企業法務マン迷走記2

 大船ならぬ「酔っぱらった船」に乗ったかのような企業法務担当者の日常

リスク管理


2日めのコンプライアンス教育 2017年版

 少し前の話になりますが、備忘録として。

 今年も新入社員集合研修の2日に設定されていたコンプライアンス教育。
 昼食後の時間帯の2時間、睡魔に襲われる時間帯の座学。毎年のことながら眠らせないように、話し合わせたり指名して答えさせたりと講師のカリキュラムの構成力と話術が問われます。
 今年は、入社したばかりの新入社員に「会社って誰のものだと思う?」という、やや意地の悪い質問からスタートさせました。

 今年の新入社員はバブル崩壊を引きずる時期に生まれた子たちです。山一證券や拓銀、日債銀が破綻した頃の生まれ、リーマンショックのときですら小学校高学年か中学1年生なわけです。
不正会計を例に話そうにも「カネボウ」という企業グループがあったことすら記憶にない、「海の家」事件といってもなんのことやら。日頃接している企業法務畑の人たちならば若くても、企業の事件は学生時代に何らかの形で学んできていると思いますがそうでない人の方が多いということを改めて感じます。
何をネタにすれば関心を持ってもらえるか、年々難しくなるというのが実感。 
それでもベネッセからお詫びの手紙をもらったことがあるとか何らかの引っ掛かりがありましたので、無理くり話を繋げていきましたが。

 人の記憶、特に研修内容などは翌日には前日聞いた話の8割は忘れてしまうもの。残り2割、何を記憶に残るようにするかというところから講義台本を考えてはいるのですが、こちらの思うようになっているかはたして?


 

ローパー問題についてあれこれ 

 特集に惹かれて読んでみた「季刊労働法2016冬号」。その特集は「低成果労働者の人事処遇をめぐる諸問題」。

 「これはパワハラだと思います。指導の枠を超えていると思います。」といった内容の相談メールに基づき裏取りやら聞き取りを進め、パワハラと名指しされたマネージャーやその上席と会うやいなや「泣きたいのはこっちの方ですよ。どうすればいいのやら。」とこちらも深刻な表情。「みてくださいよ」とメールの送り主の仕事の内容ぶりを書証と一緒に渡される。幾度となく繰り返される返品伝票、アポ破り、顧客からの苦情のメール。確かにひどい。これは自分が彼のマネージャーであっても一喝するだろうなとため息をつきます。
 実は年々こういうケースが増えているのですね。業務の習熟が遅いといえばよいのか、他の社員と比べてもどうもあれだという社員が起こす問題。
 特集の冒頭「低成果労働者の雇用のめぐる法的対応(九州大:野田進名誉教授)」によるとローパフォーマーの事を「ローパー」と労務周りの人は呼んでいるそうですが(知りませんでした)、愛嬌のある音の響きとは裏腹にローパーの存在が職場環境を蝕んでいく可能性が高く、このエントリーのタグもあえてリスク管理としました。(実際に危機的なケースをみたことがありますからね)

 特集記事は労契法16条との関係、最近の判例動向(金融やIT業界の例が中心)などで構成されていますが、現場のマネージャーと共有したいと思ったのは「低成果労働者に対する人事実務の対応(杉原知佳弁護士)」。もし問題のある社員が自部門にいた場合にどのように対応すればよいのか、わかりやすく整理されていると思います。とにかくマネージャーが一人で悩んだり、あるいは怒鳴りつけるなどして自分の立場を悪くしないように、事態の打開に向けてひとつひとつプロセスを重ねてもらうのが一番なのですが、そこに人事なり法務といった管理部門によるフォローアップも欠かせませんね。
こじれてしまった後の労働審判や裁判の可能性を考えると、法務はもっと労務に近づくべきなのだろうと思いつつ、最近の自分の仕事ぶりは大丈夫だろうかとふと漠然とした不安にもかられる夜。


ジュリスト#1501 自動運転と民事責任 から

 ようやく今年最初のエントリー。

 久々にジュリストの特集から。

 勤務先では営業担当者一人につき1台、公用車を使用させていますので、毎日数百台の公用車が日本中を走り回っています。 そんなわけで交通事故リスクはつきもの。毎月ぶつけました、ぶつけられました、自損しましたという報告を何件か受けます。幸い重大な人身事故というものはないものの、頭の痛い問題であることには変わりません。
 公用車が全て「自動運転」に切り替われば、従業員による自動車事故はゼロになるのか、運行管理責任、使用者責任といったものを考えなくても良くなるのか、そのあたりが気になるところなのですが。

