会社法まわり

2021年12月25日 15:55

 このエントリーは裏法務系Advent Calendar2021 の参加エントリーです。
 @Hinata_SpaceLaw さんからのバトンを引き継ぎ、#裏legalACのトリを務めさせていただきます。
年々力作が増えるこの企画、うっかり最終日を選んだ己の愚かさをかみしめながら書きます。

 この企画で「会社のカタチ」を書いたのは3年前になる。定点観測、のようなものかな。

 今年は改正会社法、コーポレートガバナンス・コードの改訂、そして市場区分の見直し、と「コーポレート」系の話題に事欠かない年ではあったが企業法務というよりは経営企画・会計寄りのものと捉えていた。法務系の書籍と経営企画系のそれとでは扱い方が違い、実際にIRを担う経営企画・会計系の書籍のほうが実務への落とし込みについての具体的な記事があったような印象がある。
以下、つれづれと自分の印象だけ中心に書き残しておく。

1「取締役会の強化・活性化」 
 機関設計と独立社外取締役の設置、ダイバーシティな(面倒なので形容詞にする)取締役選任などが即取締役会の活性化に繋がるのか。というよりも取締役会の強化や活性化とは取締役会だけでできるものなのか。むしろ、取締役会の手前はどうなのか?ということにもっと論じるべきではないか。執行役、執行役会、執行役員、経営会議、要務会(ちょっと古いか)等、業務執行責任者の業務執行や彼らが構成する「会社の重要会議」の運営は万全なのだろうか。
 取締役会に重要な情報が確実に上がるようにという。では逆に取締役会や取締役は業務執行責任者や従業員に情報を発信し、それが確実に到達しているか確認できているのだろうか。
 自分の勤務先は国内事業のみで従業員数も2000名以下である。グローバル企業から比べれば、小さな規模である。それでも、経営トップの方針や重要会議の決定事項が担当者レベルまで伝わっていないことがままある。それを解消するためにいろいろと手間をかけているのが実情だ。
経営陣の発信情報が業務の現場に行き渡らないのに、取締役会側にのみ業務の現場からの情報が都合よく上がるとは考えられない。
 たまに監査役と話す。彼はガバナンスの基本は情報の正確な伝達からという。それは取締役会、取締役の発信に負うところが少なくないと思う。

2「グループガバナンス」
 親会社と子会社、という語句と考え方について。『コーポレート・ガバナンスの進化』(松田千恵子著 日経BP刊)第5章あたりを読んでいて思ったことがある。ひとつは親会社と子会社という語句が招く「誤解」である。このブログの古いエントリーに勤務先が上場親会社に売却された顛末やその後の姿を書き残しているが、その当時、自分らの会社は「親」という語句があるゆえに「親は子を守る」というまったく根拠のないことをどこかで信じていたのだ。
親会社は株主でありカネの出し手以上でもそれ以下でもなく、だから投資の見返りがなければ手放すし、高く売れるとなればカネにかえる。
 一方で「子」は自分のいうとおりにすべきだ、だからなんでも一体化すべきだとする「親会社」もあるだろう。ガバナンスの視点では間違いではない。ヒト、モノ、カネ、システム、これらをグループ内で無駄なく活用、子会社の経営を規律化するには、会社の仕組みを同一のものにするのが理想的だろう。
 だがM&Aによる企業の活性化という面ではどうなのだろうか。常にM&Aの対象会社にいる身からみると、いつでも切り離す、いつ切り離されてもよい、という「準備」も必要ではないだろうか。がっちり仕組みに組み込むことがベストとは限らない。
株主が親会社1名の子会社など、条件次第で3〜4ヶ月もあれば売却できるし売却されるのである。
親会社の取締役も子会社の取締役も「親子」の誤解はしていないだろうか。

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2021年03月28日 17:07

 今回もビジネス法務連載記事「企業法務史のターニングポイント」の読後メモ。
 「コーポレート・ガバナンスのあり方の模索」


 法務に異動したのが、2006年の暮れも押し詰まってから。2006年5月施行の会社法施行の直後。勤務先はこの年の秋に委員会設置会社から監査役設置会社に機関設計を変更していた。残されていた資料をみると取締役会で親会社の指示に基づき内部統制体制の整備に関する決議と規則整備をしている。
 
 会社法のポイントのひとつは組織再編を柔軟に行えるようにしたことでなかったか。
 2008年のリーマンショックとその後の不況はちょうど親会社から投資ファンドに売却され、組織再編を繰り返し四苦八苦していた時期と重なる。「親会社の庇護」がなくなって初めて独立企業として生きていくことの厳しさを味わうことになった。親会社から一方的に降りてくる様々な方針や指示に不平不満を抱くことはあっても、自力でいちからコーポレート・ガバナンス体制を構築しなくても済む、上場企業の完全子会社にはそんな一面がある。

