企業法務マン迷走記2

 大船ならぬ「酔っぱらった船」に乗ったかのような企業法務担当者の日常

カテゴリ:企業法務 > リスク管理

 今年の初夏のことになるが昔見知った名前と顔を報道で見た。若い頃見知っていた顔だったが「ついにこの日が来たのか」という何ともいえない気分になった。というのもその人物の逮捕報道だったからである。

 その人物は発注側のキーマン(発注権限者)であった。駆け出しの営業担当者の頃だから、工事現場の元請との折衝は自分が担当し、キーマンへの対応は上司が引き受けていた。当時は30代後半だったか、まだ役付でもないのに相当額の発注権限を握っていて巨大企業は違うのだなと思っていたのだが、裏も癖もある人物で、上司も商社(というかブローカー的存在)を介して対応していた。上司は「お前は関わらなくてもいい」といい、商社の人間も「とかくカネがかかる」と苦笑するような、そんな人物である。仄聞すると社内でとかく噂が浮いては沈むといったことの繰り返しだったようだが、それでも組織から放逐されない何かを身に纏っていたのだろう。
 あれから30年ほどの年月が流れ当時の記憶も薄れかけていたところの報道であった。

 癖のある(かなり抽象的な表現だが)人物というのはどの企業にもいる。もともとそういう類の人間なのか「発注権限」のある業務に長く従事しているうちにそうなるのかはわからないが受注者側をうまくコントロールすることに長けているという点は共通している。そんな人物に仕事ください、何でもいうことは呑みます、手伝います、でもたまには儲けさせてくださいという欲顔丸出しの人間が近づけばいいように利用されるのは明らかである。

 内部統制、コンプライアンスが叫ばれ続けていてもなお企業不祥事が後をたたないのはなぜか。前述のような事案がぼちぼちと発生するのはなぜか。

 最近思うのは業務システム(ITということだけではない)を構築するメンバーや総務・法務などコンプラ系部門の人間が購買や販売といった仕事のうちにある危なかしさを感じる機会が限られているのではないかということ。以前社内不祥事の調査を行った際に、自社の業務システムの諸々が「皆が真面目にルールを守ること」を前提にしていたがゆえに、初めからそれを悪用しようとする人間に対しては脆弱ということがあった。業務システムを考える担当者たちは基本的に真面目で実直なタイプが多いと思うが、自分たちの基準でものを考えるだけでは不十分だろう。幅なのか深みといえばよいのか、優等生的ではない要素を交えて構築していくことが脇のしまった内部統制・コンプラになっていくのではないだろうか。(すごい抽象的で我ながら情けなくなる)

 組織論、機能論の一方でコツコツと日々の業務を遂行している「一人法務」の方も多いことと思う。ビジネス法務2019年10月号の特集記事はそんな法務担当者を支援する好企画であった。自分も一人法務と諸々の業務を抱えてきた身なので、本記事やコラムを読みながら胸をなでおろしたり反省したりであった。
 一人法務は「攻め」だの「守り」、「三線」だのいっている暇はない。
それなりの人数がいて分業制の進んだ法務部門に在籍するよりは多くの経験が積めることは間違いない。成功体験であればいうことはないし、事業撤退、訴訟、不祥事対応などの厳しい局面のそれであっても無駄にはならないと思う。
 しかしいつまでも一人法務体制でよいかということではない。「法務専任」ではなく他の業務との兼務している状況ではなおさらである。
 上場準備段階にある企業は主幹事証券会社から法務に限らず管理部門の一人体制・兼務業務の解消を指導される機会があるが、業歴もそこそこ、業績も安定している非上場企業は第三者から敢えて管理体制について指導助言を受ける機会はないだろう。一人法務または兼務体制でも十分機能していると経営陣は思っているかもしれない。

 企業の事情により一人法務、または兼任体制を敷くことはやむを得ないとしても、そのこと自体のリスクを認識すべきと思う。うまく回っているのは担当者ひとりのプライドと責任感に拠っているに過ぎないことに気づいているか。

 ではどんなリスクか?(自戒と反省も含めて)

