企業法務マン迷走記2

 大船ならぬ「酔っぱらった船」に乗ったかのような企業法務担当者の日常

書籍など


来る!消費税Gメン2020 Business Law Journal 2019年3月号 

 BLJ3月号拾い読みです。例によって本特集ではなく実務解説から。
 地味に厳しい「消費税転嫁対策特別措置法への実務対応」大江橋法律事務所の石井崇弁護士の寄稿。

 前回の消費税増税からまもなく5年。人事異動などで前回増税対応に当たった担当者がいなくなっていたり、前回はまだ社会人ではありませんでした!という若い担当者もいると思います。長年企業勤めをしている身でも事業年度途中で増税月を迎えるというのは初めてのことなので、増税(決定はしていないけれども)まで1年を切った年明けに「アラーム」を鳴らしていただいたと思います。

 消費税特措法の概要についてここで触れることはしませんが、守られていなかった場合には下請法以上に形式的にバッサリと指導・勧告などが下されると認識していたほうがよい、といい遺した法務担当者がいました。
 本記事47ページの図表3、4で取り上げられている対応状況や措置件数をみると前回増税時に増強された「消費税Gメン」が活躍し一定の成果をあげたということがいえそうです。そうすると次回の増税時にも消費税Gメンが活躍→企業調査を実施するのはいうまでもなさそうですね。

 消費税Gメンがどのような調査を実施するのでしょう。このエントリーの読者にも調査を受けたことがある方もいるかもしれませんが、先ほどの企業法務担当者によると次の様子。
 1.中小企業庁から調査実施と協力依頼の通知が届く。依頼といっても指示命令と同じ。
 2.調査日程の調整と調査日までに揃えておく書類の指示がある。
   ⑴ 調査対象とする拠点・取引範囲とそれに関わる特定供給事業者の名簿
   ⑵ 特定供給事業者との基本契約書、契約単価とその根拠、価格取決めの協議記録
   ⑶ 会社概要、直近3年間の決算書、直近1年の消費税申告書
   ⑷ 増税6ヶ月前までに特定供給事業者に対して発信した通知文書、電子メールの類
   ⑷ 増税前6ヶ月間の取締役会等重要会議の議事録
   ⑸ 増税前後数ヶ月の総勘定元帳

 これらの資料でほぼ取引の内容・支払額をGメンが把握します。
⑷は何のためかというと消費税増税前に会社経営陣が社内に特措法の周知を然るべく対応を取るように指示しているか、あるいは特措法に反するような指示命令を出していないかの確認のためのようです。会議資料の中に法務主催の特措法勉強会の資料などがあるといいですね。
 通知から概ね1ヶ月以内にGメンが実査に来ます。実査の規模にもよりますが、会議室を数日間使用しての実査になるようです。付きっきりで対応する必要はないようですが、呼ばれたら会議室に飛んでいかなければならないところは会計監査人監査やDDのときと同じ、のようです。
 
 本文47ページ図表4にあるように、圧倒的な措置件数となっているのが「買いたたき」。
悪質な買いたたきだけでなく「うっかり」という事案も含まれ、何らかの諸事情があったとしても何のエビデンスもなく増税前と同価格での取引が続いていると「我々としては買いたたきとせざるを得ないのです。」とバツをつけられるとのこと。本文48ページ(1)買いたたき❷に書かれていますが、日頃から下請法や建設業法などに従い取引業者との価格取り決めに神経を遣うことに慣れている購買部門や工事・営繕部門は心配なく、案外人事総務部門で「うっかり違反」があるんだよね、と前述の法務担当者がぼやいていました。例に挙げたのが借上社宅や駐車場の契約相手が町の小規模以下不動産業者や個人の地主のケース。なるほどですね。相手も細かなことをいってきそうにありませんが、それで許されるわけではありませんしね。

 年度途中の増税ということで、取引価格について年間単位で契約している取引先、毎月定額支払いとしている委託先など多数ある会社は春先から準備に入ったほうが良さそうですね。
 Gメンが来てからでは遅いのです。

 




  

たかが2割されど2割  Business Law Journal 2019年1月号

 もう来年の1月号かよ、と嘆息。季節感のない人生。

 数年前、某法律雑誌に法務研修に関するコラムを書かせてもらったことがあるのですが、自分で書いた内容がそのままブーメランとなって背中に2、3本突き刺さっています。さらにその刃をズブズブと深く刺し込むようなBLJの特集記事です。

 「法務研修のWAHTとHOW」 。
 冒頭の三浦弁護士(渥美坂井法律事務所・外国法共同)の記事に尽きます。

 法務研修は法務担当者の「アピールの場」「成長の場」でもあることは否定しませんが、それが「目的」ではないわけで。受講者の「腹落ち」のない研修ほど講師・受講者双方に不幸な時間はありません。講師や教材の出来不出来、準備不足(ニーズ、ウォンツの把握不足を含む)によっては「時間泥棒」と謗られても仕方ありません。

