リスク管理

2021年05月16日 17:42

 なんとなく怠惰な時間が続くので、エントリ1本書くのも時間がかかる。



  ビジ法6月号、特集記事「リーガルリスクマネジメント実践の教科書」。
ジュリスト200年10月号#1550「国際規格 ISO31022誕生と経営法務の展望」と同じ執筆陣3名プラス3名からなる特集。肝心のISO31022を読まないまま(結構高額なので購入を躊躇している)コメントをするのも気が引けるのだが、特集記事のみ読んだ感想を残しておく。

 内部統制業務にも携わっている法務担当者が、リーガルリスクマネジメント(LRM)をどのように捉えるだろうか、というのがまず抱いた感想。そして内部統制に一切関わっていない法務担当者はどう捉えるだろうか、という点。
 本誌は法律雑誌であり本特集記事も企業法務担当者を対象にした内容であるし、限られた誌面という事情はあるにせよ、ISO31022の親規格であるISO31000とISO31000が適用を視野に入れているとするCOSO ERM2017に関する記事を冒頭に置くべきではなかったか。直近のリスクマネジメントの俯瞰図があったほうがLRMの存在意義がより理解が進むのではないか。「リーガルリスクマトリクス」といった「飛びつきやすい」ツールが紹介されているだけに余計にそう思う。

今さらきけない内部統制とERM
神林比洋雄
同文舘出版
2021-01-27



 その「リーガルリスクマトリクス」について。リスク評価というプロセスは内部監査にもあるのだが、こちらも「リスクヒートマップ」(リスクの影響度×発生可能性)と「スコア」を用いたリスク測定方法が「内部監査人のためのリスク評価ガイド」で紹介されている。法務部門と内部監査部門とでは企業内で立ち位置が違うが、リスクマネジメント実施の際にはどちらの部門も「社内のステークホルダー」とコミュケーションを図ることの重要性が上げられている。仮に法務部門がリーガルリスクマトリクスを、内部監査部門が「リスクヒートマップ」をそれぞれ提出すれば経営者に何をいわれるかは想定しておいた方がよいかもしれない。(もっとも勤務先でいえば当然どちらも端緒にすらついていない)
 リスクマネジメントに際しては、社内ステークホルダーとのコミュケーション有用・不可欠なものとされている。法務部門と内部監査部門の接点を増やすことになるだろう。

内部監査人のためのリスク評価ガイド(第2版)
訳者:堺咲子
一般社団法人日本内部監査協会
2020T


 昨年暮の#legal ACでも書いたが、自分は法務部門はビジネスの真っ只中の部門と考えている。リスクのマトリクスやマップを作成するのが法務の仕事ではない。特定・分析・評価したリスクの低減にいかに携わるかが問われるし、事業目的達成のために取るべきリスク(「機会」といった方が相応しいか)を逃さないための役割が求められるものと思う。それこそ今企業法務担当者自身が望んでいる姿ではないか。
事業目的達成のマイナス要因(リスク)をどう評価し対応するかは内部監査、プラス要因(機会)に対する自社の隘路事項への対応は法務、このような役割分担が前提でのLRMというほうがが自分は理解しやすい。

 本特集の中で一番共感したのは、矢野敏樹氏の稿である。
リスク(機会)マネジメントに際して、自社の目標・目的や自社の事業をめぐる内外の環境を十分に理解しないままリスクの特定も何もあったものではない。
 法務担当者は下手をすればオフィスに居続けたままでも仕事はできてしまう。最近は企業枠を超えた法務担当者の交流機会が増えているようだが、やはり「法務職」の枠内にとどまる。矢野稿Ⅱ−2(2)に書かれたアプローチは機会があれば挑戦する価値はあると思う。
 測量をせずに地図は書けないのである。



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2020年11月29日 23:28

 またしてもエントリーの間隔が空いてしまった。

 今回は読後の雑感といおうか。

 「新版 架空循環取引の法務・会計・税務の実務対応」(霞晴久・中西和幸・米澤勝 箸 清文社)
 なぜこの書籍を?という向きもあろうかと思うが、法務なり監査の業務に従事していれば、何回かは規模の大小はともかく会計がらみの不祥事処理に出くわすことがある。従業員個人レベルの横領から、販売先・取引先が絡んでの架空売上計上まで。あって欲しくないしあってはならないのだが、企業が生身の人間の集合体である以上、いつかは誰かが引き起こす可能性のリスクである。そのなかで実態の把握が難しい、把握まで時間がかかるものが「架空循環取引」だろう。
 本書では第1編「架空循環取引の理論的考察」での循環取引のメカニズムの説明や会計上の考察から始まり、第4編「企業内における不正の防止・早期発見のために」で社内環境の整備やリスク対応の提案で締め括られる。中盤の第2編「循環取引後発覚後の対応と法律上の論点」第3編「循環取引の会計と税務」は上場企業を念頭に置いた内容中心だが、証券市場への対応を除けばどの企業の会計・税務・法務部門にも共通するものと思う。