 【責任と権限】
 総務などの管理部門の下に法務担当者として置かれる場合は特にそうだが、担当者の職務権限と責任範囲をどのように定めているか。「一人法務」で諸々責任を担わせる一方、権限は他部門担当者と同様の範囲にとどめるのか。裁量の幅を拡げるのか。このような決め事がない。
当該部門の管理者が企業法務の仕事を理解していればよいが、実質担当者に一任状況になり管理者のチェックが効かない(管理者が「わからない」)という状況にないか。
法務従事者を責任のみ管理職並み、職務権限、裁量は担当者の範囲という状況に置いていないか。

 【キャリア形成、昇給昇格の面】
 担当者がコツコツと数年業務経験を重ねていけば当然昇給昇格の時期が訪れる。
しかし「部下なし」の管理職昇格を認めないという人事方針もあるだろう。法務担当者の奮闘空しく企業の事情により増員もできない(間接部門の増員は簡単ではない)にもかかわらず、他部門と比べて不利な環境になっていないか。ラインを持たない「専門職」というポジションを設ける企業があるが、法務担当者をこのポジションに付けたら当面「法務または兼任業務」は「一人」体制のままで、専門職の責任とプライド頼みが続くことになる。
 仮に一人であっても法務諸々の部門長職に引き上げた場合にも、誰が管理責任を負うのかという課題はついて回る。一人の権限裁量を拡げれば同時にブラックボックス化のリスクが生じる。たとえ法務部門長であってもそれは例外ではない。

 自社は上場する必要もないし、それほど強固な管理体制は必要ないのではないか?
そう思っている経営陣はいるかもしれないが、例えば小規模なM&Aの当事者・対象会社になる、既存借入先からではない機関からの借入、出資が必要になる可能性はないとはいえない。管理体制の整備状況は必ず見られる。一人法務・兼任業務体制を続けざるを得ないのなら、経営陣は相応のリスクヘッジを講じなければならないと思う。彼(彼女)が「ぷっつり」切れて退社したら0人になってしまうのだから。



 更新の間が空いた理由は特になく、だらけていただけです。はい。再開です。

 今年に入って、販売部門からの問い合わせの機会が増えているものに、販売先からクラウド系サービスのアプリの導入を要請されその対応をどうしようかというもの。
 建設業界は二次元、三次元CADなど意匠・構造設計の分野では90年代からテクノロジーが導入されていたのですが、今導入どうこうというのは建設工事現場ごとに元請⇄下請業者間の工程管理や施工図、施工写真データのやりとりをクラウド系サービスで行おうというもの。ひとつの建物が着工から竣工引渡しに至るまでは数多の専門工事業種が出入りします。日程、入場する人員数、搬入するトラックの台数、使用する荷揚用リフトやエレベーターの使用する順番などなど、元請の現場担当者の工程管理にかける手間は相当なものです。慢性的な施工業者不足に加えて「働き方改革」で4週8休実現に取り組まなければならなりません。電話やfax連絡が根強く残る業界ではありますが、いよいよtech系導入待ったなしとなったと。まあ、それはいいことなのですが。

 元請から「工程管理のこのアプリを導入します」「アクセスIDとパスワード付与のために担当責任者のメアドを登録してください」というようなメールを受け取った営業担当者からの問い合わせ。営業担当者によっては「何がなんだかわからない」状態で「導入しないと仕事もらえなくなるかもしれません」と半分脅しのような要請を重ねてきます。そして情報システム部門は渋面になります。
 アプリを大別すると、①元請自社開発 ②一応法人向サービス ③個人向けカレンダーアプリレベル で、③は論外、①②も親会社含むグループの情報セキュリティー基準と照らし合わせて検討ということになります。正直、「玉石混交」といってもいい状態。なかには大手中堅元請での採用をPRされているものもありますが、それを理由に無審査で承認というわけにはいかないのが難しいところ。      
 建築業界のように多重の請負、数次の建材流通で成り立っている業界では、元請1社に採用されれば一気にそのアプリのユーザーは増えますが、ユーザーの情報セキュリティーの水準も従業員のリテラシーもバラバラ、まちまちです。こういう点をアプリメーカーはどこまで把握されているのだろうかとふと思うのです。
 先の要請に対しては、アプリメーカーと情報システム部門と直接コンタクトを取らせて諸々の確認しています。同業者によってはあまりセキュリティーのことは触れずに導入して「うちの担当者のスマホは、元請からのアプリでぱんぱんだよ」と苦笑していますけれどね。

