企業再編あれこれ

2019年12月22日 18:00

 このエントリーは 裏法務系Advent Calendar 2019 のエントリーです。ワナビ(@vvanna8e)さんからバトンを受け取りました。勢いで裏にも登録してしまい、なんと申し上げたらよいのか。

  またこのタイトルかと思われた方もいるかもしれない。自分でもこのタイトルでエントリーを書くことはもうないだろう(ないことを祈っているという意味も含めて)と思っていたのだが、今月に入って報道紙面を飾った企業再編に少なからず因縁めいたものがあるので書き留めておくことにした。(事情をご存知の方は大目にみて欲しい)元々考えていた裏らしいはっちゃけた(?)ネタは別の機会にあげる。

 報道の賑やかしとは別に再編劇の対象会社の中の人となった方にとっては、これからが「再編」の道のりのスタートである。人事・労務・経理・法務といった部門に所属する担当者の方々にとっては、買主企業に一体化するまでの一定期間は苦労が絶えないことと思う。特に「上場廃止・完全子会社」「大企業グループからの離脱」が絡む場合はなおのことと思う。しかし自分の目から見れば事業会社に直接買われたのは幸いだと思う。

 とはいえそんなことは外野だからいえること。

 株式譲渡契約書に必ず設けられる「雇用・処遇の継続」条項はあくまでも時限的なものであり、売主側の対象会社に対するせめてもの配慮程度の意味合いである。だから「経営環境や事業環境に変化が生じた場合」という但し書きが必ずつく。小が大を呑むような再編、あるいは異業種による再編の場合は「処遇」の部分がネックとなる場合が多い。親会社よりも子会社の方の処遇が上のまま、という状況は考えにくい。また伝統的な企業にありがちな分厚い福利厚生制度も再編時の目玉のひとつになる。グループ離脱により利用できなくなる制度もあるが、「あって当たり前」だった環境が失われるという点では従業員やその家族の生活に影響を及ぼすこともある。

 人事労務総務面では事業所の統廃合の可能性が大きな問題となる可能性がある。
存続か閉鎖か。配転か解雇か。所在地の自治体への説明責任も生じる。例え従業員30人の事業所であっても、その家族を含めれば100人超の生活。取引先のことまで考えれば、数百人の生活に影響を及ぼす。その対応は対象会社自身がとることになる。全てを自ら決めたことでないとしても、である。

 会社の機関設計という問題。上場企業に求められる機関設計を完全子会社になっても継続するかという検証は必要だろう。完全子会社化により上場維持のための諸々のコストは不要になるはずである。買主企業の内部統制などの方針にもよるだろうが、対象会社の「役員」「管理部門」の見直しも避けられないものと思う。対象会社の管理部門においては自身の将来が不安定なものであることを承知しながら粛々と再編業務にあたるので精神的にはきつい場面が多いかもしれない。経営不振を理由に大企業の傘下に入った場合はなおさらである。

 買主企業は企業再編の効果を早期に出すことを投資家から求められるし、同時に生え抜きの自社の従業員からもその経営判断を問われる。「上がばかな買物をしたせいで」という不平・不満のことである。
 対象会社の事情をいつまでも優先することはできない。対象企業が名門企業や一流ブランド(といわれた)企業であってもだ。

 勤務先が企業再編の対象になり自身の置かれた立場が不安定なものになったとき。
 新たな環境に合うよう自身を形を変えて(身を削って、ということも多いかもしれない)生きるか、外に飛び出るかのいずれかしかない。(どう考えても買主企業の形を変えることはできない)が、買主会社にとっては問題にもならない。対象会社の従業員の退職はある程度織り込み済みであることが多いし、抜けた穴には親会社から人員をはめ込むだけのことである。むしろ企業統合にはその方が好都合と考えるかもしれない。
 ただ対象会社にとって残って欲しい人材から退職していくのが常であり、また平時には気づかなかったが、去られてみて初めて気づくその人物の価値ということがある。彼ら・彼女らの経験・知見は失われるままになってしまうのだ。

