企業法務マン迷走記2

 大船ならぬ「酔っぱらった船」に乗ったかのような企業法務担当者の日常

カテゴリ:企業法務 > 製品安全・消費者関連

 近年には珍しく「梅雨」らしい長雨ですね。

 経済産業省「リコールハンドブック2019」が公表されたのでメモ。
 今回版のトピックスは何といっても
  1. リコール実施進捗報告において、従来のリコール実施率(リコール実施台数/リコール対象数×100)に加えて、対象製品の「推定廃棄台数」を「リコール実施数」に加算、「補正実施率」を報告に併記することが可能になった点。
  2. リコール実施状況の自己評価、進捗報告終了について」として、「リコール開始からリコール要因による製品事故が発生していない期間が3年以上経過していること」に加えて、1.にある①「リコール実施率」または「補正実施率」が90%超 ②リコール実施事業者の努力にもかかわらずリコール実施率が頭打ち状態に達し2年間経過していること
 が明記されたことでしょう。

 「リコール実施率100%」の旗を振られる以上その命には従わなければならないのですが、実施後一定期間が過ぎ、実施率が90%を越えるとピタリと進捗が止まリます。残りの数%は販売後の年数経過からみて「すでに買い換えられた」「廃棄された」ものと考えるのが現実的なのですが、なかなかそうはいかなかったのがこれまでのところ。「廃棄された台数を把握してリコール対象数から除外できないか」という動きは、自分が関与したことがある業界団体やリコール実施のための協議会内から燻っていましたので、まさにようやくこの日が来たかという感があります。もちろん業界団体や自社で「市場残存率」の算出モデルをもっていなければなりませんが大きな転換であることに違いありません。
 
 とはいえリコール対象製品が「廃棄された」「使用されていない」というデータをどうはじいていくか、これについては製品トレーサビリティの課題になるのではないでしょうか。
 今回の改訂にあたっての審議は、事業者側メンバーはインターネットモール運営者、家電流通団体、燃焼機器メーカー団体と日頃からユーザー情報がとれる環境が整っている事業者・団体でした。数次の流通事業者を介して販売する業態はどのように「市場残存率」算出モデルを作っていくべきか、これはこれで頭が痛いことかもしれません。

https://www.meti.go.jp/product_safety/recall/recall_handbook2019_all.pdf


 過日参画している事業者団体の会務の一環で、国交省所管団体のうち関連の深い事業者団体で構成している連絡協議会に出席しました。内容は講演二本立てだったのですが、ひとつが著名な消費者団体の常任顧問の方によるものでした。その講演の内容が印象的なものだったので、備忘録代わりに。

 テーマは「長期使用製品安全点検制度」。本ブログでも何回かネタにしている制度です。
この制度は消費生活用製品安全法を支える制度として2009年に定められたもの。今年から本制度に定めた製品安全点検がスタートするのですが、制度上「製品の点検義務」を負う消費者への認知・浸透が進んでいないため、製造事業者が点検する製品の数量が非常に限られている状況になっています。(本制度上、制度について消費者に対する説明義務を負っているのは流通などの「販売事業者」なのですが、制度の検討段階から我々事業者団体が危惧していたとおりだったといえばそれまで。)
 こういう制度をネタにする以上、事業者に対して厳しい内容の講演になるかと少し身構えていたのですが今回はトーンが違っていました。
 消費者法というとか弱く保護すべき消費者のため強者たる事業者に対して厳しい義務を追わせるという面があります。確かに消費者を喰い物にする悪徳業者はいますが、そのために真っ当な商売をしている事業者がとばっちり(さらに規制を受ける)を受けるという構図があるというのが正直なところ。しかし、時代が変わり「消費者像」も変わりつつあります。

