企業法務マン迷走記2

 大船ならぬ「酔っぱらった船」に乗ったかのような企業法務担当者の日常


企業法務

何か違和感を抱くのは間違いなのだろうか

 ふた昔前の話になるが、記憶に残るエピソードとして。
 
 「見積の件で来てくれないか。営業ではなく本社部門の人間と話がしたい。」とある地場ゼネコンの部長から電話。当時某自治体の公営住宅向け設備建材の窓口を担当していたのですが、自治体の所管部門にでも連絡先を聞き出したのだと思います。
当時勤務先はその自治体の公営住宅向け設備では一定のシェアを維持していました。公営住宅団地の入札の度に引き合い見積依頼があったので、今回もそんなことだろうと出向いたのでした。
 開口一番、「A団地について、おたくが見積を提出した元請を全部教えてくれ。」
「は?」どう考えても「調整のため」の質問です。
「おたくもこの業界のことは承知しているだろう。」まあ承知はしていますが、昔と違ってそういった行為からは手を引かせてもらっていますよ、と返したのですが、先方は「そういう話とは少し違う。」と返してくる。では、どういうことでしょうか。

 入札制度が指名競争から一般入札に変わったことは仕方がない。問題は公共工事のイロハもわからないまま業者が参入してくることだ。標準仕様書や標準図、特記仕様書の意味を知らない業者が多い。何を優先事項として単価算出しなければならないか理解していない。厳しい中間検査や竣工検査の実態も理解できないまま、民間工事と同じ感覚で見積を出してしまうのだ。見積落としがあるから当然応札価格は下がる。請けてトラブルのはその業者の勝手だが、その下がった価格は役所の契約課に残る。
「俺はそういう事態を避けたいのだ。わかるだろう。」

 それはわかる。公共工事なのにろくに仕様書や図面も確認せずに見積もる代理店はあった。見積漏らしがありました、と泣き言を繰り返したところで「しょうがないね、次から気をつけてね」などとそっと発注額を上乗せしてくれる発注者はいません。

 が、しかし。

 先方の要求には応じませんでした。記憶はここまで。この地場ゼネコンがA団地を落札したのか、自社の設備が採用されたのかも一切記憶がありません。

 リニア談合の報道を眺めていたらふと記憶が蘇ったのでした。ついに逮捕者が出ましたが、どうにも違和感が付きまとう事件です。違和感を感じるのは法務担当者としてあれなのかもしれませんが。


ハンコをめぐるさまざま事情を考える

 法務業務に関するクラウドサービスのニュースが多い昨今、アナログ世代の方々いかがお過ごしでしょうか。

 よろず管理業務が押し付けられている任されているのですが、そのなかに「公印管理」という業務があります。印鑑登録をしている代表者印の保管と押印作業です。一日のなかでこの業務が一定の割合を占めます。漢委奴国王印の頃から始まったのかわかりませんが、判子文化というのはこの国の必要以上に頑強に根付いているのを毎日痛感しています。
 そんな文化なんてあれだよね、ということでデジタル契約書とサインがじわじわと普及しているかのようですが、 自社の公印押印請求来歴をみると意外と契約書の占める割合は少なくて(ビジネスが不活発ということではないのですが説明は省略)、官公庁や関連団体、金融機関、年金関係、リース車両の車庫証明などの各種届出、申請書、提出書類の方が圧倒的に多いのですよね。ハンコだけでなく、印鑑証明書や登記簿謄本の添付まで求められる例もあります。証明書は無償で発行してくれるわけではありませんから、ハンコを押す時間あたりの労務費と証明書取得費用を考えると一体ハンコに関わる業務コストはいくらなのでしょう。

 ところで。
 
 押印業務といっても日々一定の時間に限り己をスタンプマシーンだと割り切ってハンコを機械的に押していればよいかというとそれで済むわけではありません。
 押印申請部門で必要な決裁(取締役会などの決議機関の承認も含め)を経ているか、印紙の有無、税額に過不足はないか、しれっと未知の契約書が紛れ込んでいないか等ハンコを押す前の確認業務の方に時間がかかります。
 これは法務系に先立ちシステム化が進んでいる経理系の出納システムにも同じことがいえるかもしれません。出納業務そのものはデジタル、しかしその根拠となる稟議決裁はアナログ。稟議決裁過程をどうにかするのが先ですよね。
新興のIT企業にお勤めの方には信じられないかもしれませんけれども、社歴の長い、要するに古い企業はこういう状況があるのです。稟議決裁のプロセスのIT化となると内部統制にも関わる話ですからね。

