企業法務マン迷走記2

 大船ならぬ「酔っぱらった船」に乗ったかのような企業法務担当者の日常

カテゴリ:企業法務 > 書籍など

 珍しく実務と関連の深い書籍の話題を。

 「住宅会社のための建築工事請負約款モデル条項の解説」(匠総合法律事務所編著 日本加除出版)
 建築・住宅業界から一定の評価を得、また影響力もあると思う法律事務所による民法改正に伴う「建築工事請負契約約款」に関する書籍。過日東京木場の木材会館で開催された本著の出版記念セミナーは満席状態だった。
 下請・納品業者の立場でこの手の書籍を購入したりセミナーに参加する理由はいうまでもなく取引の相手方が今後置かれる環境と、下請に対して講じてくるであろう「措置」を測るためである。元請である住宅会社との契約は元請が用意する契約書式を丸呑みせざるを得ない、下請の工事や納品にかかる「瑕疵」が原因のトラブルが生じた場合には元請が発注者との間の契約条項を横滑りさせてくる、元請との間に数段階の流通業者を介した取引であろうとトラブル発生の際に流通業者が「契約当事者」の役割を果たさない等、業界特有の諸々は21世紀になろうが元号が変わろうと依然横たわっている。元請(住宅会社)と関わりの深い法律事務所はどのような「モデル条項」を提案しているのか。

 下請業者の目でチェックしたのは、まず次の2点。
  1. 「瑕疵」から「契約内容不適合」
  2. 「保証期間の定め」
 前者はいうまでもないだろうと思われそうだが、建築工事においては契約内容とは契約書だけではなく、仕様書、特記仕様書や設計図面、施工図、施工詳細図、定例会議議事録などの全てが契約内容になる。また建材、設備機器に関してはカタログやサンプル確認、ショールーム等での仕様決定の場面も「契約内容」としてエビデンスを確実に交わして残すことが後々のトラブル回避につながるだろう。
 後者は、現状では「根拠があるようなないような保証期間」について、消費者契約法第10条とからめての解説。契約約款の保証期間の規定については、品確法の対象範囲以外は1年ないし2年、故意過失がある場合に5年なり10年という期間の規定が多いが、これが最近適格消費者団体の「狙い目」になっているとの警告。ひとたび訴訟提起されれば期日の内容が団体のウェブサイトにアップされることから、住宅会社はレピュテーション悪化を回避するため早々に約款改定で手を打つという状況にあるらしい。改正民法で短期時効がなくなるので保証期間の定めは要注意だろう。製品保証書における保証期間を1年ないし2年としている建材や設備機器メーカーも同様である。設計耐用基準など理論付をしっかりと準備する必要があるだろう。

 さすが建築紛争の実態を踏まえていると納得した条項は
  1. 発注者の協力義務
  2. 発注者のメンテナンス不全
 前者は発注者が仕様を期限まで決めないことで工事遅延が多々生じる実態を踏まえてのこと。後者は、保証書や取扱説明書などで発注者に求められる適切なメンテナンスを怠ったことが原因で「契約不適合」状態が生じた場合は、発注者に修補や損害賠償請求権は認められないというもの。実際、何の手入れもせずにクレームだけは起こすという居住者が多いのであらかじめクギをさす条項。

 本書籍で提案された「モデル条項」が実際に使われるかわかるのはもう少し先のことになるが、前述したように建築・住宅会社だけでなく下請関連事業者も入手・熟読しておくべき1冊と思う。



 
  

 台風が来るといわれていたけれども、はやくも熱帯低気圧になったとか。晴れた途端に近所の雑木林ではアブラゼミとミンミンゼミが焦ったように鳴いています。

 走り読み、BLJ9月号。何か書き留めておかないと関連書籍や資料を読むことが後回しになってしまいそうで、この時期恒例の特集記事「2019年通常国会改正法の影響度」から自分の業務に関連深いところから。
 「意匠法改正」は建築物の外観および内装が保護対象なった点。ようやくなったかという感がありますね。他所がやってうまくいったこと、ウケたことを自社にすぐ取り入れるのも商売のなんちゃら、というようなことが多かれ少なかれあると思いますが、真似されるほうにとってはたまったものではありませんよね。
 商業施設のデザインについては「プロダクトデザイン保護法」(冨宅恵著 日本加除出版 2015年)第4章「空間デザイン」で取り上げられていましたが「意匠法による空間デザインの保護には限界があるというほかない」とされていました。
 今回の改正で店舗の空間・内装デザインについて「企業ブランド」としてコストをかけても法で十分に保護されないという状況から転換していくでしょう。詳細は審査基準の内容が定まってからになりますが一斉に意匠登録する事業者がでてくるような気がしますし、「デザイン」後発企業にとっては権利侵害回避にコストをかけざるを得なくなります。後ろ向きな事案にコストをかけるよりは「デザイン」にはじめからちゃんと投資しようということを促すことになるのでしょうか。