 自動運転というほどでなくても、すでに自動車の大部分はソフトウェア化」しています。吸排気・燃焼系はソフトウェアにより制御されていますので、走り屋系が手を出す「チューンナップ」はまずソフトウェアの書き換えなのですよね。ソフトウェア化と同時にブラックボックス化も進んでいて、ほとんどの自動車はボンネットを開けてもユーザーが自ら整備、点検できる箇所は非常に限られています。オイルチェックすらユーザー自らできないようになっている某高級車もあると聞いたことがあります。

 運転も公道での運行も全てソフトウェア・ネットワーク化した自動車に委ねるときいたときにまず思ったのは「機械は壊れるものだし、ソフトウェアはバグが付きもの」。事故発生の際の責任問題はどうなるのだろうと。今回のジュリストの特集は一括りに報道されイメージづけされそうな「自動運転技術」について主に「民事責任」の視点からの論稿で、公用車を数百台抱える企業のリスク担当者にとっても、いち個人ドライバーとしても非常に面白いものでした。 

 自動運転技術が普及し企業の公用車全てを新型の自動車に変えた場合には、現在発生しているようなドライバーのうっかりミスによる自動車事故はおそらく激減すると思います。仮に事故があったとしても、ソフトウェアやネットワークに起因するものであればドライバー(従業員)や企業の使用者責任も問われることもなくなるでしょう。道交法上の「運行管理責任者」の役割も変わるかもしれません。
ただあくまでソフトウェアやネットワークのバグ、というものを自動車メーカー、ソフトウェア、運行システム側が認めるという前提です。業務システムのトラブルでもこの点についてはなかなか決着がつかないことがありますから、そうそう簡単な話ではないだろうという気もします。
 バグ発生を受けて自動車メーカーやソフトウェアメーカーが修正ブログラムを配信したとしても、ユーザーが確実にアップデートしなかったことが原因で発生した事故の場合はどうなのか。公用車であれば使用している企業の責任になるのか。公用車がリースの場合は自動車リース会社の責任になるのか、懸念事項をあげればきりがなさそうです。
人が自動車を使用する、運転するということについて、自動車産業関係者(ユーザー含む)に従来以上の手間と負荷がかかるかもしれませんね。

 それと、運転技術・免許の点。
自動運転や自動運行が普及したとしても、不測の事態は起こるもの。不測の事態に対応する場合を考えると、人の運転技術についてはより高度なものが求められるのではないでしょうかね。AT限定免許のように「自動運転限定」免許とはできないと思います。

 10数年前か、自動運転・運行システムが確立した近未来社会で、運行システムのトラブルやシステム破壊という犯罪に対して、主人公たちが1970年代のスーパー7、ロータス・ヨーロッパ、ランチア・ストラトスといったハンドリング命のクルマを走らせて解決に当たるというアニメがありました。なんか現実味を帯びてきましたね。

 2気筒、MT車をバタバタ走らせながら思ったことをつらつらと。

 遅くなりましたが本年もよろしくお付き合いくださいますようお願いいたします。



着地点  #legalAC

  連休前日の夕刻、オフィスの小会議室。人事部長が処分通知を読み上げている。
ほどなく「彼」が退室してきた。こわばり、蒼ざめた表情。
彼はどのような最後の弁明をするだろうか。数ヶ月に渡った調査の日々を思い出してみる。
 ー 連休明け、オフィスに届いたのは、「彼」の代理人からの通知書だった。

 従業員の数が1,000人を超えると残念ながら一定の割合で不祥事が発生してしまいます。当事者に対する処分については事案の性格、内容、会社に与えた損害の規模などを就業規則の規定に当てはめ検討するのですが、懲戒解雇処分まで検討しなければならないケースはかなり時間と神経を費やします。非は当事者にあるといっても人生を左右させてしまうほどの処分です。慎重に検討しなければなりませんが、かかわる法務担当者の肉体的・精神的な負荷も決して軽くはありません。
まず、なぜ軽くないのかということについて。(自戒も含めて)