 かつて上記のような道を歩み今も苦しむ「人の不在」、それが表のエントリーを書いた動機といったら出来過ぎか。

 明日は、ちざたまごさんです。



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2017年04月08日 18:06

 某社の某分社化(某と書いたところであまり意味をなさないが)について、自分の経験と照らし合わせて。会社の正しい売られ方の焼き直しですが。

1.会社分割
 分社によって勤務先が部門ではなく「会社」になった当時は法務職ではなかったので保管されている書類から推察するだけですが、100%連結子会社になるだけなので分割協議書や分割契約書、分割確認書を見る限り特段の事項はありませんでした。
  • 分割資産・負債と分割基準
  • 業務基幹システムの運営費用負担
  • 研究開発や知的財産に関わる業務の取り扱い
といったところで業務が簡単ということではありませんが、のちの株式譲渡・非連結化の業務と比べれば
分社される側の業務負担はまだなんとかなる程度。「親会社」主導でしたし分社される側の「本社部門」も親会社からの出向組中心ということもありました。水面下で数年以内の売却という検討は進んでいたようですが、分社時点では「当該事業の経営判断の迅速化、効率化」などという「建前」がありました。
某社(しつこい)のように「子会社売却益」を親会社の救済に充てると公表されてしまうと、分社される側の心中いかばかりかと思います。

2.株式譲渡・非連結化
(1)分割会社の機関設計
 普通に連結子会社化する場合は株式譲渡制限をつけ非公開会社にしておくでしょう。
ただ子会社株式を自社・親会社の資金調達のために金融機関に担保として提供する場合、金融機関は株式譲渡制限を廃止を求めることが考えられます。定款変更により公開会社となる時点で、一旦役員は任期満了・再選任となりますし、監査役会設置会社にするなど必要な機関設計を変更せざるをえません。短期間で売却されるとしてもコーポレートガバナンス体制を整えるという負荷が「分社の本社部門」にかかります。

(2)非連結化
 株式譲渡・非連結化に向けての協議は、分社側には非常に重いものです。
 財務・購買・法務・人事・知財・ITシステム・庶務・健康保険・企業年金など業務基幹から従業員の生活にかかるものまで。今まで普通に「あったもの」が「無くなる」ということです。
別の事業会社傘下(吸収合併も含む)になるのと、短期間でも投資ファンド傘下企業になるのとでは「分社の本社部門」が検討する事項と範囲が変わります。切り離す側が実行することは明確ですが、切り離される方はそうそう簡単ではありません。

(3)分社の本社部門
 短期間で売却されるのがわかっているが売却スキームはまだ定かではないという状況で、分社の本社部門は何をすべきなのか。いやもっとそれ以前にどんな人材を充てるかということが問題になります。某社とは比較にならない規模の小さな企業だった自社でも時間・費用がかかりましたし、業務は知識も実行力も要求され、スタッフの精神に負担のかかるものでした。親会社が分社側に出す人材を出し惜しむ、または説得できずに流出させてしまうと売却スキームがうまく進められないかもしれません。一方でうまく進めたからといって報われるとは限らない業務です。

 いつ誰の身に起きてもおかしくないビジネス・企業環境ですので、メディアが騒ぐのに乗って面白がって語るものではないと思いますよ。
 

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2016年11月08日 05:57

 また売られるわけではありません。まあ、少し前に話題になったTBOに関して思ったことの断片。

 上場企業に入社したばかりの頃は、自社の株価が上がっていくことはマーケットが評価してくれたのだろうと単純に思っていました。幸せなものです。
 20年後、勤務先の株式譲渡が決定したとき、売却予定価額の高さに唖然とさせられました。その何年か前に吸収合併された上場同業者の価額をはるかに上回っており、何がどうしてこんな価額になったのだろう、その価額で買おうという買主は何を考えているのだろうかと。

 事業会社による買収は対象会社や事業をいずれ一体化するのですが、(長期ホールドが目的でない)投資ファンドによるものは概ね5年以内に「出口」がやってきます。取得時の株価が出口戦略の足かせになる可能性もはらんでいるわけで。
 投資家からすれば高い目標を掲げ対象会社の経営に携わり短期間で企業価値を高めてもらえればそれに越したことはありません。対象会社も短期間で急成長できれば良いのですが、さて。

 IPO準備の際に主幹事証券の公開業務担当者からいわれたのは
「あまりに冒険的な事業計画だけでは投資家は評価しませんよ。年次計画を確実に達成し徐々に右肩あがりの事業計画を策定することです。」
 出口に向かって下駄をはかせた事業計画は、見る人間が見ればすぐに「実態と乖離」とばれてしまいます。

 対象会社側も、自分が所属する事業領域の成長性や自社の立ち位置、実力値はわかっているものです。
根拠に乏しい買値を付けられると、その大株主に対する信用というか信頼というものは生まれない、何を仕掛けてくるのだろうと警戒心を抱くだけになります。