 寄稿いただいている各企業の研修プランをみると法務研修に当てられている時間は長くて1日、概ね半日程度のようです。マネージャー研修や販売研修などが泊まり込みプランであるのと比べると「短い」ですね。研修事務局や社内講師を業務としていたこともあるのでいっておきますと、泊まり込みの研修で2日目の朝に前日の内容のおさらいをしてみると、受講者の記憶に残っているのは2割から3割がいいところなのですね。泊まり込み研修であれば2日目に復習ができるのですが、半日から1日の研修ではそれができません。あれも教えたい、これも理解させたいと講師は張り切ると思いますが覚えているのは「2割」なのです。「何を忘れずに持ち帰ってもらいたいか」と考えると、受講者の「腹落ち」が不可欠になります。
 研修カリキュラムの練りこみは当然、さらに受講者の業務上の諸々の情報もある程度必要になると思います。販売研修事務局の頃の話に戻りますが、ある教育コンサルのカリキュラムを導入した際に、同じカリキュラムなのに講師の違いにより受講者の「腹落ち度」に明らかに差が生じた例がありました。コンサルの中でも人気1、2位を競うような講師であっても、受講者の諸々の読み違いがあったのでしょう、結局講師を変えてもらったことがあります。
 我が身に置き換えあたら、本当に厳しい話ですよね。

 じゃあどうすればいいのだということになりますが、法務には法律相談や契約書レビューなどを通じて様々な事業の情報・エピソードが集まっているはずです。それらが受講者に「腹落ち」してもらえるネタ元になると思います。身に覚えがある、どこかで聞いた話というものがカリキュラムに織り込まれていれば、法務研修と聞いて斜に構えている受講者も居ずまいを正して研修に参画するでしょう。自分から参画した研修はきっと記憶に残り職場に持って帰ってもらえる(と、自分はそう期待しています)

 講師の話法、話術の巧拙に研修が左右されるのはいう点も忘れてはいけません。
 少し噛むぐらいはどうということもありませんが、決めのフレーズが「飛んで」しまっては元も子もありません。といって、タブレットやノートに目を落としたままというのもダメです。
マネージャー研修の講師の時は何回もロールプレイングを繰り返しましたし、たとえ1時間の研修であっても前夜ブツブツと一人で練習しています。たかが2割、されど2割。

 最近あまり研修をしていない身であれこれ書くのも気がひけます。背中のブーメランがさらに深く刺さる。

 実務解説「2018年の不祥事を振り返る」は別エントリーをあげます。


 

わかれ上手 ビジネス法務2018年12月号

 ビジ法12月号、です。
 メイン特集記事は脇に置いて、気になる連載、コラム記事から。

 BLJ12月号の特集が「契約期間」でしたが、こちらではもう少し先の段階、「契約解除時の実務ポイント」の記事連載が始まりました。

 契約の目的を果たし双方合意での契約終了ならよいのですが、何らかの事情で契約解除あるいは更新拒絶を検討という事態が発生するのがビジネスというもの。しかしいざ契約解除となると契約当事者部門も狼狽するのも事実。契約を交わすときに契約関係の終わらせ方まで思いを巡らせることができる当事者部門、担当者は少数というのが実感としてあります。
 契約解除を検討するときに、本当に目が点になるぐらい古い日付の取引基本契約書しかないというケースがあります。往々にして昔の契約は契約解除条項の規定が緩いため、取引先の信用不安を理由とする場合であっても、後日契約解除の無効を申し立てられないように「証拠固め」が必須になりますね。
 また長い年月に渡る継続取引の相手先と契約解除を検討する場合には、相手方の自社の取引依存度や自社取引のために投資をしていないか、自社取引が金融機関やリース会社等との契約の条件になっていないかなど。特に中小零細の取引先との契約解除はより慎重に準備を進めなければなりません。
 契約書の条項、文言修正だけなく事例や経験を通じて「契約の終わらせ方を考えておくこと」をビジネスの当事者にも理解してもらうようにできればいいのですが、やはり最初が肝心。
 必死に新規取引にこぎつけた担当者に「別れ方を考えるように」と真っ向からいうのが法務の仕事でもあります。

 契約解除というか「別れかた」という点では実務解説「子会社売却・再編の進め方と部門連携のあり方」も関連しますね。記事は自社の企業再編に法務部門がなかなか関与できない、ではどうしようかという視点からのものなので「契約解除」ではありませんが、最終的には「別れるための契約」を締結することになります。親子間企業でいるあいだは明確な契約関係を結んでいない事項が潜んでいますが、いざ別れるとなると顕在化することもあります。
 自分の経験では再編スキームがほぼ固まった後からでも売主側法務部門の出番は十分あると思います。繋がっていた「企業グループ」のロープを1本1本ナイフで切り離していくための契約書その他書面を用意していくのも大事な仕事です。切り離される側も必死に「別れ」の条件を絞り出してきますからね。法的に問題なくというのは当然ですが、丁寧かつ情はかけずに落としどころを設けるというのも法務の仕事。


ビジネスを終わらせることにより、誰かの恨みつらみを買うことがあるかもしれません。それは仕事なので仕方がありません。
恨みつらみは買っても訴訟にはさせない。そんな、わかれ上手な法務担当者になろうね。




 

法務マネージャーはつらくなる?

