製品安全・消費者関連

2021年06月06日 18:00

 勤務先の事業まわりの法施行令がこの夏にも改正され、これに伴いある制度がほぼ終了することが明らかになった。施行から12年経過し、制度が定めた消費者・事業者の義務履行が始まり3年というところであった。
 公表されている法改正と制度終了の理由として公表されている点異論を挟む点はない。ただこの制度の準備段階の2007年頃、事業者団体の会務で所管との協議の場に居合わせた者としては、当時から抱いていた懸念が現実のものになったという感想しかない。懸念とは制度の普及である。
 誰が制度上義務を負う者(本件の場合、消費者)に責任をもって伝えるのか。そして、消費者の信頼を得られる制度設計だったのか、懸念はこの2点だった。特に前者は業界の複雑な商取引・商習慣と周知の役割を期待される、いや義務を負う事業者のそもそも所管が異なるという問題を抱えていた。
 この制度が目的どおり普及し定着すれば、事業者vs消費者という構図に変化をもたらす可能性はあったと自分は思う。法や制度の志や目的は間違いではなかった。周知・普及のためのオペレーション設計が十分ではなかったのだと思う。

 さて、このエントリーは行政がどうこうというつもりではない。似たようなことが周囲でも起こっていないかということである。
 業務監査で社内の各部門の現状をみていると、社内規程や業務マニュアル、業務通達の理解不足、そうであればまだよいのだが、実務担当者に「適時に」「正確に」伝達されていないケースを見つけることがある。規程やマニュアルはイントラにも掲載し、必要があればメール等で発信しているのになぜだろうか。
 「規程やルールはイントラに掲載しいつでも閲覧、確認できるようにしている」したがって、それを読まずルールに違反する当事者が悪い。それはそのとおりなのだが、それで済むものではない。現場の担当者の周知、理解が不足している場合、ルールを作り伝達する側に何の落ち度もなかったといい切ることができるだろうか。

 法務担当者は会社規則の制改廃や制度設計の業務に携わるケースが多いことと思う。
規則や制度は作って終わり、イントラやメールでの通り一遍のお知らせで済むものなのか。
一番理解してもらいたい人は誰か、それには誰から伝えるのが適切か、伝わったかどうか、誰が確認するのか。
 当たり前のようなことだが、果たして確実にできているだろうか。
 
 そんなことを考えた事例であった。 

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2020年09月12日 18:12

 1ヶ月以上サボりまくったブログ更新。

 過日、某工場の品質保証部門から外部寄稿の確認依頼。この秋、20年が経過する同業者やサプライヤーからなる協議会が取り組んでいる「自主製品回収」の経過記録作成の件だった。
20年、短いのか長いのか。

 実はこの件自分は無関係というわけではない。20年前の秋、自分はことの発端の場にいたのだ。当時は製品事業部の課長代理で業界団体の活動にも委員として参加していたのだが、その日、緊急招集がかかり、ある同業者の製品事故の「さわり」の説明と、同業者として共同謹告を実施するので各社に費用負担を要請する旨が一方的に説明された。その日から始まった諸々は、記憶が曖昧になっているところもあるが、自分が「渉外」という仕事に関心を持つきっかけであり、またこの件から7年後に法務担当者として「製品リコール」に関わる際に「下敷き」になったことは間違いない。
 1995年の製造物責任法施行前に製造販売した製品であり、当時事故発生の可能性を予見できたか否かを問わず、事故の性格や当時の世論など諸事情から製造事業者が「責任」を負い続けることがあるということを思い知った事例でもある。

 20年経過してもまだ「製品自主回収」が終わらないのか、と疑問を抱く方もいると思う。
製品事故は軽微な初期不良を除けば、発売から相当期間経過してから発生するケースが多く、この件でいえば20年前の「自主回収」時点で既に発売から10年以上経過(つまり1980年代に販売されていた製品)していた。販売当時の販売形態も相まって最終の納入先の捕捉が困難であったことが、「自主回収」活動が今もって「経過」であることの大きな理由である。
 改定製品リコールガイドラインで「自主回収」の理由である製品事故の再発がないことと当該製品の市場残存率が要件を満たせば所轄への報告義務が緩和されることとなったが、市場残存率が要件を満たすことを説明するには「統計」理論を用いる必要があり、活動終息に向けてのハードルが一向に下がらないのである。