 売れればよいのか、高ければよいのか。
「そうとは限らない」ときっぱり回答できればよいのですがね。


  

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2016年10月27日 07:32

 不定期エントリーです。
 リアルタイムなネタを避けつつ。

 グループ会社のガバナンスについて。
 少し前に弁護士が深いところまで知見が持てないということに関して川井信之弁護士や山口利昭弁護士がブログで取り上げられていました。

 実際のところ、当事者である企業法務担当者も「これがグループガバナンスというものです。」と言い切れるものはないのです。自社グループのことしかわからないし、それも親会社側、子会社側のどちらにいるかによっても視点が違います。M&Aを繰り返してグループを形成していった企業と、事業分社という「血統書」付き子会社から成るグループのグループ・ガバナンスが同じ質であるわけがありません

 登記が終わるまでがM&A、グループ・ガバナンスは登記完了と同時に(その前からというのが現実的でしょうけれど)始まるのですが、そんなに容易いことではありません。

 例えば人事労務面。
 某勤務先も企業再編により会社は一つになったものの、当面複数の就業規則、賃金規程が並存ということがあります。組織はシャッフルされますから、出身企業の異なるメンバーで構成される部門も当然生まれます。では、その部門のマネージャーはメンバーそれぞれがどの就業規則・賃金規程に基づいては業務に就いているのか、果たして完全に把握し部門を運営できるかという課題が生まれます。これはけっこう悩ましいものです。しかし時間外労働管理ができなければ、最近話題になった案件のような問題がすぐに起こるかもしれません。
 いやそのために労務DDも実施しただろうといわれるかもしれませんが、そこから導かれるのは統合のロードマップまでで、完全に落ち着くまでは数年かけざるをえないでしょう。(これはあくまで自分の体験ですが。)

 グループ・ガバナンスというのは現場にある大小の差異を埋めていくのが先で、「上からどん!」と落としてなんとかなるというものではないのですよね。
 ここの部分になかなか弁護士がタッチする機会がないのかもしれませんね。

 子会社のつらさ、というのは統合過程からも生まれるのですよ。



  

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2016年05月21日 21:32

 えー、不定期エントリーです。

 子会社に対してどうガバナンスを効かせるかについて、または効かされるかについて気の向くまま。
 切り出した子会社と買収した子会社とでは当然異なりますけれどもね。 

1.取締役や監査役を派遣する
 これは考えるまでもありませんね。一人遣わすのか複数なのか、はたまた子会社取締役会の過半数か、親会社の思想が現れるところでもあると思います。ただ、大企業ともなると子会社の数も多く、その全部に常勤役員を派遣するほどの人材がいるとは限りません。非常勤役員とせざるをえず、月に1、2回の取締役会、経営会議等に出席できれば良いほうかと。いや、そうでない企業もあるかとは思いますが、ガバナンスという点では…どうなのでしょうね。監査役補助使用人の設置も云々されることもあるのですが、どのくらいの企業が補助使用人を置いているのでしょうか?あまり話題にならないのですが普通に置かれているものでしょうか。

2.ラインの責任者を送り込む(出向など)
 現場の責任者(事業部長や財務部長など)を送り込む、というのも考えられますね。非常勤役員よりもガバナンスが効くかもしれません。ただこの場合は人選が鍵でしょうね。親会社にエース級・準エース級を送り込む覚悟があるかということ。親会社で冷や飯を食っている人物ではガバナンスとは逆方向に向いてしまうことも考えられます。

3.物理的に一体化する
 手っ取り早くとにかく目の届くところに子会社の本店機能を置く、はやい話が親会社の本店に子会社を移転させてしまう。ある意味では理に叶っている気もします。電話やメール、TV会議などの手段があるとはいえ、子会社社長や役員をその場に呼びつけて直接指示命令、報告させるのに勝るものはありません。原始的とは思いますが。
 本店移転登記や許認可変更届などの手続き(と費用負担)、従業員の転勤、転居はたまた去就、取引先の離反など諸々課題はありますが、そんなものは織り込んでしまえばそれだけの話。
 もっとも同じ場所にいるようになれば、子会社の特に間接部門など親会社のその部門とがらがらぽんする可能性もあります。そういう狙いがあってもおかしくはありません。

 なぜこんなことを書いたかといえば買収されて4年、いろいろ思うことが増えたということで。本当に楽ではありませんねえ。



 

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