 「人事の目リスク管理の目」
 今回は「労働組合」。
 企業再編や過去の経緯を引きずり労働組合については懸案事項があるものの立場上表立ってどうこうできないので個人的には好記事でした。事情についてはここでは書けないけれども、働き方をはじめ企業と従業員との関係がひと昔前とは大きく変わっていくなか労働組合の役割も変わっていくと思います。労務部門にも読ませたい記事ですね。

 労働法のパワハラ防止対策法制化についてはビジネス法務で特集記事を組んでいるので、そちらと合わせてエントリーを書こうかと思います。

 ではでは。



 最近攻めている感のあるビジ法。拾い読み、というのもあれなので今回は巻頭の特別企画「法務の到達点と展望を大観する平成から令和へのメッセージ」の読後感。

 元号についての議論はあるものの、ある一定期間の歳月を括って論じるには便利なものです。ちょうどひと世代にあたる30年というのも区切りがいいですよね。

 自分が法務に異動したのは平成18年の年末なので、それ以前の企業をめぐる事件について法務の視点でどうこういうことはできないけれども「すべては地続きなのだ」と改めて思います。
 社内研修で「CSR(というもの色あせた感がありますが)」「コンプライアンス」を説明する際は平成前半の90年代から00年代に何が起こったのかということを抜きには説明できません。平成は企業が事故不祥事を隠しきれなくなった時代ですね。
 会社法絡みでいうと、それまではなんとなくサラリーマン双六の上がりのような「取締役」「監査役」就任が、各条文を読むともはや役員が「上がり」の役職ではないということがわかるようになったのが大きいですね。本当はその前からだって経営責任は負っていたはずなのだけど、「終身雇用・年功序列のご褒美に与っただけのような役員」っていましたからね。役員研修後に「知っていたら就任しなかった」とぼやかれたこともあります。業歴の長い企業ですら取締役、執行役が現役バリバリの世代に代わっていく事例をみますが、法がそこになんらかの役割を果たしているように思います。
 
 寄稿記事にはありませんでしたが製造業勤務だと「製造物責任法」と「消費生活用製品安全法」のインパクトは大きかったと思います。行政側が「消費者保護」に軸足を移したわけですが、決して消費者を軽視していたわけではないものの製品の設計思想からカタログ、パンフレットの表示やセールストークに至るまで見直すことになりました。個人的には平成19年(2007年)改正消安法施行時の製品リコールが実質的な企業法務デビューのようなものだったので忘れようがないというのもありますが。

 うるさがれようが古いといわれようが次の世代に申し送りしなければならないことはあります。若干総花的な印象はありますが、タイムリーな企画だと思います。
 やや「昭和的」な企画タイトル、何年か前中央経済社にお邪魔したときの応接室の風景を思い出しました。
 他の記事については別エントリーで。

  

 2000年代初頭、次期マネージャー対象の社内研修講師をしていた頃の話。カリキュラムの導入は当時人気があった「プロジェクトX」を教材に(当然許諾は得ての話)したグループディスカッション。「プロジェクトが成功した要因は何か」という設問に対して、題材となった企業のせいもあってか、どの研修回でも必ず「企業風土、社風がよかったから」という回答が上がったものです。
 企業不祥事があとを絶たない今、「不祥事が発生した、防止できなかった要因は何か」と問えば「企業風土、社風が悪いから」という回答が返ってくるのでしょうか。
 研修では「企業風土や社風は誰がどのように作っているとお考えですか」 とフィードバックしたものです。