 「コーポレート・ガバナンス」は投資家と相対する上場企業に関する議論や考察が中心であるが、子会社側にいる自分の関心は上場親会社にガバナンスの方針を委ねていてよいのかという点である。
 「企業集団」が昔ほど絶対的な存在ではなく、いまやグループ創業以来の中核企業ですら手離される時代である。支配・被支配の度合いが深ければ深いほどグループから離れた後の体制構築は困難が伴う。
投資ファンド傘下であれば、その「出口戦略」(この言葉はあまり好きではない)に従った体制構築であるし、投資ファンド経由または直接かを問わず別の企業の傘下に収まる場合はその企業が求めるガバナンス体制に姿を変えていかなければならない。場合によっては当該企業にとって二度手間、三度手間になる可能性もある。

 上場企業グループに身を置きながら、そのグループから離れることを想定したコーポレート・ガバナンスの準備を進める余力がある企業(とその経営企画や管理部門)がどれほどあるだろうか。
 もっともそんな子会社は親会社から見れば「面従腹背」の最たる存在だろうが、「企業集団」の中の親子会社関係が絶対的なものでない時代に、コーポレート・ガバナンスに強固に組み込み、組み込まれるのことが果たして求める姿なのか。「流動的な親子関係」であるならいつ離し離されても支障ない「子会社
」に仕立てるほうが現実的ではないだろうか。そんなことを考える。

 「君たちの会社は当連結グループから離れてもらいます」と20分ほどの説明で親子会社関係に終止符を打つ宣言をされることも、DDを含めて正味2ヶ月半程度で別の上場企業に買収されることもある。子会社はコーポレート・ガバナンスにどう向き合うのがよいのだろうか。


 


 

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2018年12月22日 17:25

 このエントリーは法務系 Advent Calender 2018 参加エントリーです。みねメタルさんからのバトンです。みねメタルさん、転職されていたのですね。

 この12月21日で法務担当歴13年目に入りました。自分が法務に異動した年に生まれた子が中学生になると考えると、自分は同じ年数でどれだけの経験や価値を身につけたのだろうかと呻くよりありません。
 呻いていても仕方ないので、この12年間の「会社の機関設計」を軸に久々に会社法ネタをひねり出してみました。

その1

 さて自分の勤務先がどのような機関設計をたどってきたか、整理すると次のようになります。
  1. 非公開・大会社・監査役設置・会計監査人設置
  2. 公開・大会社・監査役会設置・会計監査人設置
  3. 非公開・大会社以外・監査役会設置・会計監査人設置
  4. 非公開・大会社以外・監査役設置
 ちなみに自分は転職はしていません。同一企業でそのときどきの事情に引きずられ機関設計変更を繰り返してきた結果です。
 1.は当時所属していた企業グループ時代。分社により完全子会社化。大会社として切り出したのはのちの売却の布石だったのかもしれません。
 2.で「公開会社」とあるのに「完全子会社?」と思われる方もいるかもしれませんので説明すると、一時期投資ファンド傘下となったスキーム(LBO)により金融機関に自社株式を担保として提供する際に「譲渡制限を外す」という条件だったため、公開会社となっただけです。株式が流通したわけではありません。設計上は公開会社だが実質は非公開会社と変わりないという、はたからみてわかりにくい機関設計でしたね。(田中旦「会社法」コラム1−3参照)3.は投資ファンド傘下で持株会社を設立した際の機関設計で、IPOを念頭においたもの。4.は再び上場企業子会社になり、もはや大会社にしておく必要性もないと資本金の額を変更したもの。
 どのケースにおいても一人株主が100%株式保有であり、投資ファンド傘下時期を除けば上場親会社の完全子会社、江頭会社法でいうところの「従属会社」です。
 従属企業は今やコーポレートガバナンスの名の下、上場親会社によっては実質「社内の一部門」として管理されるケースもあります。親子会社で人事・会計システムが統合は進んでいますが、今後のテック系の普及次第で法務業務等もシステムとして親会社に統合されれば、従属会社の法人としての「独立性」が保てるものなのか疑問です。

 ところで会社法は「中小規模」「株式譲渡制限付き」の企業を基本形として規定しています(江頭会社法)。従属会社は機関設計上では「会社法の基本形」に該当する企業が多いと思いますが、「従属会社」でそこそこ機関法務の仕事を通じて思うのは現行会社法上での「身の置き所のなさ」でしょうか。
 「中小企業あるある」と様々な頭痛ネタが取りざたされるとはいえ、とりあえず自力で資金調達をし長年地元で商売をしている会社と、事業の存続含め全てを「親会社に委ねている(それゆえ例えば資金調達など有利な条件を享受できる)」会社とでは同じ機関設計だとしても会社の有り様が当然大きく異なります。(同じ従属会社でも親会社が上場か非上場かという点でも同じことがいえます。)
 上場企業の「従属会社」の場合には定款自治による機関設計の自由云々ということは実際には考えにくいし、上場親会社の完全な管理下にあるわけですから機関設計の選択肢をはじめ、独立企業と区分を同じくするのは無理筋なのではないかと思うときがあります。子会社に法人格をもたせないという点では既に「社内カンパニー制」がありますが、上場親会社が社内カンパニー制をとらないにも関わらず、子会社の「法人格」「独立性」が実質ないに等しい場合に、「従属会社」を現行会社法の機関区分に当てはめてよいものなのか、ここ数年こんな疑問が脳裏に浮かんでは消えということを繰り返しています。

