年頃、事業者団体の会務で所管との協議の場に居合わせた者としては、当時から抱いていた懸念が現実のものになったという感想しかない。懸念とは制度の普及である。
 誰が制度上義務を負う者(本件の場合、消費者)に責任をもって伝えるのか。そして、消費者の信頼を得られる制度設計だったのか、懸念はこの2点だった。特に前者は業界の複雑な商取引・商習慣と周知の役割を期待される、いや義務を負う事業者のそもそも所管が異なるという問題を抱えていた。
 この制度が目的どおり普及し定着すれば、事業者vs消費者という構図に変化をもたらす可能性はあったと自分は思う。法や制度の志や目的は間違いではなかった。周知・普及のためのオペレーション設計が十分ではなかったのだと思う。

 さて、このエントリーは行政がどうこうというつもりではない。似たようなことが周囲でも起こっていないかということである。
 業務監査で社内の各部門の現状をみていると、社内規程や業務マニュアル、業務通達の理解不足、そうであればまだよいのだが、実務担当者に「適時に」「正確に」伝達されていないケースを見つけることがある。規程やマニュアルはイントラにも掲載し、必要があればメール等で発信しているのになぜだろうか。
 「規程やルールはイントラに掲載しいつでも閲覧、確認できるようにしている」したがって、それを読まずルールに違反する当事者が悪い。それはそのとおりなのだが、それで済むものではない。現場の担当者の周知、理解が不足している場合、ルールを作り伝達する側に何の落ち度もなかったといい切ることができるだろうか。

 法務担当者は会社規則の制改廃や制度設計の業務に携わるケースが多いことと思う。
規則や制度は作って終わり、イントラやメールでの通り一遍のお知らせで済むものなのか。
一番理解してもらいたい人は誰か、それには誰から伝えるのが適切か、伝わったかどうか、誰が確認するのか。
 当たり前のようなことだが、果たして確実にできているだろうか。
 
 そんなことを考えた事例であった。 

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