 内部統制ともなると自社だけでなく、親会社や子会社の管理体制は避けられません。

 どれだけの割合があるかはわかりませんが、子会社管理の一環で親会社が子会社の代表者印、金融機関届出印を預かり、押印業務も親会社が行うというケースがあります。子会社としての独立性はどうよという問題ですが親会社にもそれなりの事情、理由があってのことなのでしょう。
 この場合も単なる親会社による公印保管、押印業務代行ということでは済まず、親会社の管理部門による「手続き、根拠の確認」があります。親会社の経営陣の稟議決裁を経ることを必要とする事項が規定されている可能性が高いですから、このような管理体制のまま子会社において稟議決裁過程からハンコ(サイン)までシステム化を進めると、子会社が親会社のシステムにアクセスして承認を求め、親会社が子会社のデジタルサインをすることになりますが、それってどうなのだろう。

 まあ、こんなことをつらつらと考えた出張明けの日曜日でした。
 

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重なる?契約書レビュー ビジネス法務2018年3月号

 過日、地方営業支社の経理担当者から問い合わせがあり。
 ここ何ヶ月かある販売先の売掛金回収に違算が生じている、どうも自社の売上計上日と販売先の買掛計上日とズレがあるようなのだけどもどうしようというような内容。単なる月ズレなのか、販売先の検収買掛の基準に変更があったのか確認してみてねというような会話を交わしたのだけども、あれ待てよ、そんなチャラっとした話で済まないよな、なんか大きな話があったよな?というところで、タイミングよくビジ法2018年3月号特集2の「新・収益認識基準 契約法務の対応」。そうだよ、IFRS。そして「収益認識に関する会計基準(案)」。



 本記事構成は
  1. 早わかり解説「収益認識に関する会計基準」とは
  2. 法務部が主導すべき新基準の契約への適用手順 (以上、片山法律会計事務所 片山智裕氏)
  3. 売買契約書見直しのポイント (弁護士法人L&A  横張清威氏)
  4. 請負・業務委託契約書見直しのポイント (AM&T 中村慎二氏)
の4稿、いずれも弁護士+公認会計士両方の資格を有する方の手によるものです。

 1.の冒頭で今回の新しい収益認識基準が注目される理由として
契約に基づく収益認識の原則を採用したことにあり、会計基準の体系の中核に契約という法律概念が導入されたことは画期的、業際的である。
とサクッと解説されております。
 税務・会計領域と法務領域の接近についていまさら当方がいうまでもありませんが、今回は会計サイドからの「契約書の内容」に対するアプローチということでよいのでしょうかね。これまで取引契約締結の際の経理サイドのチェックというのは、与信と支払・回収条件の確認に重きが置かれていた部分がありますが(あくまで勤務先では、ですが)、本基準の適用に当たって、法務と財務経理と二人三脚で取り組まなければならないということですね。
 留意しなければならないのは「新・収益認識基準」の適用時期。
 上場・非上場を問わず、遅くも2021年4月から始まる事業年度から本基準を適用とありますが、2018年4月から任意で早期適用できるとあります。自社の会計基準の変更を3年後に行うとしたとしても、販売先や取引先が早期適用する場合には、もっと早い時期に「契約書見直しの要請」をされるかもしれません。民法改正対応と会計基準対応と契約書レビューを同時並行で進めるということになりますね。(けっこうきついなあ)

 3、4の記事はどうしても駆け足にならざるを得ないのは理解できるのですが、ちょっと各論に過ぎるかなという感想。欲をいえば、売買や請負を問わず企業取引は商社・代理店や中間取引業者を介した契約の比率が高いので、この場合の適用手順の手ほどきがあればよかったと思います。が、いずれにしろ会計系の専門書籍はちゃんと読まなければなりませんね。




 



 

