企業法務マン迷走記2

 大船ならぬ「酔っぱらった船」に乗ったかのような企業法務担当者の日常

リスク管理


ハンコをめぐるさまざま事情を考える

 法務業務に関するクラウドサービスのニュースが多い昨今、アナログ世代の方々いかがお過ごしでしょうか。

 よろず管理業務が押し付けられている任されているのですが、そのなかに「公印管理」という業務があります。印鑑登録をしている代表者印の保管と押印作業です。一日のなかでこの業務が一定の割合を占めます。漢委奴国王印の頃から始まったのかわかりませんが、判子文化というのはこの国の必要以上に頑強に根付いているのを毎日痛感しています。
 そんな文化なんてあれだよね、ということでデジタル契約書とサインがじわじわと普及しているかのようですが、 自社の公印押印請求来歴をみると意外と契約書の占める割合は少なくて(ビジネスが不活発ということではないのですが説明は省略)、官公庁や関連団体、金融機関、年金関係、リース車両の車庫証明などの各種届出、申請書、提出書類の方が圧倒的に多いのですよね。ハンコだけでなく、印鑑証明書や登記簿謄本の添付まで求められる例もあります。証明書は無償で発行してくれるわけではありませんから、ハンコを押す時間あたりの労務費と証明書取得費用を考えると一体ハンコに関わる業務コストはいくらなのでしょう。

 ところで。
 
 押印業務といっても日々一定の時間に限り己をスタンプマシーンだと割り切ってハンコを機械的に押していればよいかというとそれで済むわけではありません。
 押印申請部門で必要な決裁(取締役会などの決議機関の承認も含め)を経ているか、印紙の有無、税額に過不足はないか、しれっと未知の契約書が紛れ込んでいないか等ハンコを押す前の確認業務の方に時間がかかります。
 これは法務系に先立ちシステム化が進んでいる経理系の出納システムにも同じことがいえるかもしれません。出納業務そのものはデジタル、しかしその根拠となる稟議決裁はアナログ。稟議決裁過程をどうにかするのが先ですよね。
新興のIT企業にお勤めの方には信じられないかもしれませんけれども、社歴の長い、要するに古い企業はこういう状況があるのです。稟議決裁のプロセスのIT化となると内部統制にも関わる話ですからね。

 内部統制ともなると自社だけでなく、親会社や子会社の管理体制は避けられません。

 どれだけの割合があるかはわかりませんが、子会社管理の一環で親会社が子会社の代表者印、金融機関届出印を預かり、押印業務も親会社が行うというケースがあります。子会社としての独立性はどうよという問題ですが親会社にもそれなりの事情、理由があってのことなのでしょう。
 この場合も単なる親会社による公印保管、押印業務代行ということでは済まず、親会社の管理部門による「手続き、根拠の確認」があります。親会社の経営陣の稟議決裁を経ることを必要とする事項が規定されている可能性が高いですから、このような管理体制のまま子会社において稟議決裁過程からハンコ(サイン)までシステム化を進めると、子会社が親会社のシステムにアクセスして承認を求め、親会社が子会社のデジタルサインをすることになりますが、それってどうなのだろう。

 まあ、こんなことをつらつらと考えた出張明けの日曜日でした。
 

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無形資産の毀損か枯渇か

 10月18日付日経朝刊に「ESG投資」(環境・社会・統治といった見えない価値への評価)が取り上げられていました。それで、管理会計の世界で取り上げられている「インタンジブルズ」を思い出しました。着目している点は似ていると思った次第。(走り読みの記憶ですのであくまで印象です)

 直近で報道を賑わしている自動車メーカー、鉄鋼メーカーの件ですが、報道先行でまだその行為の全貌がはっきりしていません。品質管理制度そのものがそれに携わる従業員の資質(人的資本というのでしょうか、インタンジブルズでは企業が支配できないものとしています)に依存していたことが今回の事案の原因の一つであるならば、日本の製造業に共通の「資産」として内外の評価を得ていたものを自ら毀損させてきたということになるのでしょうか。あるいはそこにベテラン社員の引退や新人の採用難で人員確保や確保後の訓練も不十分といった事情が絡むとするなら、資産の「枯渇」というところでしょうか。ただし鉄鋼メーカーの方は数十年も前から本来の意味とは異なる「トクサイ」を続けてきたとの報道ですのでそれが事実であれば、そもそも「資産」がなかったということなのかもしれません。

 もともと書こうとしていたエントリを変更、メモとして。


 

補足 BLJ2017年10月号 

 例によって間隔が空きました。じわじわと遠距離通勤の疲れがボディブローのように。

 BLJ10月号のメイン特集は「誹謗中傷・炎上への対応実務」でした。勤務先が所属する親会社グループも誹謗中傷・炎上にはかなり神経質になっているので、子会社含めてリスク管理体制を敷くようになりました。
 何をやろうとしまいと悪意のある誹謗中傷はあるものだしネット上にばら撒かれるのも防ぎきれない、ならばいかに短時間で収束させるかというところに注力するというもの一つの考え方。