 
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2018年10月08日 23:37

 使わない業務知識は忘れていくし、知らなくても済むことは知らぬままに…というのはまずい事態だと反省し久々のコーポレートネタを脳がつりそうになりながら。
 
 3年ほど前に非上場完全子会社こそコーポレートガバナンス・コードを知るべきと大口を叩いたものの現在地はどうかということで、「実践取締役会改革」(中央経済社)を読みながら考えたことを。 
 子会社の取締役会のあり方、は上場親会社の子会社管理方針によるところが大きいのはいうまでもないところです。上場企業の取締役会がコードに対応しつつあるのは法律系媒体で伝わってくるのですが、子会社の取締役会の運営についてはどうか、ほぼほぼ子会社人生なので気にはなるのですがなかなか外に伝わる話ではないようですね。

 親会社から「コード対応だから!」というような指示命令は流石にないでしょうけれども、子会社管理規則の改正、親会社主催の子会社会議の内容の見直し、リスク情報の即時共有化の試みの導入、子会社の取締役会に付議する報告事項が指定されるなどここ2年ほどの間に細かくランニングチェンジが繰り返さされていないでしょうか。子会社の経営情報を確実に吸い上げる仕組みを張り巡らせる一方で子会社の取締役会に付議、審議される事項は親会社・子会社それぞれの決裁手続きを満たすための場になっていないでしょうか。親会社の取締役会を活性化させる(時間をかける)ということはどこかでそのための時間を絞り出さなければなりません。それなりの数の子会社を抱え、それぞれに取締役を派遣している親会社からすると子会社の取締役会をいかに「効率的にこなすか」なんてことになっていないでしょうか。

 完全子会社といえども一つの独立企業。時間をかけて審議すべき事項はあるはずなのですが、短い時間の中で決裁を得るための場での「承認を得やすい書類作り」になってしまうことがあります。「承認をえた」書きぶりが伝承され、年数をへるうちに薄っぺらに…などということを避ける為に事務局は一応書類には目を通すのですが(以下自粛

 10年以上、取締役会事務局として会議室の片隅に陣取っているのですが、今後完全子会社の取締役会や取締役などの会社機関はどうなっていくのでしょうか、なかなか表立って語られない分野ではありますが企業グループの数だけパターンがあるのではないでしょうか。
 



 
 


 
 

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2018年07月07日 16:50

 えーと、拾い読みです。
 旧エントリの中でいまでもぼちぼちとアクセスのあるのが「子会社こそ理解が必要 コーポレートガバナンス・コード」「これからの完全子会社の取締役会」ですが 、今回もその流れかな。

 ビジネス法務2018年8月号。メイン特集は「これからのガバナンス改革」ですが、今回触れるのは特別企画「非上場企業 コーポレートガバナンスの勘所」。学習院法学部の小塚教授とTMIの淵邊弁護士、藤井弁護士の2本の寄稿。どちらもCGC=上場企業のもの、と片付けず非上場企業(ファミリー企業やベンチャー企業)にもCGCの要素を導入してみればという提言。ファミリー企業といえど事業承継のタイミングで外部資本を受け容れる可能性はあるだろうし、ベンチャー企業であればIPOや大手企業による買収の可能性があるので、将来に渡ってCGCと無関係のままというのはたしかに考えにくいですね。
 で、今回のエントリ。完全子会社についてですが、上場企業の完全子会社のガバナンスについて論じられることはまずありません。上場企業である親会社のガバナンスに含まれてしまうからなのですが、そんなに簡単なものなのかというのが、ガバナンスされる完全子会社の「中の人」としての感想。
 上場企業の完全子会社といっても経緯は様々。まず大きく分けると事業部門の分社などでぶら下げた直系子会社と買収子会社。買収子会社といっても、元々は独立していた事業会社(それこそファミリー企業やベンチャー)と別の企業の子会社だった企業などに分けることができるでしょう。いうまでもなく会社の体制やら経営者の感覚から全然違いますよね。

 買収子会社に対して親会社が「これからは我々のガバナンスに従ってください。我々は上場企業です、皆さんは上場企業の子会社なんです、わかりますね!」とコーポレートガバナンスと書かれた錦の御旗をふったところで、子会社の受け取り方は当然一様ではないでしょう。特にCGC導入前の大企業子会社の場合、社長や経営陣といえども株主や金融機関の視点など考えていませんからね。
子会社となった経緯や子会社の元々の文化風土のようなものをまったく考慮に入れないまま、「ガバナンス」を押し付けていくのはかえって子会社発のリスク可能性を増大させてしまうのでは?と思いますね。M&A時代の上場企業の子会社管理部門の苦労は絶えないと思いますが(お前がいうなと蹴り飛ばされそうですが)「同化政策(語句が適切かはわかりませんが)」のありようについてもっと情報があってもよい気がします。
もちろん子会社(の経営陣)がCGCについて理解することも必要なのですがね。

 第2特集の「品質不正への実効的対応」についてはエントリーを改めて。



  

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