 おや?と思って手にとった「『企業文化』の監査プログラム」(稲垣浩二著 同文舘出版 2018年)。
 著者はトーマツのパートナーです。おや?と思った理由は、会計、会計監査系の書籍のタイトルで「企業文化」の文言が含まれているのをあまり見かけたことがなかったからです。自分が知らないだけかもしれません、他にもたくさん出版されているよ!ということでしたらご容赦)。想定読者は若手会計士と思われます。不正会計や不正ではないけれども誤った会計処理に対する指摘、助言だけでは問題は解決しない、もっと具体的に企業にアイデアを提供することが必要で、その対象の一つが「企業文化」である、というのが本書の建てつけと理解しました。

 企業経営の生々しい実情に通じているのは法務側よりもむしろ会計側というのが実感としてあります。だからこそ企業法務担当者も財務・経理部門と立ち話ができる程度の会計知識は必要だと思っているのですが、会計側からも「企業文化」にアプローチしてくるなら、不正抑止、不祥事防止に関しては部門間の距離を縮めて取り組むことができるかもしれません。

 とはいえ企業文化というものは複雑怪奇です。自分の勤務先のように資本の出し手が2回変わったにもかかわらず本書でいうような伝統的な日本企業の慣習が抜けきったとはいえないのが実情です。
 内部監査でもって何をどう確認し、経営者サイドにどのような是正提案をしていくか。けっこうな課題を抱えたものだと改めて思うのでした。





 

 いきなりの夏日で戸惑います。キッチンの片隅にはまだ小型ガスストーブが置かれたままというのに。

 ビジ法7月号拾い読みです。
 メイン特集は「下請法実務の総点検」。
年によって時期ずれはありますが、6月から7月になると中小企業庁から下請法の書面調査に封筒が届きます。1年が過ぎるのが早いと感じる出来事のひとつですが、絶好のタイミングの記事ですね。
 月初の社内会議で取締役、執行役員対象に消費税増税転嫁特別措置法について「買い叩くな、買い叩かれるな」「下請法に優先して適用される」と注意事項を説明したばかりです。
 下請法については工場製造部門は過去に当局にかなりご指導をいただいたことがあるので、かなり注意はしていますがどこまでやれば完璧ということはない課題です。「うっかりしてました」「原価低減目標達成のために」などといった話が常に付きまといますからね。
 
 特集は7つの記事から構成されていますが、個人的には「下請法のボーダーラインと実務対応」(池田毅、川﨑由理弁護士)、「社内監査の方法と実施のための体制整備」(村田恭介弁護士)がツボでした。
 前者の記事ではⅢの2「金型保管の費用負担」「買い叩き」が気になるポイントです。後半で言及されている「生産数量が徐々に減少する」「補修部品生産」のケースでしょうか。補修部品生産については民法改正に伴い製造物責任法の時効が消滅時効になるので、保管してもらっている金型でしか作れない部品がある場合、どうするか悩ましい問題になるかもしれません。
買い叩きについて自動車産業の事案に触れていますが、自分のいる業界でも自動車産業を親会社にもつ企業があり、その企業では半期か四半期ごとに価格協議がありました。下請側から「原価低減提案」をださせてという手法でした。そういう企業でしたので、勤務先が減資を行う際に真っ先に資本金3億円を下回ったら困るといってきた話が記憶に残っています。
 後者の記事。社内監査とタイトルにあったので読みました。社内研修が実質的に監査の役割を果たしているのではないか、監査担当部署は法務部門が適切との意見については半信半疑な気分です。
 年1回の当局の書面調査時以外に自主的に監査を実施する機会は少ないのは確かです。内部監査部門を管掌する立場になりましたので研修の有効性は認めるにしても、第3条書面や第5条書面、価格協議議事録の作成保管状況、発注システムに登録されている単価が正しいか、といった監査と両輪で回す必要があると考えます。研修にしろ監査にしろ担当者のスキルが十分かというのが前提にはなりますし、そこがまた悩みどころでもありますが。
 村田弁護士の記事でのもう一つのポイントは購買部門以外での下請法違反。購買部門にばかり注意が言っていましたが総務部門や設計部門、販促部門の担当者に下請法の知識が乏しいがため、すんでのところで、というケースがありました。追加の課題です。

 企業法務の方々が注目しているであろう「企業法務のグランドデザイン」についてはこのエントリではスルーします。脊髄反射的にコメントできる連載ではないので。

 ではでは。缶ギネス1本空けながらのエントリでした。
 






 
 

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