企業法務マン迷走記2

 大船ならぬ「酔っぱらった船」に乗ったかのような企業法務担当者の日常

カテゴリ: 企業法務

 更新の間が空いた理由は特になく、だらけていただけです。はい。再開です。

 今年に入って、販売部門からの問い合わせの機会が増えているものに、販売先からクラウド系サービスのアプリの導入を要請されその対応をどうしようかというもの。
 建設業界は二次元、三次元CADなど意匠・構造設計の分野では90年代からテクノロジーが導入されていたのですが、今導入どうこうというのは建設工事現場ごとに元請⇄下請業者間の工程管理や施工図、施工写真データのやりとりをクラウド系サービスで行おうというもの。ひとつの建物が着工から竣工引渡しに至るまでは数多の専門工事業種が出入りします。日程、入場する人員数、搬入するトラックの台数、使用する荷揚用リフトやエレベーターの使用する順番などなど、元請の現場担当者の工程管理にかける手間は相当なものです。慢性的な施工業者不足に加えて「働き方改革」で4週8休実現に取り組まなければならなりません。電話やfax連絡が根強く残る業界ではありますが、いよいよtech系導入待ったなしとなったと。まあ、それはいいことなのですが。

 元請から「工程管理のこのアプリを導入します」「アクセスIDとパスワード付与のために担当責任者のメアドを登録してください」というようなメールを受け取った営業担当者からの問い合わせ。営業担当者によっては「何がなんだかわからない」状態で「導入しないと仕事もらえなくなるかもしれません」と半分脅しのような要請を重ねてきます。そして情報システム部門は渋面になります。
 アプリを大別すると、①元請自社開発 ②一応法人向サービス ③個人向けカレンダーアプリレベル で、③は論外、①②も親会社含むグループの情報セキュリティー基準と照らし合わせて検討ということになります。正直、「玉石混交」といってもいい状態。なかには大手中堅元請での採用をPRされているものもありますが、それを理由に無審査で承認というわけにはいかないのが難しいところ。      
 建築業界のように多重の請負、数次の建材流通で成り立っている業界では、元請1社に採用されれば一気にそのアプリのユーザーは増えますが、ユーザーの情報セキュリティーの水準も従業員のリテラシーもバラバラ、まちまちです。こういう点をアプリメーカーはどこまで把握されているのだろうかとふと思うのです。
 先の要請に対しては、アプリメーカーと情報システム部門と直接コンタクトを取らせて諸々の確認しています。同業者によってはあまりセキュリティーのことは触れずに導入して「うちの担当者のスマホは、元請からのアプリでぱんぱんだよ」と苦笑していますけれどね。

 クラウド系サービスに対する過度な警戒は不要な時代なのかもしれませんが、突然アプリのユーザーにさせられる立場からすると、ただ「弊社のこのアプリは優れています!」というPRだけでは「それなら安心だね」とはならないのですよ。スタートアップやベンチャー企業の「功成り名遂げる」という姿勢は理解できないわけではありませんが、商品やサービスのシェア争いの前にユーザーが安心して事業者を選択できる市場を作ることも必要ではないかと思うのですよね。
 「なんだか新しくて良さそうだけど、比較対象もないし、これでほんとにいいのかな」という保守的なユーザーの気持ちも汲んでくださいな、というエントリでした。

 台風が来るといわれていたけれども、はやくも熱帯低気圧になったとか。晴れた途端に近所の雑木林ではアブラゼミとミンミンゼミが焦ったように鳴いています。

 走り読み、BLJ9月号。何か書き留めておかないと関連書籍や資料を読むことが後回しになってしまいそうで、この時期恒例の特集記事「2019年通常国会改正法の影響度」から自分の業務に関連深いところから。
 「意匠法改正」は建築物の外観および内装が保護対象なった点。ようやくなったかという感がありますね。他所がやってうまくいったこと、ウケたことを自社にすぐ取り入れるのも商売のなんちゃら、というようなことが多かれ少なかれあると思いますが、真似されるほうにとってはたまったものではありませんよね。
 商業施設のデザインについては「プロダクトデザイン保護法」(冨宅恵著 日本加除出版 2015年)第4章「空間デザイン」で取り上げられていましたが「意匠法による空間デザインの保護には限界があるというほかない」とされていました。
 今回の改正で店舗の空間・内装デザインについて「企業ブランド」としてコストをかけても法で十分に保護されないという状況から転換していくでしょう。詳細は審査基準の内容が定まってからになりますが一斉に意匠登録する事業者がでてくるような気がしますし、「デザイン」後発企業にとっては権利侵害回避にコストをかけざるを得なくなります。後ろ向きな事案にコストをかけるよりは「デザイン」にはじめからちゃんと投資しようということを促すことになるのでしょうか。

 「人事の目リスク管理の目」
 今回は「労働組合」。
 企業再編や過去の経緯を引きずり労働組合については懸案事項があるものの立場上表立ってどうこうできないので個人的には好記事でした。事情についてはここでは書けないけれども、働き方をはじめ企業と従業員との関係がひと昔前とは大きく変わっていくなか労働組合の役割も変わっていくと思います。労務部門にも読ませたい記事ですね。