 20年前の関係者の中には既に鬼籍に入られた方がいるし、一緒に騒動に巻き込まれた同業者の担当者も順に定年退職を迎えていき、自分も残りは数年である。
 はたして無事終わるのだろうか。

 ひとたび重大製品事故が発生したら、という一つの話である。
  

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2019年11月06日 07:30

 ほぼ半月ぶりのエントリーとなってしまった。といってネタのストックを貯めているわけではないので
今日は製造業関連の話題にさらりと触れてお茶を濁そうと思う。

 製造業の11月といえばまず「品質月間」(主催:日本科学技術連盟、日本規格協会、日本商工会議所)
勤務先も品質保証部門がポスターを購入して社内の製造拠点中心に啓発しているが、ここ最近は営業拠点にも掲示し、メッセージも社内イントラに掲載するようにしている。今年からどういうわけか品質保証部門が自分の管掌範囲になってしまったので、メッセージを慌てて作成して経営トップ名義で掲載した次第。
 主催団体が定めた今年の標語は「みんなでつくる つなぐ お客様の笑顔」と過去の標語と比べるとぐっとソフト寄りになった。
 勤務先の場合、取引形態はBtoB、しかし製品は消費者が直接手を触れ使用するものなので品質が企業の生命線といってもオーバーではない。品質に対して従業員の意識を高く保っておく必要がある。
 昨今の企業の品質問題は偽装や隠蔽することを是としてしまった企業経営が問題となったわけで、品質問題はモノづくりの現場だけが取り組めばよいということではなくなってしまった。消費者のもとに届くまでのすべての過程の「質」が問われることを考えれば、シンプルでソフトではあるが今年の標語は品質への取り組みの本質を示しているのではないだろうか。
 品質向上は技術開発や製造部門だけの課題ではありませんよ、販売部門においては商談や販促物の内容、施工部門も品質を問われますよね、今月は自分の仕事の品質について考える機会としてくださいと朝礼でも本社社員の前で話をしたのだが、ブーメランにならないようにしないといけないね。

 もうひとつは「製品安全総点検月間」(経済産業省)
 製品を安全に使用するための周知月間なのだが、11月は家庭で冷暖房機器の切り替えのはじめ半年ぶりに家電製品やガス・石油機器を引っ張り出して使用を始めるタイミングにあたる。機器の状態を確認したりコンセント回りの清掃を行い火災などの重大製品事故を発生させないように、ということである。またこの機に自宅に「リコール対象製品」がないかも確認してもらえると大変助かる企業が多いと思う。
ぜひお願いしたいところである。(業界団体の立場)



 

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2019年07月14日 14:57

 近年には珍しく「梅雨」らしい長雨ですね。

 経済産業省「リコールハンドブック2019」が公表されたのでメモ。
 今回版のトピックスは何といっても
  1. リコール実施進捗報告において、従来のリコール実施率(リコール実施台数/リコール対象数×100)に加えて、対象製品の「推定廃棄台数」を「リコール実施数」に加算、「補正実施率」を報告に併記することが可能になった点。
  2. リコール実施状況の自己評価、進捗報告終了について」として、「リコール開始からリコール要因による製品事故が発生していない期間が3年以上経過していること」に加えて、1.にある①「リコール実施率」または「補正実施率」が90%超 ②リコール実施事業者の努力にもかかわらずリコール実施率が頭打ち状態に達し2年間経過していること
 が明記されたことでしょう。