 ビジネス法務2018年11月号特集「世界で負けない!法務の国際水準を考える」と同じくBLJ11月号Topics「従来型法務マネージャーの危機」の2つの記事を読んでぼんやり考えたことを。

 前者はMETIの例の「国際的競争力強化に向けた日本企業の法務機能の(略)」報告書をお題に、報告書に関わった当事者も含む執筆者から成る特集記事で、法務部門の「あるべき姿」「ありたい姿」を揃えたもの。しかしそのような姿を明確にしていけば当然現実との「ギャップ」も明らかになります。自分は所属している組織と報告書の内容とがかけ離れているのであくまで「企業法務に関するいち意見」として読みました。これが法務担当者の「理想を追い求める」一面とすれば、後者は現実に法務部門の実務を預かるマネージャーの肉声。あるがままの姿だと思いました。
 
 従来型マネージャーの危機、というのは古くて新しい課題で法務マネージャーに限った話ではありません。自分が当時所属した企業グループで、「従来型マネジメントからの脱却」という名目でマネジメント研修カリキュラムの作成と講師に携わったのはもう15、6年も前のことになります。組織のフラット化、プロジェクトマネジメントの増加を背景に上意下達式のマネジメントからの脱却というのがテーマで、異なるバックグラウンド、キャリアを持つメンバーをいかにマネジメントして組織の成果を最大化するにはどうするかというような内容でした。
 今30代後半以降の法務マネージャーが置かれている状況を一般化するのは難しいと思いますが共通項となるのは人材マネジメントではないでしょうか。かつての「学部卒採用、長年鍛えて一人前の企業法務担当者に育て上げる」といったマネジメントで済んだのが、今後は有資格者または法科大学院出身者、(法)学部卒といった多様な人材それぞれに合わせたマネジメントが必要となるでしょう。30代半ばから40代前半までに法律専門業務の向上とは別の能力を身につけるというのは容易なことではないと思います。(「フルフラットな組織」でマネージャーという存在が固定されていなくても、事案ごとのリーダーかあるいは事務局、世話役という役割だとしても同様でしょう)
 前述の研修講師をしていたときに、部下・メンバーの育成について良し悪しはともかく熱を持っていたのは事業系、販売系のマネージャー(候補含む)で、管理部門や研究部門など専門職の方の熱の低さが気になりました。この雑文をお読みの法務マネージャー候補者の方はいかがでしょうか。

  部外者から法務に異動した身としては、最近の話題には色々思うことはあるのですが今日はとりあえずここまで。
 

 


 

経営幹部にも読ませよう 「中小企業買収の法務」

 資本や企業の形が数回変わったとはいえ、業歴そのものが半世紀を超えるとパートナーシップというにはオーバーだが共存共栄を図ってきた業務委託先企業の数もそれなりになります。そのなかにはパートナー関係を築く過程で持分法適用会社になった企業、全く資本関係を持たずにきた企業もあります。半世紀という時の流れとは酷なもので、着実に業容を拡大し、あろうことかこちらに対して株を手放せといってくるような会社がある一方、何とか息をしているだけでカネもヒト(後継者)も調達する力が残っていないという会社も現れてきます。

 投資、融資すべきか、それに伴い人(役員)も派遣するか?いや出せるのか?出していいよな?法務担当者君、なんか知恵出せ!
 
 こんな「さあ、どうしよう」という状況になったときの道標となるべく、年末法務カレンダー企画や阿佐ヶ谷LT企画でもおなじみの柴田堅太郎弁護士が「中小企業の買収法務」を出版されました。文字通り「道標」となる書籍だと思います。かつての買収対象会社の法務担当者がいうのだから間違いありません。

 現在の勤務先でいうと前半の「事業承継M&A」が関わりがありそうなのですが、以前持分法適用外会社の株主総会議案をみて立ちくらみがしたことを思い出したくらい「中小企業あるある」事例が載っています。
 オーナー系というか伝統的な中小企業は本当に呆れるぐらい税理士のいうことが全てで、弁護士どころか司法書士ともあまり付き合いがない会社が多く、あったとしても税理士を介してのもの。その税理士がちゃんと導いてくれていればよいのですがそうでないこともあります。不完全な状態が累々と重なった末に「事業承継先を探す羽目に」というのはそんなに珍しい話ではないと思います。(詳しくは書けないのですが実感としてあります)

 冒頭書きましたように事業環境の変化から外出ししていた子会社や、持分法適用、業務委託先、フランチャイズ化していた中小企業等を買収、買収までいかなくても出資して傘下に収めるといったことを検討する機会があるかもしれません。法務担当者は当然ですが、プレゼンだけなら格好いい経営企画部門にも、中小企業買収の実態を理解してもらうためにも読ませたい1冊です。

 ベンチャー投資なぞ夢のまた夢なので前半に絞ったエントリーとしました。悪しからず。


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