 労働法のパワハラ防止対策法制化についてはビジネス法務で特集記事を組んでいるので、そちらと合わせてエントリーを書こうかと思います。

 ではでは。



 ようやく梅雨も明けるのでしょうか。
 
 法務の業務なのか、監査のそれなのか、毎日大小さまざまな情報が寄せられます。
社外向け文書の精査については先日もエントリをあげましたが 、何がしかの事案で発生して経過報告なり再発防止策の報告など、製造販売を営んでいるとこのような機会があるわけですね。
 原因、経過の内容をチェックしていて(といっても技術分野のすべてに通じているわけではありませんが) 気づくことは、基準やルールを設けて守られているのですが十分ではない、抜け漏れが生じているのに気づかないということが増えつつあるということ。基準やルールというものは一回定めるとよほどのことが起きない限り、年1回見直し・更新の機会を設けても「何事もなし」でスルーということがあると思います。そして気づいたときにはことが発生している。
 「基準は設けています」「ルールは守っています」がもつ危険性は、その先や周囲を考えない恐れがあるということ。そこに悪意はない、ただ思考もないという、ある意味確信犯的にルールから外れていくよりたちが悪いパターンだと自分は思っています。
 ルールメイキングという巷で取り上げられている話題とはスケールが違いますが、社内の基準やルールは変えなくてよいのか、古い基準に縛られ弊害が生じていないかなどと提起しリスクの目をつんでいくのも企業法務の仕事だと思う次第。
 

 近年には珍しく「梅雨」らしい長雨ですね。

 経済産業省「リコールハンドブック2019」が公表されたのでメモ。
 今回版のトピックスは何といっても
  1. リコール実施進捗報告において、従来のリコール実施率(リコール実施台数/リコール対象数×100)に加えて、対象製品の「推定廃棄台数」を「リコール実施数」に加算、「補正実施率」を報告に併記することが可能になった点。
  2. リコール実施状況の自己評価、進捗報告終了について」として、「リコール開始からリコール要因による製品事故が発生していない期間が3年以上経過していること」に加えて、1.にある①「リコール実施率」または「補正実施率」が90%超 ②リコール実施事業者の努力にもかかわらずリコール実施率が頭打ち状態に達し2年間経過していること
 が明記されたことでしょう。

 「リコール実施率100%」の旗を振られる以上その命には従わなければならないのですが、実施後一定期間が過ぎ、実施率が90%を越えるとピタリと進捗が止まリます。残りの数%は販売後の年数経過からみて「すでに買い換えられた」「廃棄された」ものと考えるのが現実的なのですが、なかなかそうはいかなかったのがこれまでのところ。「廃棄された台数を把握してリコール対象数から除外できないか」という動きは、自分が関与したことがある業界団体やリコール実施のための協議会内から燻っていましたので、まさにようやくこの日が来たかという感があります。もちろん業界団体や自社で「市場残存率」の算出モデルをもっていなければなりませんが大きな転換であることに違いありません。
 
 とはいえリコール対象製品が「廃棄された」「使用されていない」というデータをどうはじいていくか、これについては製品トレーサビリティの課題になるのではないでしょうか。
 今回の改訂にあたっての審議は、事業者側メンバーはインターネットモール運営者、家電流通団体、燃焼機器メーカー団体と日頃からユーザー情報がとれる環境が整っている事業者・団体でした。数次の流通事業者を介して販売する業態はどのように「市場残存率」算出モデルを作っていくべきか、これはこれで頭が痛いことかもしれません。

https://www.meti.go.jp/product_safety/recall/recall_handbook2019_all.pdf


 「別れて そして」もう40年前の歌なのか。
  
     じゃ、なかった。

 ビジネス法務2019年8月号、特集「契約解除の実務」。
 2018年12月号から2019年3月号にかけて「契約解除の実務ポイント」と連載されていましたが、時間を空けずに再び特集記事を組むということは、法務担当者の需要が高いということなのでしょうか。
何事も始めるときよりも、終わらせるときのほうが難しいものです。まして中途で終わらせるとなると。

 企業取引の現場では契約解除する側にもされる側のどちらの立場になりますし、自分が締結時から関与している契約ばかりではありません。中途解除しようにも「うわあ、なんだこの条項は!」と埋まっていた不発弾のような条項がないとも限りません。契約書の字面からだけではわからない事情の有無を当事者部門からほじくり出さなければなりませんね。

 製造業の経験だけですが、こんなことがあったよなということを少し書き出しておきます。まあ、皆さんも経験しているとは思いますが。
  • 契約書に例えば「3ヶ月前までの申し入れ」と規定されていたとしても、実際に「3ヶ月前」の申し入れで問題がないかという点。OEM契約などでは正式発注の前に原材料、部材、生産時間の確保などの都合上「内示」する規定を設けることがあるけれども、内示時期が正式発注の3ヶ月以上前の時期と規定していたらどうか。
  • 解除しようとする取引が下請法適用取引で、当該下請事業者の売上に占める自社の構成比が高かったら。あるいは自社との取引のために直近で設備投資をしてしまっていたら?
  • 販売先との中途解除。相手方がすぐに「転注」できるか、という問題。契約解除と供給停止により第三者(転売先)との間にトラブルを発生させないか。
  • 販売先との契約解除では、取引保証金を差入してもらっていたり土地建物に抵当権設定しているケース。差入書や権利書、登記識別情報の在りかが「あれ?」ということになっていないか。
 契約解除は、それまで続いていたモノ・ヒト・カネの流れを限られた時間で止めてしまうわけですから、申し入れる側だとしても簡単に片付くとは限りません。まして、契約締結時にはどちらの当事者も「中途解除」の日が来るとは考えていないケースが多いでしょう。取引基本契約に契約終了・解除時の「残存条項」が設けられているものが多いですが、解除時には改めて残存義務を含めた解除合意を取り交わすことはいうまでもありませんね。

 少しでも痛い目にあったことのある事業担当者や営業担当者は契約締結時点で「終わらせ方」を考えるのですが、「前進あるのみ」のような担当者や幹部社員は解除条項の話を嫌がります。しかし商売は何が起こるかわかりません。「あなたが望んだとおりの別れ方」ができるように、と説得し契約をまとめていくのも法務の仕事。

 システム開発の解除紛争についてはまた別の機会に。



 

 
 


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