 取引業者と営業や購買の担当者が結託してキックバックといった事案は比較的尻尾を掴みやすいしメカニズムは単純である。しかし、架空循環取引は会社の業務システムを熟知し、環に引き入れる会社の買掛の支払条件、売掛の回収条件などを組み合わせながらスキームを作っていく。ちょっとした金額の着服にみられる「出来心」レベルの事案とは比較にならない労度をかけている。
そして日頃細かく(しかし形式的な部分が多い)チェックを入れてくる管理部門の「レベル」を見極めて実行する。概ね違反や不正行為には「お試し」期間があり、そこで指摘も注意もなければ本格稼働に移るのだが、人員が手薄で諸々多忙な管理部門にとってのフラグは長期の停滞在庫や停滞売掛金が発生であり、「架空」故にそれらが発生しない循環取引を早い段階で発見するのは簡単ではないとは思う。そうであれば、なおさら不正取引を早期に掴む仕組み(そしてそれは防止にも繋がる)を構築していく必要がある。

 しかし現場でのその難しさ、を考える。
 例えば同じ買掛や売掛管理のデータを見ていても異常値や変化点に気づくことができるか。そこまではっきりしていなくても「何か気になる」と感じる人間とそうでない人間がいる。教育や訓練でその差を埋めることができるかもしれないし、できないかもしれない。
 人で無理なら仕組み(システム)か?それでも何が異常であればエラーとするか、最初からシステムが勝手に判断できるわけではない。生真面目な管理部門担当者中心に構築したシステムの生真面目ゆえの脆弱性、ということがないわけではない。
 自分が不正当事者だったら何を考え何をする、という視点(というか心理か)を突き詰めていくことがまず必要なのかもしれない。
 
 いつにも増して取り散らかってしまった。





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2020年07月05日 18:20

 7月。今年も折り返し地点を過ぎた。依然として先の見通せない環境だが、それでも日々の仕事は回していかなければならない。

 階層別研修のうち(比較的)若手中間管理職対象のものを実施するということで、法務コンプラの時間を割当てられた。何を希望されているかといえと、ハラスメントと個人情報保護という雑駁なもの。時間が限られているので、中間管理職が踏みそうなリスクという点でハラスメントに絞ろうと考えてはいるもの、というのが今回のエントリ。

 いわゆるパワハラ防止法施行されたことの周知やパワハラの定義と通りいっぺんのことを説明するだけで済むのなら悩まないのだが、実際に「パワハラ」という名目で内部通報や相談を受け付けている側からいうとそう簡単ではない。ましてコロナ禍の対応でようやく在宅勤務の定着化に着手した状況である。「目の前で業務の状況を確認できない」ストレスを抱える中間管理職が今後増えていくだろう。
 メールやWeb会議で定期的に業務連絡を交わすにしても、①相対して話すのと同じレベルを保てるのか ②そもそも相対で話していても、うまくコミュニケーションを築けていない場合はどうなるのか、という懸念もある。気に入らない、ウマの合わない上司や同僚、部下メンバーと顔を合わせる機会が減るからトラブルも減るとは到底思えない。
 感情的な発言をなくし、「ちょっとこれもやっておいて」という曖昧な業務もなくし、理路整然とした「業務」の指示命令を出しその成果に対してフィードバックをしていれば、「業務上必要かつ相当な範囲」に収まる、と中間管理職に注意しておけばよいものだろうか。

 「業務上必要かつ相当な範囲」とはどのようなものか。
「働く人のための感情資本論」(山田陽子 青土社)の第5章「パワーハラスメントの社会学」ではパワハラが「業務」(一見、被害者に利益が生じるようにみえる仕組み)の名のもとに正当化される可能性が挙げられている。考え抜かれたはずの企業の業務ルールや制度も出先の職場での使い勝手によってはその目的から外れていくことがある。職場やその管理職の問題ではなくルールや制度の設計(本社部門)の問題、ということにもなるかもしれないが、では出先の管理職に責任はないということにもできないだろう

 そして「感情の管理」
 自身の感情をうまくコントロールができないが故に、ハラスメントの加害者側に自らを立たせてしまう事例もいくつか目にしている。個人の感情に法務やコンプラ、内部監査の担当者が無造作に踏み込むことはすべきではないと思う。目を赤くした当事者の「じゃあ、どうすればいいのですか」という問いに適当に答えることはできない。
 全く感情を排した指示命令や指導、そして相談報告というものが果たして「部下・メンバー」の人材育成につながるのか、中間管理職にとってもその先があるのか。