 今回の講演で印象的だった点は二つ。
 一つは「もはや「私使う人、あなた作る人」の時代ではない。」というコメントが消費者団体側から出たこと。インターネットが進み誰でも起業家になれるし、CtoCビジネスも活用する、シェアリングエコノミーやリノベーションなどの「中古品に抵抗感がない」という世代が社会の中心になる時代に、自事業者・消費者とを対立する関係に「放置」していても、「消費者市民社会」には辿り着かないという点。
 二つめはインターネットによる「中抜き社会」では、消費者と事業者とをつなぐ新しい関係性の構築が必要という点。
 なぜ「長期使用製品安全点検制度」が消費者に浸透させることができなかったかという点に戻りますが、製造事業者と消費者との間に入る販売事業者(対消費者という点では住宅事業者や住宅販売事業者や地域の工務店等も含まれますが)がその役割を果たせなかったところがあります。個人的にはそもそも「ないものねだり」だったと考えています。制度を検討していた2007年から2008年ごろ、所管がどこまでネット社会の進展を想定していたかはわかりませんが、取引構造に忠実に「中」を入れてしまったのが響いているように思います。
 消費者は販売事業者からの情報提供の有無によらず、必要な情報はネットで自分で収集できる存在になりつつあります。製造事業者(特に製品取引の最後がtoCになる事業者)は、販売事業者に求める役割を本気で再考する時期を迎えていると思いますね。


  

 寒い日が続きますが、日の入りの時刻が遅くなってきていますね。 

 積ん読解消、というよりも確認のため読む「逐条解説・製造物責任法」(商事法務)。
民法改正に伴って製造物責任法も改正になりますので逐条解説が出るのは当然として多少章の見出しに手が入ったぐらいで消費者庁ホームページの内容とほぼ同じ、関係資料も平成6年の同法成立までのもの…一冊にまとまっているのは助かるのですが(以下省略)。

 改正製造物責任法のうち、製造事業者に地味にインパクトがあるのは第5条まわりです。現行法では「期間の制限」とあるところ、改正法では「消滅時効」と明確に規定されました。
 現行法では「必ずしも全てが消滅時効とは解されていない」としていたのが、改正民法第724条の2に合わせた形。改正法第5条まわりの規定については、第2項で短期の消滅時効について生命・身体の侵害による損害賠償請求権について主観的起算点からの時効期間「5年間」を設けられました。また短期「3年」長期「10年」と期間の年数は現行法と変わらないのですが、「消滅時効」とされた以上時効の更新・完成猶予の規定が適用されることになります。
 これまで製造事業者は製品事故発生後製造物責任法に基づく損害賠償の請求を受けたとしても「製品発売後10年以上経過」を一つの目処にしていたところがあったのですが、改正法施行後はそうはいかないということですね。製品事故の被害者救済の可能性を拡げたという点は製造物責任法本来の趣旨に叶うものですが、製造事業者の品証部門、法務部門は製品事故や対応状況を整理し改正法施行日時点で現行法に基づき時効完成した事案、時効が完成しない事案を確認する必要がありますね。
 またほとんどの製造事業者は製造物責任保険に加入していると思いますが、保険契約の内容も改正法を反映させたものに改定されると思います。
 民法改正に伴い取引契約を巻きなおしという時期ですが、製造物責任条項も抜かりなくという確認でした。
 
  それにしても中途半端な企業規模でBtoCの製品を製造・販売するのが厳しい時代になるというのが正直な感想。

 

 ジュリスト2019年1月号#1527 の特集 記事「消費者契約法改正」でした。
 2016年に続き2018年も改正法案が成立していますが、事業者の立場にあるとこの法律に関する諸々はどうにもこうにも。

 冒頭の座談会記事。もうこのパートだけで十分読み応えがあります。読み応えはあるのですが、スッキリはしないというのが正直な感想です。
 老若問わず、巧みな手法に乗らされ金を巻き上げられる人が後を絶ちません。自分にも後期高齢者の親が日中一人で生活していますから決して他人事ではないのですが、はなから法律など守る気がない「事業者」のために、多くの真っ当な事業者がコストを負担しなければならないという状況がより深まっているという…こんなことをいってはよくないのでしょうけれども。
 