 クラウド系サービスに対する過度な警戒は不要な時代なのかもしれませんが、突然アプリのユーザーにさせられる立場からすると、ただ「弊社のこのアプリは優れています!」というPRだけでは「それなら安心だね」とはならないのですよ。スタートアップやベンチャー企業の「功成り名遂げる」という姿勢は理解できないわけではありませんが、商品やサービスのシェア争いの前にユーザーが安心して事業者を選択できる市場を作ることも必要ではないかと思うのですよね。
 「なんだか新しくて良さそうだけど、比較対象もないし、これでほんとにいいのかな」という保守的なユーザーの気持ちも汲んでくださいな、というエントリでした。

 ようやく梅雨も明けるのでしょうか。
 
 法務の業務なのか、監査のそれなのか、毎日大小さまざまな情報が寄せられます。
社外向け文書の精査については先日もエントリをあげましたが 、何がしかの事案で発生して経過報告なり再発防止策の報告など、製造販売を営んでいるとこのような機会があるわけですね。
 原因、経過の内容をチェックしていて(といっても技術分野のすべてに通じているわけではありませんが) 気づくことは、基準やルールを設けて守られているのですが十分ではない、抜け漏れが生じているのに気づかないということが増えつつあるということ。基準やルールというものは一回定めるとよほどのことが起きない限り、年1回見直し・更新の機会を設けても「何事もなし」でスルーということがあると思います。そして気づいたときにはことが発生している。
 「基準は設けています」「ルールは守っています」がもつ危険性は、その先や周囲を考えない恐れがあるということ。そこに悪意はない、ただ思考もないという、ある意味確信犯的にルールから外れていくよりたちが悪いパターンだと自分は思っています。
 ルールメイキングという巷で取り上げられている話題とはスケールが違いますが、社内の基準やルールは変えなくてよいのか、古い基準に縛られ弊害が生じていないかなどと提起しリスクの目をつんでいくのも企業法務の仕事だと思う次第。
 

 2000年代初頭、次期マネージャー対象の社内研修講師をしていた頃の話。カリキュラムの導入は当時人気があった「プロジェクトX」を教材に(当然許諾は得ての話)したグループディスカッション。「プロジェクトが成功した要因は何か」という設問に対して、題材となった企業のせいもあってか、どの研修回でも必ず「企業風土、社風がよかったから」という回答が上がったものです。
 企業不祥事があとを絶たない今、「不祥事が発生した、防止できなかった要因は何か」と問えば「企業風土、社風が悪いから」という回答が返ってくるのでしょうか。
 研修では「企業風土や社風は誰がどのように作っているとお考えですか」 とフィードバックしたものです。

 おや?と思って手にとった「『企業文化』の監査プログラム」(稲垣浩二著 同文舘出版 2018年)。
 著者はトーマツのパートナーです。おや?と思った理由は、会計、会計監査系の書籍のタイトルで「企業文化」の文言が含まれているのをあまり見かけたことがなかったからです。自分が知らないだけかもしれません、他にもたくさん出版されているよ!ということでしたらご容赦)。想定読者は若手会計士と思われます。不正会計や不正ではないけれども誤った会計処理に対する指摘、助言だけでは問題は解決しない、もっと具体的に企業にアイデアを提供することが必要で、その対象の一つが「企業文化」である、というのが本書の建てつけと理解しました。

 企業経営の生々しい実情に通じているのは法務側よりもむしろ会計側というのが実感としてあります。だからこそ企業法務担当者も財務・経理部門と立ち話ができる程度の会計知識は必要だと思っているのですが、会計側からも「企業文化」にアプローチしてくるなら、不正抑止、不祥事防止に関しては部門間の距離を縮めて取り組むことができるかもしれません。

 とはいえ企業文化というものは複雑怪奇です。自分の勤務先のように資本の出し手が2回変わったにもかかわらず本書でいうような伝統的な日本企業の慣習が抜けきったとはいえないのが実情です。
 内部監査でもって何をどう確認し、経営者サイドにどのような是正提案をしていくか。けっこうな課題を抱えたものだと改めて思うのでした。





 

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