 時代が変わりつつあるなか、階層別研修での法務コンプラ研修もその姿を変えざるを得ないということを噛みしめている。

 

 

 

 
 


 

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2020年05月28日 07:00

 
 結局在宅勤務を1日も経験しないまま解除された首都圏の緊急事態宣言。
人気のない早朝の電車での通勤には奇妙な心地良さがあったのだが、通勤客も戻りつつあるのでそれも終わり。だが手探りで「日常」を取り戻そうとしている印象である。 

 各業種、業界団体による「新型コロナ感染対策ガイドライン」が出揃った。
役目上、自社が所属する業種、関連する業種のガイドラインを一通りチェックする。予想はしていたが概ね横並びであるし、緊急事態宣言前後から取り組んでいた対策の継続を「念押し」する印象である。
感染状況が終息したわけではないし、予防ワクチンも開発途中、治療薬も確たるものはないのだから、今年1月以前の「社会のカタチ」に戻すことはできない。
もう身の回りにウイルスがあることを当然のこととして、感染しない、感染しても拡大させないようにするよりないのである。
 
 ガイドラインに厳しい拘束力はない。しかし、年明けからの半年弱、サプライチェーンの断絶、従業員の感染による事業所の操業停止、営業活動の制限など企業の対応は苦しい選択を迫られるものばかりであったはず。得意先も調達先も似たような状況だったので「不可抗力免責」を主張して交渉という場面にはでくわしてはいない(あくまで自分の業務では、だが)
 しかしガイドラインが揃ったからには、いずれ到来するとされている第2波、第3波が来たときに、今回と同じような「調達トラブル」「従業員の感染」などのリスク発生に関して「不可抗力免責」を主張しようとしても受け容れられるかといえばかなりの確率で難しくなると思う。

 ガイドラインにまとめられている項目は、この半年弱の間走りながら企業が取り組んできたことが大半である。「もう普通にやっていますよ」という企業も多いかもしれない。
ただ普通のことを普通にやり続けることの難しさは法務やコンプラ関係の業務に携わっている人はわかると思うが、解禁で取り組みの「中弛み」が生じやすい今、ガイドラインの存在とその意味合いを社内に周知していかなければならないだろう。



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2020年04月12日 13:51

 在宅勤務に入っている方も多いと思うが、どうやって平日と休日とを切り替えているのだろうか。経験がないので見当がつかない。出勤者を7割削減せよ、という要請だが、勤務先の販売現場では既にそのような状況にしてあるのだが、商売の上流が仕事を止めない限りこれ以上の対応は難しい。

 さて、BLJ2020年5月号。特集は定時株主総会を控えた時期ということもあって「グループガバナンスの強化先・合理化策」である。本号の編集時期は3月10日前後と思われるので、「平時」が前提の記事であるのは仕方ない。
 コロナウィルス禍により自社の株主総会だけでなくグループ子会社の株主総会関係の事務を大きく変更せざるを得ないなか、この機会に合理化 できるものは実行するという流れは自然のことと思う。
子会社には機関法務の専任者がいない場合が多いだろうから、期が変わり次第粛々と事務作業を進めればよい。実際勤務先も現在の資本傘下に入って以来、定時・臨時を問わず株主総会は開催省略だし(ただし書類作成や司法書士との協議も自社=自分がやっているので手間が完全に省けたわけではない)、総論としては賛成ではある。
 
 子会社の代表取締役の選定を株主総会決議事項にすることや機関設計をシンプルにするのはあくまでガバナンスのひとつの手段に過ぎない。子会社の機関をシンプルにする一方で、親会社の経営管理や菅財部門の子会社管理業務の負荷が重くなっては本末転倒だし、また細かく管理をすることで子会社の意思決定や事業活動のスピードを減速させてしまっても意味がない。バランスの取れた管理業務フローの運営が問われると思う。

 コロナウィルス禍に関連して、子会社側で考えなければならないこと。
今後業界を問わず相当の期間厳しい事業環境に置かれることは疑いようがない。ことの次第によっては、自分の所属する子会社が事業再編、組織再編の対象になるかもしれない。
 本特集記事にあるような子会社機関業務の合理化・省力化に慣れてしまうと「本社機能」が脆弱な会社になってしまうおそれがある。親会社によるガバナンスはそれとして自力のガバナンス構築は念頭に入れておいた方がいいかもしれない。面従腹背ということではない。リスクに備えた「シャドー」といえばよいのだろうか。煽る意図はないが「君たちには連結から外れてもらいます」といわれてからでは遅い、というのもこれまた事実なのである。
 

 

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