 「リコール実施率100%」の旗を振られる以上その命には従わなければならないのですが、実施後一定期間が過ぎ、実施率が90%を越えるとピタリと進捗が止まリます。残りの数%は販売後の年数経過からみて「すでに買い換えられた」「廃棄された」ものと考えるのが現実的なのですが、なかなかそうはいかなかったのがこれまでのところ。「廃棄された台数を把握してリコール対象数から除外できないか」という動きは、自分が関与したことがある業界団体やリコール実施のための協議会内から燻っていましたので、まさにようやくこの日が来たかという感があります。もちろん業界団体や自社で「市場残存率」の算出モデルをもっていなければなりませんが大きな転換であることに違いありません。
 
 とはいえリコール対象製品が「廃棄された」「使用されていない」というデータをどうはじいていくか、これについては製品トレーサビリティの課題になるのではないでしょうか。
 今回の改訂にあたっての審議は、事業者側メンバーはインターネットモール運営者、家電流通団体、燃焼機器メーカー団体と日頃からユーザー情報がとれる環境が整っている事業者・団体でした。数次の流通事業者を介して販売する業態はどのように「市場残存率」算出モデルを作っていくべきか、これはこれで頭が痛いことかもしれません。

https://www.meti.go.jp/product_safety/recall/recall_handbook2019_all.pdf




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2019年03月02日 18:46

 過日参画している事業者団体の会務の一環で、国交省所管団体のうち関連の深い事業者団体で構成している連絡協議会に出席しました。内容は講演二本立てだったのですが、ひとつが著名な消費者団体の常任顧問の方によるものでした。その講演の内容が印象的なものだったので、備忘録代わりに。

 テーマは「長期使用製品安全点検制度」。本ブログでも何回かネタにしている制度です。
この制度は消費生活用製品安全法を支える制度として2009年に定められたもの。今年から本制度に定めた製品安全点検がスタートするのですが、制度上「製品の点検義務」を負う消費者への認知・浸透が進んでいないため、製造事業者が点検する製品の数量が非常に限られている状況になっています。(本制度上、制度について消費者に対する説明義務を負っているのは流通などの「販売事業者」なのですが、制度の検討段階から我々事業者団体が危惧していたとおりだったといえばそれまで。)
 こういう制度をネタにする以上、事業者に対して厳しい内容の講演になるかと少し身構えていたのですが今回はトーンが違っていました。
 消費者法というとか弱く保護すべき消費者のため強者たる事業者に対して厳しい義務を追わせるという面があります。確かに消費者を喰い物にする悪徳業者はいますが、そのために真っ当な商売をしている事業者がとばっちり(さらに規制を受ける)を受けるという構図があるというのが正直なところ。しかし、時代が変わり「消費者像」も変わりつつあります。

 今回の講演で印象的だった点は二つ。
 一つは「もはや「私使う人、あなた作る人」の時代ではない。」というコメントが消費者団体側から出たこと。インターネットが進み誰でも起業家になれるし、CtoCビジネスも活用する、シェアリングエコノミーやリノベーションなどの「中古品に抵抗感がない」という世代が社会の中心になる時代に、自事業者・消費者とを対立する関係に「放置」していても、「消費者市民社会」には辿り着かないという点。
 二つめはインターネットによる「中抜き社会」では、消費者と事業者とをつなぐ新しい関係性の構築が必要という点。
 なぜ「長期使用製品安全点検制度」が消費者に浸透させることができなかったかという点に戻りますが、製造事業者と消費者との間に入る販売事業者(対消費者という点では住宅事業者や住宅販売事業者や地域の工務店等も含まれますが)がその役割を果たせなかったところがあります。個人的にはそもそも「ないものねだり」だったと考えています。制度を検討していた2007年から2008年ごろ、所管がどこまでネット社会の進展を想定していたかはわかりませんが、取引構造に忠実に「中」を入れてしまったのが響いているように思います。
 消費者は販売事業者からの情報提供の有無によらず、必要な情報はネットで自分で収集できる存在になりつつあります。製造事業者(特に製品取引の最後がtoCになる事業者)は、販売事業者に求める役割を本気で再考する時期を迎えていると思いますね。


  

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