 座談会記事を読みながら改めて改正法のおさらいをしたのですが事業者サイドとしては、改正法の「不利益事実の不告知の要件の緩和」「事業者の努力義務」が地味に重いという感触。
 前者は消費者庁「消費者契約の一部を改正する法律(平成30年法律第54号)の主な内容」で、法第4条第2項関係でずばり不動産業者のマンション販売の事例が挙げられています。マンション販売の事例はともかく、自社の商品やサービスの販売活動の中で、「不利益事実の不告知」に該当するような実態があるか販促・販売部門との再確認が必要になりますね。
 もっと頭を悩ませてくれるのが後者。 まず法第3条第1項周辺。
 消費者契約の内容がその解釈について疑義が生じない明確なもので、かつ、消費者にとって平易なものになるよう配慮することに務めなければならない。
 とされましたが、消費者との契約で「定型約款」を用いる企業は留意すべきですね。
 次に法第3条第2項周辺。
 契約の締結について勧誘をするに際しては、消費者の理解を深めるために、契約の目的となるものの性質に応じ、個々の消費者の知識及び経験を考慮した上で、契約の内容についての必要な情報を提供することに務めなければならない。
 BtoBtoC事業者、商取引は事業者間だが最終需要家が消費者という製品を扱っている企業では、消費者が購入前に確認ができるよう、昔は購入して開梱するまで読むことができなかった「取扱説明書」や「製品保証」を既にWebサイトで公開しています。使い方、扱い方を確認してから購入してくださいねということなのですが、「個々の消費者の知識及び経験を考慮」とさらっと条文に入れられても一体どういう人が最終的に購入し使用するのか、企業側は事前に知りようがありません。「取扱説明書の読み方」「製品Aを購入する人のためのガイド」のようなものまで求められるようになりはしないか。
今回の改正では「努力義務にとどまった」という意見がありますが、進捗がよく見えない「消費者教育」「消費者啓発」が事業者側にツケ回しされているのではないか、そんなモヤモヤがいつも残るのですよね。


 

 たまには自分が棲息している業界ネタもインプットしなければと思っていたところ、ジュリストで「不動産法の最前線」が4月号(#1504)から連載開始。
 第1回目は「既存住宅におけるインスペクションの導入(宇仁美咲弁護士)」でした。

 10年以上前、隣家(正確には実家裏)が売りに出たので、家族中の金を集めて現況で購入しました。実家と同時期に販売された建売住宅でその時点で築25年を経過していましたが、住宅を買うというよりは地続きの土地を買うほうに重きを置いていました。したがって建物の傷みは承知のうえ。隣人がどのような住まい方をしていたかは知っていましたので覚悟はしていました。しかしいざ入手してみると予想以上の傷み方だったので、1年もしないうちに改修工事の手を入れました。

 住宅ストックの活用が叫ばれるものの、なかなか中古住宅の流通が進まないのは「中古住宅の品質がはっきりしない」「買ってからさらに費用がかかるのは困る」 ということが大きいでしょう。同じ「中古」でも自動車は整備記録が付いているのに、自動車よりはるかに高いにもかかわらず住宅はきちんとした記録がない、販売業者の説明も初めて家を買う消費者にとってはわかったようなわからないような。
 2009年から始まった「長期優良住宅」制度を適用した住宅は「住宅履歴情報」の保管が義務付けられていますが、現時点でそれらの住宅が中古市場に出回る時期とも思えません。

 改正宅建業法で「インスペクション」が導入(2018年4月1日施行)されることで、「インスペクション」という用語の定義、取引過程での位置付けが明確になることは、中古住宅流通にはプラスになると思いますし、プラスにしなければならないのだろうと思います。本文記事「Ⅲ 残された問題」で指摘された点のほかにもまだまだ課題は残ると思います。質の高いインスペクション業者の育成も必要ですし、業者が利益を上げられるようにしないと制度は維持できないでしょう。

 業者として、あるいは消費者としてリフォーム工事に関わった身からすると、解体してみないと本当のところはわからないというのも既存建物なのですよね。インスペクションは既存建物の品質の一部を証明する手段ではあっても、よくあるリフォーム工事紛争の特効薬にはなりきれないでしょう。
中古住宅流通の活性化ためのハードルを下げるのは容易ではないというのが実感。






 

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