きっかけの記憶

 阪神の震災から23年。あれからそうかと本日の業界団体の会合でも話題になりました。

 その日、朝出勤直前に観たTVニュースではまだ情報が集まっておらず被害の状況はかろうじて火災が発生していることぐらいだったでしょうか。
 今と違いウェブサイトでニュース動画が流れる時代ではありません。当時、新聞各社が開設していたのはニュースダイヤル。そこに何分かおきにダイヤルすると、そのたびに被害の状況が拡大していることが伝えられました。
 そうこうしているうちに、事業部門トップが秘書に命じて関西方面のホテルの空室をかたっぱしから押さえ始めていました。家を失った従業員や家族、関係者の住まいの確保のためでした。当日の記憶として一番残っているのはこのことです。

 震災仮設住宅での高齢者の病気や死亡がニュースになりました。
 震災復興住宅(集合住宅)が、確か一般の住宅設計や住宅設備の高齢者配慮、バリアフリー化を推し進める契機になったように覚えています。

 阪神以後、災害発生時の仮設住宅の資材の確保を目的に行政や住宅団体が建材・設備メーカーなどの生産地、生産量の調査を始め、メーカー団体も仮設住宅対応の体制を整えました。のちの奥尻島や中越地震のときにこれらが機能しました。

 今では当たり前のようになっていることの中には、23年前の今日起きたことを始まりとしているものもある。このことをきちんと記憶しておこう、と思った次第。

 合掌。

 

拾い読み 「働き方」?「働かせ方」?改革について 

 投資ファンド傘下の急ごしらえ持株会社でIPOに取り組んでいたときのこと。企業再編の結果、複数の就業規則が並存している時期でした。主幹事証券からは、企業再編を行った企業ではよくあることでそのこと自体はリスクとはいえない、問題は管理職が自部門のメンバーがどの就業規則に則って業務に従事しているのか管理できているか、そちらがリスクだという指摘を受けました。(もちろん、就業規則統合の計画は必要)当時から7年近くの時間が経過していますが「働き方改革」で再び同じ課題に直面するのかと嘆息しています。

 ①てんこ盛りのビジネス法務2018年2月号のメイン特集「働き方改革法案要綱の全容を解く」
 ②少し前に発売のジュリスト#1513(2017年12月号)特集「働き方改革の実現に向けて」



 ①は経営側の法律事務所の弁護士の寄稿が目立つ(当然といえばそうか)一方、②は冒頭の鼎談は労働者側の弁護士が入ってのものですが、個人的には、日本を代表する小売・外食業、人材派遣業と労働組合の実務担当者による座談会記事「働き方改革と人事管理のこれから」を読み込みました。ジュリストを企業の人事労務担当者が読むかというと少し疑問ですし学生が読んでも今ひとつという気がするのですが、企業実務担当者が自社の取組の現状や課題などを明らかにされています。労務業務に関わっていない法務担当者でもわかりやすい内容ではないかと思います。
 キャッチフレーズに踊らされそうな「働き方改革」ではありますが、実際は人事、労務と重要な経営事項を見直しですから、この機にきちんと見直さないと採用はおろか人材の定着も危うくなるのではないかと思います。
 しかし「とはいえ」という部分がやはりあります。冒頭の話ではありませんが、現場を預かる管理職の管理業務がリスクを生む可能性があります。従業員の雇用契約態様や条件の確認、勤怠など現場管理職の管理業務を軽減する仕組みができていなければ整備しなければならないのでしょうが、例えば勤怠管理などの情報システムの投資は簡単なものではないので諸々余裕のない企業にとっては負荷がかかる「改革」になりますね。
 
 時間外労働については某所でも呟いたことがあるのですが単独の企業の取組だけでは限界があるように思います。需要家、発注者から最終の受注者まで業界の上流から下流まで一貫して取り組まないと結局、時間外労働の付け替えに過ぎなくなってしまいます。勤務先の場合、需要家・発注者が建設業界です。時間外労働上限規制に関して「適用猶予」がつく業界ですので、これに引きずられることを懸念しています。

 今のままで良いわけではないのですが、「改革」は痛みを伴うものと納得するよりないということでしょうかね。


 

 
 


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