1.バイアスとの戦い
 その企業での勤務期間が長ければ、よく知っている従業員が「処分対象者」として目の前に現れることがあるかもしれません。法務担当者といえど生身の人間。「彼に限ってそんなことをするはずはない。」「彼はいつかこういうことをやるかもしれないと思っていた。」「裏切られた。許せない。」といった感情が瞬間的に渦巻いたとしても誰が責められようか、とは思います。しかしあくまで「瞬間的」でなければなりません。裏付け調査を進めるときに法務担当者が特別な感情をもつことは調査を誤った方向に導きかねません。どんなに親しかった従業員といえど処分対象者として現れた以上、もはや自分の知らない人間として接する「思い切り」が必要でしょう。

2.勘違いとの戦い
 法務・コンプラ担当者は正義の味方でも裁判官でもなんでもありません。稀に勘違いしているような人がいますが、まずは処分検討調査のための事実の積み重ねに徹することです。調査の過程で経営陣から進捗を訊かれたり、法務担当者の意見を求められることがあっても判明した事実の報告に止めるまででしょう。もっとも弁護士を入れた裏付け調査は処分に関する仮説を立てたうえで行うものでしょうけれど、決裁者を含む経営陣に事前に余計な「情報」を持たせないことです。繰り返しますが、法務・コンプラ担当者は勘違いしてはならないのです。

3.社内政治、圧力との戦い
 調査が進展し、当初の処分対象者の他に新たな人物が登場すると別の戦いが生じる場合があります。「Aの処分は仕方ないが、Bには影響が及ばないように」「CもAとあわせて厳しい処分が下せるようにならないか」などなど。善管注意義務違反など役員の進退にかかわるような事実が出てくると、ますます生ぐさくなります。経営陣の面々の思惑や本音を曖昧な笑顔でかわしながら調査の収束を急ぎます。

 さてタイトル、着地点について。

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ヘルプライン

 ヘルプラインか、それとも相互監視になってしまうのだろうかという話。

 過日、取引先(といっても、現在どの部門でどれほどの取引があるのか不明)から、代表者宛に1通の案内が届きました。いつものように「見ておいて」と封も切らずに渡されたのですが(ノールックパスと呼んでいます)、その中身がその取引先の「企業グループ取引先企業倫理ヘルプライン制度の設置」でした。

 不動産・建設業界は非常に裾野の広い業界で、取引先と一口にいっても大企業から個人(一人親方)まで数えれば千を超える数になっても不思議ではありません。支払口座のあるところに全部案内を郵送したとしたら、それだけでどれほどのコストがかかったことやら。
 請負(うけおい)と書いて「うけまけ」と読む業界と散々いわれていますが、案内の文面には「運命共同体」としての取引先企業の懸念の解消や解決に繋げる、一層の共存共栄を図るといった趣旨が書かれていました。
 建設業界はここのところ「例の傾いたマンション」事件のように、施工データの偽装や施工不良の隠蔽などとかく良くない話題が多かったのですが、その原因を昔ながらの「請け負け」の風土に求めるのはいたしかたないところ。元請企業の法務・コンプライアンス部門としては自社の無理強いにより施工不良が発生し、結果として企業価値を毀損することは回避したい、早期にその芽を摘んでおきたいと通報制度を立ち上げるのは必然の成り行きなのかもしれません。
 気になる点はいくつか。裾野の広いこの業界、数次にわたる請負では何も元請だけが諸々の無理強いの当事者とは限りません。中間の業者が当事者の場合もあります。このような場合でも相談や通報が入れば法務・コンプラ部門が調査や是正に入るのか。現場の工程に影響が出てまでもやるのかという点。もう一つはよくも悪くも「現場仲間」、他の職種のミス、手抜きを積極的に通報するだろうかという点。もっとも諸々のことは織り込んだうえでスタートさせたのでしょう。
 来年以降、この企業のCSRレポートにでもこの制度を発足したことや利用状況が公表されることになるでしょう。請け負けの風土を変える制度になるのか、今後が非常に気になります。

 (企業名を明記しようかと思いましたが、本制度開始のリリース等がないようでしたので伏せたままにしました)


 
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