 外部からの攻撃に対しては一枚岩になれるけれども、身内によるものはなかなか、というのが実感。
 経営不振を理由に投資ファンドに売却された当時は、自社のスレッドが立ち盛んに書き込みがされていました。誰が書き込んでいるのやら、まことしやかにいろいろな情報やら上層部批判を気取った雑文まで。書き込みに対してこちらに「なんとかならないのか」と怒鳴り込んでくる幹部社員もいましたが、「便所の落書き」ぐらいの余地は残して置いた方が良いとか、同業者のスレッドもよく立っていた時期でしたので、「それらを読んであなたは全部事実だと思うか?」と過剰反応することは悪意ある者の思う壺だとよく切り返したものです。すごい嫌な顔をされましたが。
 リスク管理の面から書き込みの全てが虚言ではない、500のうち1は事実も混ざっているだろうと参考情報の一つにしています。イニシャルトークならばともかく当て字とはいえ従業員が特定できるような書き込みが飛び交うようになれば職場で何かが起きているわけですからね。

 そんなわけでBLJ特集記事では「削除請求を受ける側の視点」は参考になりました。
削除請求ということでは「サイト別ネット中傷・炎上対応マニュアル」を参考にするケースがたまにあるのですが、削除請求件数はちょっとやそっとではないでしょうから、請求受付側にすんなり削除と判断してもらうようにするにはというのは興味のあるポイントでした。

 それにしても誹謗中傷・炎上の根本原因を取り除かない限り同じことの繰り返しです。削除できれば良い、記者会見をして謝罪すればよいというものではないので、法務やリスク管理担当者の仕事には区切りがなかなかつきませんなあ。





2日めのコンプライアンス教育 2017年版

 少し前の話になりますが、備忘録として。

 今年も新入社員集合研修の2日に設定されていたコンプライアンス教育。
 昼食後の時間帯の2時間、睡魔に襲われる時間帯の座学。毎年のことながら眠らせないように、話し合わせたり指名して答えさせたりと講師のカリキュラムの構成力と話術が問われます。
 今年は、入社したばかりの新入社員に「会社って誰のものだと思う?」という、やや意地の悪い質問からスタートさせました。

 今年の新入社員はバブル崩壊を引きずる時期に生まれた子たちです。山一證券や拓銀、日債銀が破綻した頃の生まれ、リーマンショックのときですら小学校高学年か中学1年生なわけです。
不正会計を例に話そうにも「カネボウ」という企業グループがあったことすら記憶にない、「海の家」事件といってもなんのことやら。日頃接している企業法務畑の人たちならば若くても、企業の事件は学生時代に何らかの形で学んできていると思いますがそうでない人の方が多いということを改めて感じます。
何をネタにすれば関心を持ってもらえるか、年々難しくなるというのが実感。 
それでもベネッセからお詫びの手紙をもらったことがあるとか何らかの引っ掛かりがありましたので、無理くり話を繋げていきましたが。

 人の記憶、特に研修内容などは翌日には前日聞いた話の8割は忘れてしまうもの。残り2割、何を記憶に残るようにするかというところから講義台本を考えてはいるのですが、こちらの思うようになっているかはたして?


 

ローパー問題についてあれこれ 

 特集に惹かれて読んでみた「季刊労働法2016冬号」。その特集は「低成果労働者の人事処遇をめぐる諸問題」。

 「これはパワハラだと思います。指導の枠を超えていると思います。」といった内容の相談メールに基づき裏取りやら聞き取りを進め、パワハラと名指しされたマネージャーやその上席と会うやいなや「泣きたいのはこっちの方ですよ。どうすればいいのやら。」とこちらも深刻な表情。「みてくださいよ」とメールの送り主の仕事の内容ぶりを書証と一緒に渡される。幾度となく繰り返される返品伝票、アポ破り、顧客からの苦情のメール。確かにひどい。これは自分が彼のマネージャーであっても一喝するだろうなとため息をつきます。
 実は年々こういうケースが増えているのですね。業務の習熟が遅いといえばよいのか、他の社員と比べてもどうもあれだという社員が起こす問題。
 特集の冒頭「低成果労働者の雇用のめぐる法的対応(九州大:野田進名誉教授)」によるとローパフォーマーの事を「ローパー」と労務周りの人は呼んでいるそうですが(知りませんでした)、愛嬌のある音の響きとは裏腹にローパーの存在が職場環境を蝕んでいく可能性が高く、このエントリーのタグもあえてリスク管理としました。(実際に危機的なケースをみたことがありますからね)

 特集記事は労契法16条との関係、最近の判例動向(金融やIT業界の例が中心)などで構成されていますが、現場のマネージャーと共有したいと思ったのは「低成果労働者に対する人事実務の対応(杉原知佳弁護士)」。もし問題のある社員が自部門にいた場合にどのように対応すればよいのか、わかりやすく整理されていると思います。とにかくマネージャーが一人で悩んだり、あるいは怒鳴りつけるなどして自分の立場を悪くしないように、事態の打開に向けてひとつひとつプロセスを重ねてもらうのが一番なのですが、そこに人事なり法務といった管理部門によるフォローアップも欠かせませんね。
こじれてしまった後の労働審判や裁判の可能性を考えると、法務はもっと労務に近づくべきなのだろうと思いつつ、最近の自分の仕事ぶりは大丈夫だろうかとふと漠然とした不安にもかられる夜。


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